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第四話 「先生」

 加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


今は職員室で女性教師からじろじろと見られているが。


「加賀美、お前昨日まで男だったよな?」


日常ではまず無いであろう質問をかましてきたこの教師

山城 美佳(やましろ みか)先生である。


さばさばとした雰囲気とフレンドリーな態度が生徒から人気の女性教師で、

担当科目は日本史。詳しい年齢は教えてくれないが、30代くらいだろうか。


「意味わからないですよ、元から女です。」


面倒なことになりそうだと感じたから、ごまかせないか試してみた。


「うーん、でもなんか違和感あるんだよなぁ」

「気のせいでは」


冷たく言い放って見せる。

というか聞いてないぞ、神様。こんな中途半端に違和感感じる人もいるとか。


先生は去年のクラスでも担任だったので、近しいといえば近しい。

しかし、そこまででしかない。優佑達のような親交があるわけではないのにと考えていると

先生はとんでもない質問をし始めた。



「お前、自分のことを神様だとかいうヤツにあってないか?」



……ちょっと待て、いきなり質問がピンポイントすぎる。

先生は俺が動揺を隠しきれてないのを見逃さなかった。


「やっぱりお前、男だったろ」

「ど、どうしてそう思うんですか……?」

「私も同じ経験をしたことがあるんだよ」


先生はこの現象に関しても先生だった。




その後も先生からいろんな質問をされたがまぁ適格なんだこれが。

そりゃそうだ先生は経験者だからな。


もしかしたら経験者だから、俺の性転換が何となく感じられたのかもしれない。


ありえねぇ……。自分以外にもこんなこと起こった人いたとはな……。

まて、まさか先生はもともと男で今も現象の被害者なのか……!?


「私も高校生の時に今の加賀美と同じような現象があったよ、私の場合は男にされていたが」


よかった。本当によかった。先生のことどう見ればいいか分からなくなるところだった。

それに先生が元に戻れていなかったら、俺のこの先にも大きな不安が残る。


「先生はどのくらいの期間で元に戻れたんですか?」

「だいたい一年くらいだったと記憶している。」


だが、と先生が続ける


「神様もどきにも言われなかったか? 愛する人を見つけろって」

「確かに言われたような気がしますが……」

「私は現象が起こってから一年ほどでその相手を見つけられた。」

「ということは、相手を見つけないと戻れないとか?」

「その可能性は十分にある。」


これはまずいことになった。俺がそんな相手を見つけるなんて未来永劫ない。

俺が加賀美家の末代だ。


「もしかしたら俺、戻れないかもしれないです」

「私も昔はそう思っていたよ。」

「先生が?」

「ああそうだ。私だって高校時代は恋愛に興味がなかったさ」


意外だった。先生は既婚者だ。

人気な先生がよくされる質問、「恋人いますか?」にかっこよく答えていたからな。

あの質問、先生に何を求めてるんだ。


「私は部活ばっかりしていたし、そんなこと考えてる暇がなかっただけかもしれないがね」

「俺は変われるんでしょうか」

「すぐには無理かもしれないが、変われるさ」


それこそ一年以上かかってしまうかもしれない。

でも、経験者で先生である人の言葉はなんだか安心感があった。




先生は最後に困ったことや相談事があったら経験者のところに来いと言ってくれた。

いい先生だ。人気があるのも納得がいく。


教室に戻るといきなり雄介が絡んできた。

ステーキかお前は。


「これはこれは呼び出し食らった蒼君ではないですか!」

「うるせぇ、なんでそんなにテンション高いんだよ。」

「なんて怒られたんだよ?」

「残念ながら怒られてないんだわ。」


えぇー、と優佑が不満そうな顔をしていると

若菜が小走りでこちらに向かってきた。


「大丈夫だった?」

「ああ、特に何もなかったよ。」

「そっか良かった~、私のせいで怒られてたらどうしようかと」


メッセージではあんなこと言ってたが、なんだかんだ心配してくれていたみたいだ。


「あ、そうだ。牧と双真は?」

「なんか用があるの?」

「若菜と優佑にもな。」

「俺呼んでくるよ」


そういって優佑は二人を連れてきてくれた。


全員がそろったところで、俺は職員室でのことを話した。

主に先生がこの現象の経験者であることを。


「あの山城先生が……なるほどね。」

「かっこいいと思ってたけど、男だったことがあるの関係してるのかな?」


若菜と牧は意外と納得がいっているみたいだが

双真と優佑はこそこそ何か話していた。


よくよく聞いてみれば

「あの胸が~……」とか「男のとき……巨乳が……」とか。

聞かなきゃよかった。


なんでかはよくわからないがイラっとした。

自分の目線を下げてみると余計にイラっとした。よくわからないが。


とにかく協力者が増えたことは大きい。

この体で慣れないことについては聞きに行きやすいしな。

安心できそうな予感がしていたが、


「だったらさ!この五人での部活作らない?」


突然牧が言い出した。


「なるほど、顧問の先生には山城先生がいれば!」

「加賀美君をサポートできるもんね!」

「蒼が元に戻るお手伝いになればいいね~」


いいのか? 俺のサポートをする部活とかあって。

いや、大変ありがたいのは確かなのだが。


「どんな部活にするんだ?」


そう聞くと、

牧の顔があまりにもニコニコしていて、何やら嬉しそうなオーラがにじみ出ていた。

嫌な予感がする。


「その名も恋愛部よ!」


俺が抱いていた安心感はどこかに吹き飛んだ。











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