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第二話 「神様」

加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


というか現在は絶食系女子になるのだろうか。


 大変困ったことになった。学校から下校したら女の子になってしまった。いや、わけわからねぇから。

わからないがおそらくはあの灯籠のせいであるとは思う…。しかし確証もなければ現実的でもない。


幸い、俺の両親は今は仕事の関係で地方で暮らしている。この緊急事態に面倒なことはすぐには起きそうにないか。そう考えたときだった。


「ただいま~」


突然の帰宅にビクッとしてしまった。


「あれ?蒼帰ってないの~?」


まずいまずいまずいまずい。


「あ、いるじゃん。いるなら返事くらい…」

「…おかえり」

「は…? 誰…!?」


こんな時に限って姉の帰りが早かった。


「ち、違うんだ! 俺だよ俺!」

「誰よあんた! 人の家で何してるわけ!?」

「俺だって! 蒼だよ! あんたの弟!」

「弟ならせめて男でありなさいよ!」


学校にいたときまでは男であったのだが。


「と、とりあえず警察に…!」

「だから俺が蒼なんだってばぁ! 加賀美 蒼!」

「なら、蒼が私のことなんて呼ぶか言ってみなさいよ!」

「ね、『姉ちゃん』」

「ハイ残念、正解は『お姉さま』でした!」

「ンな風に呼んだことねえよ!?」


帰宅した姉との言い合い、一歩間違えれば警察沙汰だったのだが、はほどなくして落ち着いた。

姉の質問攻めにきちんと答えられた点が少し信用をつかめたのかもしれない。


それに少し冷静になったのか、俺の来ている服やリュックで本当に弟かもしれないと思い始めているようだった。


「ほ、本当に蒼なの…?」

「最初からそう言ってるだろ?」

「なんで、女の子に…?」

「俺が知りたいわ」


弟が妹に…?とかぶつぶつ言ってたが、最後には信じたみたいで


「とにかく、制服スカートにしなきゃね」

「なぜそうなる」


この状況をすでに楽しみ始めやがった。




この少し残念な感じの姉は加賀美 京香(かがみ きょうか)。三つ上の大学二年生だ。

抜けてることが多く弟に心配されることがしばしばあるが、いざというときには意外と頼りになる人だ。


「しかし、どうしたものかねぇ~」


ニコニコしながら言うな。こっちは真剣に頭抱えてんだ。このお気楽頭めが。

姉をにらみながらそんなことを考えていると


「でもどうするのよ、学校とか」

「性転換したことにするとか…?」

「それに、お友達にも説明しなきゃ」

「言えない…。性転換したとかいう嘘つきたくない…。」


何が悲しくてそんな虚言しなくてはならんのだ。

第一、信用してもらえるかすらわからない。


「でもよく見たら蒼の顔してるわ、ほどほどに整ってるけどどこか冴えない感じの。」

「ねぇ、悪口言ってる?」

「女の子でもいけるんじゃないかとは思ってたけどここまでとはね」

「弟にどんな想像してたんだアンタ」


姉曰く、かわいい部類には入るらしい。う、うれしくはないぞ?

結局「まぁ何とかなるわよ」とか言って自室に戻ってしまった。


正直どうすることもできないし、俺自身もなるようにしかならないかと考えていた。




その日の夜、部屋でそろそろ寝るかとしていた時だった。

ドアが開いて、姉が入ってきた。


「ノックくらいしてくれない?」


と、睡眠に入ろうとしていたところを邪魔されたので、強めに言ってみる。

しかし


「加賀美 蒼君、こんばんわ」


とか意味の分からない返事をが返ってきた。

また、変なノリをおっぱじめたかと思い、無視して寝ようとすると


「ちょちょちょ、待って、寝ないで」

「ただでさえなれない体で疲れたから寝させてくれよ」

「その君の体についての話だ」


なんだ? さっきはどうしようもないとか言って部屋に戻ったくせに。

また、興味が湧いてきたのか?


「私は君のお姉さんではない」

「おやすみ」


くだらねぇ。なんだその使い古されたようなセリフは。


「寝ないで、頼むから!」


やけに必死だな…。いつもならあきらめるかと思ったのだが。


「君、この町にある神社を知っているだろう?」


唐突に何の話だろうか。


「まぁ、知ってるけど」


この町の神社はあまり大きくはないこじんまりとしたものだが、毎年夏祭りがあって小さいころからなじみのある場所でもある。


「そこがどうかしたの」


少しぶっきらぼうにきいた。


「私はそこにまつられている者だ」

「はぁ? 深夜でもないのに深夜テンションなの?」

「本当だ、今は君の姉の体に憑依して君と会話しているが」


とうとう頭がおかしくなったのかと思ったが、なぜだか説得力があるように感じてしまった。

いつもなら信じないが、自分の体にこんなことが起こった後だったからだろうか。


「で、神様が俺の体の変化について何か知っているのか?」

「もちろんだとも、そもそも君の体を女体化したのは紛れもないこのわたたたたたた!」


つい胸倉つかんでしまった。

しかしこいつがすべての元凶か。手離さなくてもいいか。


「く、くるじい…!」


だがこのままでは神様と一緒に姉も天国行きになってしまう。

神様はもともと天国にいるし、姉の脳内も天国のようなものだから変わらないか。


冗談はさておき手を放してやると、呼吸を整えながら話し始めた。


「私の神社はね、縁結びのご利益があるのさ」

「聞いたことはある」

「だが、君はどうやら恋愛に興味がないみたいじゃないか」

「…別にいいだろ」

「よくないさ、私としてはね」


まさか、そんなくだらない理由で俺を女の子にしたのかこいつ…?

もう一度胸倉つかんでやろうとすると


「き、君にも人を愛することの尊さを知ってほしいと思ったのさ!」


慌てながらそれっぽいことを言ってきた。

不覚にも少し、反応してしまった。


「性別なんて気にしなくてもいい。他人を大切に思い、特別愛することのすばらしさをそんな若いうちから捨てないでほしいんだ…。」

「…」

「君も本当は人を愛し、愛されることを心の奥では求めているんじゃないのか?」


そんなこと、わからない。

俺はほかの女の子に対してそんな風に考えたことなんてなかったし、自分には恋愛なんて無理だと諦めてもいた。絶食なんだと思っていた。


実際、考えが及ぶ中では恋愛がしたいだなんて思ってもない。

が、本当はどうかはすでに分からなくなってしまっていた。


「君から変わっていくのは難しいと思ってね、いろいろと問題がありすぎる。」


そこで、と調子を取り戻した神様は


「君を女の子にすることで君の周りから君を変える何かを起こしてもらうことにした。」

「周りを…」

「ああ、だから君が女の子になったことは君に近しい人しかわからない。」


少し安心した。ほかの人からは元から女の子だったように見えているということだろうか。

すると神様は最後に


「君が本当に愛することができる人を選べるときを待っているよ。」


とだけ残して行ってしまったようだ。

先まで雄弁に話していた姉はいつの間にか眠ってしまっている。

本当に神様だったのだろうか…。


眠った姉を姉の部屋に運び終えた後、眠りにつくことにした。








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