第十九話 「贈物」
加賀美 蒼は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。
今日は例の依頼者、永原君のための会議である。
「というわけで、まずは告白のための場所と日にちを決めちゃおう」
「そっから逆算して必要なことを決めていく形になるのか」
優佑もすっかり治って今は部活に来ている。
「永原君、お相手とは仲いい方なんだよね?」
「部活も同じですし、よく遊びに行ったりも。自分としてはそうだと思います。」
「ま、相手がそう思ってるかは分からないけどねぇ~」
「芳野君、そういうこと言っちゃだめだよ」
しかしまあ今回俺は役に立たなさそうだな。
自分の恋愛でさえ最近になってようやく自覚し始めたのに、他人のなんて未だ興味が湧くわけがない。
仕事だからやるはやるけどね。
そんなやる気のないことを考えていると牧が宣言した。
「ならば夏休み中に告白しちゃおう!」
「ええっ!?」
何言ってんだよ、永原君驚いちゃってんぞ。
「琴音ちゃん、いくら何でも早いんじゃないかな?」
「いや、私には勝算がある!」
「ほほう勝算とは?」
そう優佑が聞くと牧は一枚の紙を取り出した。
「これだよ!」
「夏祭りのポスターか?これ」
「琴音ちゃんこれ持ってきちゃダメなんじゃ……」
ここらが地元である俺と若菜はなじみ深く、
この高校に通っている学生たちにもそれなりに認知度のある祭りだ。
毎年この時期になるとポスターが張り出されている。もちろん剥がして持ってきていいものではない。
「ここで告白してもらおうかと!」
「つってももうすぐじゃねえか」
「大丈夫大丈夫!このお祭りの神社、縁結びの神社らしいから!」
ああ……その縁結びの神様があれだからな……。不安だ。
ただ神社は小さいが祭りの規模はそれなりに大きい。チャンスくらいはあるかもしれないな。
「ならさ、プレゼントとか買っていけばいいんじゃないかな~」
いつものゆる~い喋り方で双真が提案する。
「当日に買えるものって限られてるし」
「確かに……。その案もらったぁ!」
「で、でも何買えばいいんでしょう……。」
永原君が困ったような顔をしている。
「難しいところだね」
「難しいことないよ加賀美!そのために私たちがいるんでしょうが!」
「う、うん、そうだったねごめん」
「そうと決まったら早速買いに行こうぜ!」
いろいろ決まってきたからか、牧と優佑のテンションがやたら高い。
牧はいいとして優佑はウザさを感じるな。いつもウザい今はその三倍くらいウザい。
だが夏祭りまではあまり時間がない。
結局。隣の駅のショッピングモールまでみんなで行くことになった。
さて、ついたのはいいが。
なんでこうも早く牧はいなくなってしまうんだろうか。ついでに優佑もいない。
一番盛り上がっていた二人が突っ走っていってしまい、永原君を置き去りにしている。
なあ、お前ら馬鹿なのか?馬鹿なんだろ?ていうか馬鹿だわ。少なくとも牧は馬だったな。
「ごめんね、永原君……。うちのバカ二人が……。」
「い、いや、いいんです。相談にのってくれてるだけでありがたいので……。」
いい子や……。永原君いい子や……。
「まー、あの二人はそのうち見つかるとして早速プレゼント探そうか~」
「そうだね!永原君、相手の女の子の特徴とかある?」
双真と若菜がしっかり依頼を遂行している。やはり後であの二人にはお説教が必要だな。
「そうですね……。真面目で優しいところとか笑うと可愛いとこ、とか」
「あ、えっと……趣味とか聞きたかったんだけど、なんかごめんね……?」
「え!あ、ごめんなさい!」
「ほんとに好きなんだねぇ~」
「ほら双真茶化さないの」
でもすごいな。本気で好きになるってこういうことなんだろうか。
俺はこれが言えるくらいにならないといけないってことか?
「特徴としては可愛いものがすごい好きっていうのはありますね」
「可愛いものね……。」
「髪留めとかは? 女の子だし」
「あ、その人あまり髪長くないので」
「なるほどねぇ」
永原君のいうことを参考にいろんなお店をめぐる。
……こんだけ回ってて見つからないとはあいつらどこにいるんだ?
するととある店の前で若菜が足を止めた。
「どうした?若菜」
「あの、これとかどうかなって」
若菜が指さしたものはブレスレットだった。
派手ではないが一部薄い桃色の猫のような意匠がなされている。たしかに可愛いなこれ。
「あ……いいです!いいですこれ!これにします!」
「ほんと? よかった」
「ありがとうございます!早速これ買ってきますっ」
そういって永原君はレジへと向かっていった。かなり気に入ったみたいだ。
「お手柄だね、若菜」
「えへへ、びびびっと来ちゃいまして」
とりあえずプレゼントは決まったし、今日は解散かと思ったとき
牧と優佑がすっ飛んできた。
「あ、いたいた!」
「お~い!いいの見つけたぞ!」
「あれ? 永原君は?」
「ほら、ちょうど今買ってきたところだぞ」
永原君が店から出てくる。牧と優佑は崩れ落ちる。
「そ、そんな」
「勝手に行った牧たちがわるいんじゃないかなぁ」
「せっかく買ってきたのに……。」
「それに永原君が自分で決めないとだめだと思うよ?」
「あ、でも、そのよければ一緒にそれも渡そうかな……。」
「「ほんとに!?」」
牧と優佑が一気に元気を取り戻す。すみませんほんとに、うちのが迷惑かけて……。
永原君が人格者でよかったな、お前ら。
「で? 何買ってきたんだよ」
「これこれ」
そういって牧が取り出したのはまさかのさっき買ったブレスレットだった。
色が桃色ではなく水色だが。
「え、これって……。」
「まさかの色違いだねぇ」
「へ?どういうこと?」
若菜と双真が驚いている中、牧はわかってないみたいだ。
「いや、永原君が買ったのこれの色違いなんだよ」
「あー!ほんとだここ俺らがこれ買ったお店じゃん!」
「ほんとだ!」
どうやら買ってからは俺らを探しまわってたみたいだ。
てか、最初にこれに気づかないって。やっぱお前ら馬鹿だったんだな。
「となると、これは片方は永原君が持っててお揃いにしたら~?」
「いいじゃんそれ!ナイス芳野!」
「じゃ、じゃあそうしようかな」
永原君の顔が少し赤くなっている。お揃いは流石に照れるみたいだ。
ま、何はともあれいい買い物ができたんじゃないかな。
そして無事プレゼント選びが終了した俺たちは帰路につくことに。
楽し気に永原君を囲みながら談笑している。
その時優佑が少し後ろから小声で話しかけてきた。
「蒼」
「ん?どうしたの?」
振り向き足が止まる。若菜たちと距離が開いた。
「いや、さっきのを買ったときこれも買っててな」
優佑が袋から何か取り出した。
「これは、ヘアピン?」
飾らないベーシックな形をしているがきれいな青をしている。
「それ、蒼にやる。」
「えっ、なんで急に」
「……なんでもいいだろ、受け取れよ」
「あ、ありがと」
「おう」
それだけ言って優佑は前の若菜たちのところへに走っていった。
ああーもう。やめてほしいなぁこういうことするの。
嬉しくなっちゃうし、この前のこと思い出しちゃうから。
顔がにやけそうなのをこらえながら
私も走り出した。