第十八話 「看病」
加賀美 蒼は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。
今はここ最近出来事のせいで嫌でも恋愛について考えさせられているが。
秋宮君とデートした翌日。
俺はベッドから動けずにいた。
海に行った時から周りの変化にいよいよ対応できなくなっている気がする。
若菜の行動、優佑の真意、秋宮君の告白。
俺はどうしたらいいんだろうか。
そもそも中身が男、見た目は女だ。どちらの性別を好きになればいいのかすら分からなくなってきている。
そんなことを考えていたとき、携帯に一件のメッセージが届いた。
牧からだ。
『学生支援部、至急部室にて集合!』
また急だな……。優佑に会うのが少し怖いが行くとしよう。
他のメンバーに迷惑かけたくないしな。
制服に着替えた俺は学校に向かう。
「加賀美君」
「おう、若菜か」
道中で若菜に会う。珍しく慌てて家を出たのか髪が一部整っていない。
「髪、こことか跳ねっちゃってるよ?」
俺は手で若菜の髪を直した。
「あ、ありがと……。」
「若菜がこんな風になってるの珍しいな」
「だって琴音ちゃん急に集合だなんていうから」
「たしかに、なんなんだろうな」
「……よりによって加賀美君にこんな姿見られるとは」
「なんか言ったか?」
危ない危ない。ほんとに若菜の行動には困らせられる。
今のだって聞こえてはいた。聞こえてはいたが、お悩み状態の俺が深く聞いてはいけないだろう。
若菜の行動の理由を聞くのには、俺の中で答えを出してからじゃなきゃいけないと思う。
今はまだ、覚悟も余裕もない。
しばらく歩いてようやく学校に到着。
部室へと真っすぐ向かい、ドアを開ける。
「お、蒼じゃ~ん」
「よ、双真」
「心も来たね」
「琴音ちゃん今日部活は?」
「今日は男子も女子も休み。だから双真もこうしているの」
あれ、優佑が来ていないみたいだが……。まさか俺のせいじゃないだろうな。
と不安になっているとドアが再び開く。
しかし、入ってきたのは先生だった。
「よし、全員そろったな」
「あの、優佑がまだみたいなんですけど……。」
「加賀美に連絡行ってないのか? 木崎は絶賛風邪引き中だぞ」
「え、そ、そうなんですか。」
「加賀美知らなかったの?」
「ああ、うん……。」
知らなかった。どうやら知らなかったのは俺だけみたいだ……。
ということは優佑はまだ怒っているのかもしれない。いや、絶対そうだ。
「とにかく、今回集まってもらったのは手伝いを求める生徒が来たからだ。」
「ほんとですか!?」
「うわー、前田さん以来久々だよ!」
「しかも前田さんの時は俺と牧はいなかったもんねー」
「今回の内容はなにやら私ら教員には伝えにくいようでな、君たちを頼ることにしたみたいだ。」
ほら、入って。と先生に言われた入ってきたのは知らない男子生徒だ。
「は、初めまして。僕、永原 晴輝といいます。」
「どうもどうも! 私たちが学生支援部です! 私、部長の牧 琴音ね、よろしく!」
「よ、よろしく」
牧がテンション高らかに自己紹介をする。俺たち残りのメンバーもそれに続いた。
自己紹介が終わるとすぐさま若菜が永原君に聞いた。
「で、早速だけど手伝ってほしいことって何かな?」
「それは、ですね……なんといいますか」
そうして永原君は話し始めたのだが、何やらもじもじしていて要領を得ない。
俺はそれを見かねて少し強めに聞いてしまった。
「誰にも言いふらしたりしないから、教えてくれないかな?」
「あっ……ごめんなさい」
「加賀美、言い方気を付けてよね」
「だって話進まなさそうだったんだもん」
「いいんです、僕がすぐ言わなかったのが悪いんで……。」
永原君は意を決しような表情をしていた。
そして口を開き、
「こっ、告白の手伝いをしてほしくて!」
時は過ぎ、今は帰り道。
正直意外だった。永原君の雰囲気からあんな依頼が飛んでくるとはな。
牧と若菜はすごい乗り気だったが。
まあ、内容としては日取りや場所の提案、
その他アドバイスなどを一緒に考えてほしいといったものだから、そこまで面倒じゃないと思う。
そんなことよりもだ。
今回の件を伝えつつ様子を見てほしいと優佑の家に行くよう先生に頼まれてしまった方が問題だ。
俺と優佑が喧嘩中なのは秋宮君くらいしか知らない。
そこで仲が一番いいということで俺に白羽の矢が立ったのである。
そして、優佑の家につく。一年生の時に何回かお邪魔したことがある。
インターホンを押すと優佑が出てきた。
