第三話 「現象」
加賀美 蒼は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。
今は絶賛神のいたずら中で性別が逆転しているが。
いつものように学校に行く準備をしていた。
昨日の夜、自称地元の神様のよって今この身に起きている超常現象(?)の説明があったが、
そう簡単に受け入れられるものではない。
朝から今後のことを考えては鬱になりかけていたところに姉が起きてきた。
姉にも自分の性転換現象を伝えておくか……。
一応このポンコツでも使えるときが来るかもしれんからな。
「それはまた夢のような話だね~」
「悪夢だ」
「それに仲いい人にしか性転換はばれないんでしょ?」
「また説明するのが面倒だけどな。」
「いっそのこと楽しんじゃえよ! 女の子の人生!」
楽観的だとは思っていたがここまでとはな。
すると姉は「そうだ」と不穏な響きを残して自室に戻り、またすぐに帰って来たのだが
その手にはうちの高校のスカートがあった。
「いやいやまてまて」
「似合うと思うぞ~、なんたって女の子だからね!」
いくら性転換したとはいえ、わざわざそんなもの必要なくないか!?
「近しい人以外には元から女の子だったように見えるなら必要でしょ」
……そうか、確かに校則という壁があったか。なかなか変なところは鋭い。
正直なかなかに躊躇したが、致し方ないため観念した。
姉はなんだかテンション爆上げ、とかいう感じだったが。
女の子としての初登校は少しドキドキした。主にスカートのせいで。
え、女子っていつもこんなの履いてるの……? 防御力なさすぎない……?
などと考えていたら駅で優佑に出くわした。
とはいえ、今の姿ならすぐにはばれないか。と思っていた矢先、
「お、蒼じゃん」
声かけられたわ。え、なに、なんでわかんの?
姉でさえ疑った姿を一瞬で見抜くとはどういうことだよ。
しかしながら、やはり制服が女子のものだったからか
「あれ!? ひとちがいでした!? すみません!」
いや最初に気づけよ。
しかしちょうどいいか、どうせ説明しなきゃいけないしな。
「あってるよ、加賀美 蒼だ」
「え!? は!? いや女子じゃん……?」
「その、いろいろあってな。」
俺は優佑に事情を話した。
「はぇ~、そんなことあるんだな~」
「信じちゃうのかよ……」
こっちが心配するくらいすんなり信じてしまった。
この男、いいやつなのか馬鹿なのか。 十中八九馬鹿だからだな。うん。
「まあでも、冴えない感じとか、無気力な感じのオーラとかそっくりだったしな。」
「俺ってそんなに冴えないのかよ。」
自分で言うのは何だが少しビジュアルには自信あったんだがな……。
姉にも友達にも言われたのなら、他人からはなおさらそういう風に見えてそうなのが怖い。
「でも、あれだな、なかなか美人さんなんじゃねぇの……?」
「そ、そうかよ。」
急に褒めるなよ恥ずかしいだろうが、あときもい。
それに優佑に言われて少し喜んでしまっている自分が何よりも気持ち悪い。
言ってもこいつ、ツラはかなりいい方だからな……。
少し気まずくなっていたところに若菜が合流した。
「おはよ~……!?」
なんだか眠気が吹っ飛んだような顔をしていたが
急に慌てて
「ご、ごめんね!? 木崎君彼女と登校してたんだ!?」
とだけ残すと足早に先を行ってしまった。
とんでもない勘違いしてるな若菜。てかこいつと恋人嫌なんだが。
優佑もまんざらでもない顔やめてくれ。
「もし、彼女出来たら一緒に登校とかできるのか…! したいなぁ~!」
あ、違った。妄想してただけだったわ。
紛らわしいしきもい。朝だけですでに二回きもい優佑は恍惚とした表情で動かなかったので一人で行くことにした。
学校についてからはとりあえず仲間内に説明と証明をするので精いっぱいだった。
最後にはみんな信じてくれた。いや、よく信じられるなこんなこと。とはいえ、
若菜の誤解も何とか解けたいみたいだ。最終的には、
「よく考えたら木崎君に彼女出来るわけないもんね」
とか言ってたが。そんなことよく考えないでもわかりきったことだろ。
しかし、俺の中ではもう一つの懸念点が残っていた。
若菜とのペアダンスだ。一応女子と女子でも組めるのだが、少しばかり周りから浮いてしまう。
若菜はそれでもいいのだろうか。
「若菜、ペアダンスの相手俺のままでいいのか?今女子なんだけど……」
「ちょっと待て、蒼」
優佑が割って入ってきた。
「俺らそんな話聞いてないなぁ!?」
「あんたいつ心とペアなったのよ!?」
「昨日の時点ではまだペアいなかったよね」
牧と双真もぐいぐい質問してくる。優佑だけは抜け駆けに対する怒りを感じるが。
「昨日の帰りに私から誘ったの!」
「そ、そういうことなんで……」
若菜が間に入ってくれたことで皆少し落ち着いた。
「へぇ~心からねぇ」
「若菜やるじゃん」
「うらやましいぞ蒼……」
まて、落ち着いたようで変わってなかった。
この後は先生が教室に入ってくるまで若菜が質問攻めにされることになってしまった。
すまない……若菜……。俺にはどうすることもできないんだ……。
先生が教室に入ってきたことで、生徒たちは自分の席につき始めた。
若菜もようやく解放されたみたいだ。
先生が朝のホームルームを始めたとき、携帯にメッセージが来ていた。
『さっき助けてあげたのに』
若菜の方を見ると少し膨れているか。
『ごめんって、ああなった牧と優佑は止められないから』
謝罪の意思を表すスタンプといっしょに送る。
『まーいいよ』
『あと、ペアはこのまま継続の方向で……』
そのメッセージの下には女の子らしい可愛い動物のスタンプがついていた。
「何みてニヤついてんだー、加賀美ぃ」
しまった、先生に見つかってしまった。
顔上げて「すんません」と短く謝る。
しかし、先生の表情は素っ頓狂なものだった。
「加賀美……おまえ……」
いや、いい とすぐに元の表情に戻ったがまさか性転換がばれてるのか?
それにしてはすんなりスルーしすぎのような感じもするが。
「とりあえず、後で職員室に来なさい」
最悪だ。こんなことで呼び出しを食らってしまうとは思いもしなかった。
やはり、何かこの現象について何かあるのだろうか。
後ろの席から「ざまぁw」とふざけた声がしたから
流れるようにノールックで裏拳をかましておいた。
優佑の鼻にクリーンヒット。右の手の甲に鼻血がついてしまったが。
しまおうとした携帯には
『私を助けなかった天罰だね』
とメッセージが表示されていた。