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第五話 「部活」

 加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


今は女子と手をつないだり離したり、たまに指摘されたりしているが。


すべての授業を終えた金曜日、休日を目の前にしている。本来ならすぐさま帰宅するが。


しかし俺は部室で若菜とペアダンスの練習に励んでいた。自主練というやつだ。

そんな俺たちを暇そうに優佑が見ながら、時折茶々を入れてくる。


部が設立されたから二週間ほどたっただろうか、体育祭がだんだんと見えてきた頃だ。

牧の思い付きでできてしまった俺の性転換現象をもとに戻すサポートをするための部活。

あの後、牧は山城先生に直接交渉しに行ったのだ。


まあ、当然ながら恋愛部などという頭の悪そうなものは却下されたが。


「しかし暇だよな~」

「ほんとその場のノリでできた部活だもんね……。」


この部活は学生支援部となった。一応、体裁としては。

山城先生の提案だったことと、過去にあった部活で学校側に申請しやすいことが理由だ。

しかし、その現状は暇を持て余していて、せいぜいたまに来る山城先生の雑用をしている。


本当なら、学生のより良い学校生活のために動く部活なのだが。

手伝いを求めに来た生徒と交流し、俺に出会いを与えるという牧たちの目的もあったりする。

決して俺の目的ではない。


だがこうも人が来ないとは。


「牧と双真はほかの部活でなかなか来れないしよ」

「実質俺らだけの部活だもんな」

「琴音ちゃんの提案なんだけどね」


若菜が苦笑いしている。確かに言い出しっぺの牧が来れないというのはどうだろう。


いつものように駄弁っていると突然ドアが開いた。

三人が一斉に振り返ると、


「よう、やってるか?」

「なんだ先生かよ」

「おいおいなんだとなんだ、顧問だぞ私は」


三人ともため息が出た。

また雑用を押し付けられるのだろうか、言っても今俺は女の子で非力なんですが?

力仕事は全部優佑にお願いします。


「しかしこうしてみると木崎、幸せじゃないか。可愛い女子二人を眺められる部活で」

「否定はしないです」


否定しろよ。主に女子二人のとこ。


「俺男子なんですが優佑君?」

「い、今の君付け効いたわ!」


もうやだこの子……。何言っても養分にしちゃうじゃないですか……。


「仲がよさそうで何より」

「ところで先生は何しに来たんですか?」


若菜が聞いてしまった。

このまま要件を忘れさせて帰そうかと思ってたのに。


先生は言われて思い出したのか、二枚の紙をポケットから取り出した。


「これを加賀美と若菜にあげようと思ってね」

「こ、これって……!」

「俺には?」


俺にはよくわからなかったが若菜の目が輝いていた。


「ああそうだ、最近駅前にできたパンケーキの店の優待券だよ」

「え、俺の分は?」


そういえば何やら駅前に行列ができてたな。


「この券があれば並ばなくていいし、割引もしてくれる。」

「へぇ~、結構すごいものじゃないんですか?」

「知り合いにここの店主と仲のいいやつがいてね。そいつと行ってきたんだが、その時の余りををもらったんだ」

「あれ、俺のこと見えてないのかな?さっきまで話してたよね?」


いい加減優佑に反応してやろうと思っていたとき、


「加賀美君!絶対行こうね!」


いつもの若菜の三倍くらいの声量だった。

若菜って甘いものに目がなかったのか……?


「みんなしておれをむしする……。」

「わ、悪かったって」


優佑が泣きそうな顔をしていたので慌てて反応する。


「ただ、本当に申し訳ないんだが……」


そういって優佑に優待券を見せた。


「女性……限定……。」

「そういえば店主がSNSで広めてほしいと言っていたな」


このご時世そういう発信源が大事なんだろうな。

恐る恐る優佑の方を見ると、


意外にも安堵の表情を見せていた。


「じゃあ俺はいけないか!女性限定だもんな!」


なんだこいつ仲間外れとかに弱いのか?

優佑は自分が券を使えない理由を嬉しそうに確認していた。

ちょっと意地悪しすぎたかもな。なんか今の優佑かわいそうに見える。




結局、俺と若菜はその優待券を受け取った。

山城先生曰く、普段の雑用のお礼でもあるらしい。


その日はそのまま帰路についた。


若菜とは日曜日にその店に行くことにした。

ていうか、俺は女性限定の券使っていいのか?

一応、中身は男なんだがな。


そんなことを悩んでいると一件のメッセージが来ていることに気が付いた。

若菜からだ。


『当日はちゃんと女の子の服装で来るんだよ?』


失念していた。

いつもの休日は家にいるか、優佑や双真と遊びに行くくらいで服装は今までの男物で過ごしていた。

何度か姉が女物の服を着せようとしていたが、必要ないからと拒否していたが……。


さすがに今回ばかりは男物では不自然だ。


『姉ちゃんに借りるわ……。』

『楽しみにしてるからね!』


俺は足取り重く、姉の部屋のドアをノックした。


「姉ちゃんさ……、日曜に服貸してくれない……?」


姉弟でこんな会話普通はしないよなぁ……。

俺はなんだか虚しさを感じた。





















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