「あ……?蒼?」
「優佑!? ご両親はいないの?」
「二人とも仕事だよ……。」
「そ、そうなんだ……。て、ごめんね押しかけちゃって」
「……何の用だよ」
「今日部活に依頼者が来て、それで部活が夏休み中もあることを伝えに」
「それだけか?」
「あとは、優佑の様子を見に来た……。」
「……そうか」
そう言ったとき優佑がふらついた。思わず抱き留める。
辛そうな顔をしている、まだ熱とかも下がってないのだろうか。
「いろいろ買ってきたから、ベッドに行こ?」
「なんか、それ、女の子の声で聴くといいな……。」
「こんな時まで何言ってんの、ほら肩貸すからさ」
とりあえずベッドまで優佑を連れて来た。
熱を測ってみたが結構高い。薬飲んでしばらくは安静にしてもらわなきゃな……。
「冷えピタ、貼るよ」
優佑の前髪を手でのけて、おでこに貼る。
「サンキュ、蒼来てくれなかったらヤバかったかも」
「いいんだよ、友達でしょ」
友達、ね。自分で言っといてこの前の喧嘩を思い出してしまった。
「キッチン借りていいかな? お粥作ろうと思ったんだけど」
「キッチンは好きにしていいけど、そんなことできるのか?」
「姉ちゃんとの二人暮らしなめんなよ、お粥くらいなら俺でもできる。」
ほんとはここに来るまでに少し調べてから来たんだけどね。
出来たばかりのお粥を優佑の部屋に持ってきた。
「どう? たべれそう?」
「ああ、おかげさまでな。食欲もわいてきた。」
「よかった。ほら起きて」
「蒼があーんしてくれよ」
「なんでよ、一人で食べれるでしょ」
そういわれると優佑はおとなしく食べ始めたのだが
途端に優佑は声のトーンを落として話し始めた。
「やっぱり、秋宮とそういう関係になったのか?」
「は? 何急に」
「だってもうデートしたんだろ? 付き合ったのかよ」
「なんでそうなるんだよ。そもそも俺男だぞ?」
「じゃあ、違うのか?」
「当たり前だろ。まあ、その告白はされたけど……。」
「そうなのか!? でも断ったならいいか……。」
なんでそこまで気にするんだよ。
前のように言葉にはしないし怒りも込めないけど、このことは優佑に関係ないだろうに。
「前から気になってたけど、どうして秋宮君と俺をそんなに気にするんだ?」
「そうだな、話すか」
そうして優佑は中学の時のことを話してくれた。
優佑と秋宮君は中学時代には仲が良かったこと。秋宮君は転校生だったこと。
優佑と秋宮君のほかにもう一人女の子も一緒にいたということ。
その子が、今の俺に少し似ているということ。
秋宮君はその子に恋をしていたということ。
その子は優佑が好きだったということ。
秋宮君に裏切られて、友達を失ったこと。
「そんなことが……。」
「まあ一時的なものだったし、最後は皆仲良しに戻れたんだけどな」
「その女の子はどうしたの?」
「さあな、クラスが変わってからあってないし、ましてや高校も分からない。」
「付き合ったりはしなかったんだ」
「そんな余裕当時の俺にはなかった。」
「……そっか」
そんなことがあったから、また俺という友達を取られるかもってトラウマになってたんだろうか。
それに秋宮君は怖いところが度々垣間見えるし。
「そんなことがあったなんて知らなかったから、つい怒鳴っちゃった……。」
「いいんだ、言わなかった俺が悪い。」
「……確かに」
「えっ」
「正直それがあったにしても気にしすぎ。」
「お前急に……ってそれはまた別の理由もありましてですね」
「理由って?」
「あの……言いにくいんだけど」
「蒼のことを、その、本気で意識しちゃってるといいますか」
まじか
まてまて顔熱い
「そ、それってつまり……。」
「言わないでくれ! 俺もまだよくわかってないんだよ……。」
「それは、どういう」
「蒼のことは男だと思ってる。でも可愛いとことか、女の子の見た目だし意識しちゃうんだよ……。」
そっか。意識しちゃう女の子が実は中身が男友達で、って頭がこんがらがってるんだな。
……ということはいつもの冗談は冗談じゃなかったってことか?
何それ急に恥ずかしいんですが。
「と、とにかく気持ちやらなんやらの整理がつかないうちは、特に何もなしで、頼む……。」
「う、うん分かった。」
「今日行ったことも忘れるなとは言わないけど、深く気にしないでくれ」
「うん、今日はとりあえず仲直りってことで……。」
「そうだなっ」
優佑がニッと笑って見せる。……なんかこの部屋熱くない?
何はともあれ良かった。仲直りできた。
今はそれで十分だ。