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第十五話 「海水」

加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


今日はまさに青春を謳歌すべく海に来ているが。




山城先生と姉の運転によって俺たちは地元から少し離れた海に来ていた。

いつもの部活メンバーと前田さん、佐川、秋宮君の十人という大所帯だ。


「それじゃあ着替えてまたここに集合だぞ」

「「はーい」」


正直先生がいなかったらこの人数まとめるのは難しかっただろう。

感謝しながら更衣室へ向かう。


「加賀美さん、そっちは男子更衣室よ?」

「え……あ、間違えちゃった!」

「しっかりしてよね」


佐川に言われなきゃ普通に入ってたな……。またこんな初歩的なミスをしそうになるとは。


「加賀美君またやっちゃったの?」

「あはは……。お恥ずかしながら。」


若菜にも笑われてしまった。男の時の慣れというのがまだ抜けないのだろうか。

最近になってトイレを間違えなくなってきたくらいだし、もっと気をつけなきゃな。




着替え終えた俺たちは先ほどいた場所に再び集合していた。

先生が人数を確認、先にいって場所をとってくれている姉のもとへ向かった。


「加賀美さん、水着姿可愛すぎだよ!後で写真撮らせてね!」

「え、ええ恥ずかしいよ……。」

「そこを何とか!」

「うーん……。ちょっとだけね?」

「ありがと!」


白い眼鏡を光らせながら前田さんは先を行った。


「あのさ……蒼、その水着似合ってんな」

「そ、そうかな、ありがと……。」


優佑がなんだかよそよそしくいってきた。てか不意打ちやめてよ……。

動揺と照れているのが隠しきれなかっただろうが。


「やっぱり可愛いねその水着。()()見たときも言ったけど。」


秋宮君が俺と優佑の間に入ってきた。

プールであった時もあのナンパ事件の後、しばしば可愛いといわれていたな。

まあ、なに?その……悪い気はしないよね。


「そういえばなんでお前がいるんだよ」


でた、優佑の秋宮君警戒モード。


「加賀美さんが誘ってくれたからね、一緒に行きたいって」

「言ってないから」

「言ってねーじゃんかよ!」

「行きたいって言ってたから、いいよとは言ったけど」

「なんで蒼も許可しちゃうんだよ!」


しばし優佑が秋宮君をにらむ。秋宮君はニコニコしているが。


「しかも前にも蒼の水着を見たことあるようなこと言ってなかったかこいつ」

「ああ、運がいいことに加賀美さんとプールでばったり会ってね」

「なんでプール行っちゃうんだよ、俺も誘ってくれよ蒼~!」

「な、何でもいいでしょ……!それにどうせ今日海来てるんだし」


若菜の特訓のことは秘密にしなきゃならないからな、すまん優佑。


「何やってんの~!早く泳ごうよ~!」


少し先で牧が俺たちを呼んでいる。


「今行くー!」


そういって俺は走り出した。というかあの二人の因縁にこれ以上巻き込まれたくなくて逃げた。

なんでいつも俺が挟まれなきゃならんのだ。






俺たちはとりあえず海に入った。水が冷たくて気持ちがいい。

若菜が無事泳げているか心配になってみてみたが、浮き輪もあることだし大丈夫そうだ。


教えたバタ足ですいすい泳いでいる。

唯一の懸念は佐川と泳いでいるということか、相変わらず美少女の前では変態の顔になっている。


「ばあ!」


びっくりした。若菜の方見ていたら潜水していた牧が下から急に出てきた。


「なんだよ、びっくりしたなもう!」

「いやー、心の方をじっと見てたからどうしたのかなーって」


とか言いながらゴーグルを外すその顔はにやにやしやがる。


「牧が考えてるようなことは何もないよ」

「そうなの? ちぇっ、加賀美も少しは変わったかと思ったのに」


変わったといえば変わったが。まだ、そこまで行けてないだけだ。

その時、いつの間にか来ていた優佑と双真に話かかられる。


「二人ともあっちで俺らとビーチバレーしないか?」


優佑が指さす方にはコートらしきものが。あんなのあったんだ。


「いいねー、負けた方は焼きそば奢りね」

「おい牧、勝手にルール付けるなよなー、いいけどさ」

「やった!」

「あれ、秋宮君と前田さんは?」

「前田は先生のナイスなバディの写真を撮ってたな、後でもらお……。」

「秋宮君なら蒼のお姉さんとお話ししてたよ~」

「ふーん?」


前田さんはいつも通りだとして、秋宮君はなんでうちの姉ちゃんと?

ま、今はいいか。いざ尋常に。早速俺たちは戦場へ向かうことにした。


バレーボールなんて慣れてないからうまくできるだろうか……。

心配な点もあるがこっちには運動お化けの牧がいるし何とかなるだろ。


コートの外では若菜と佐川が見ている。正確には佐川は俺たちを見る若菜を見ている。


「おし、始めようか」


優佑がサーブをして試合が始まった。なんかかっこつけてるな?お前。






所変わって海の家。俺たち学生支援部と佐川はおいしいおいしい焼きそばを堪能していた。

海の家の食べ物ってよくわからないけど美味いよな。家で食ったら絶対そんなことないのに。


「ていうか牧強すぎるよぉ」

「ほんとにバケモンだわ……。」

「流石なんでもできるのね、牧さんは」


双真と優佑がうなだれている。佐川は感心しているが。

結果としては俺と牧のペアが勝ったんだが、いつものごとく牧の一人勝ちみたいなもんだ。


「琴音ちゃん、ビーチバレーの人に話しかけられてなかった?」

「あー、なんか真剣にビーチバレーやってみないかって」

「まじかよ……。」

「断ったけどね」


すごいとは思っていたがここまでとは……。

思い返してみれば俺の下手なトスでもガンガン打ててるんだから、如何に優れた身体能力かがうかがえる。


すると海の家に秋宮君と姉ちゃん、山城先生が入ってきた。


「おいおい、飯にするなら私たちも呼んでくれよ」

「すみません先生、お先いただいてまーす!」

「そういえば秋宮君、姉ちゃんと何話してたの?」

「秋宮君すっごい良い子じゃん!蒼!」

「……ほんとに何話してたの?」

「いやー、まあこれからのこととかね」


怖いっ!なんか外堀から埋められて行ってる気がする!


「秋宮っ!後で俺と水泳勝負しろ!」

「ああ、いいよ」

「それ、私もやりたい!」


すげえよ牧。この二人に自ら入り込んでいくのすごすぎるよ。


「え、それ琴音ちゃんが勝っちゃうんじゃ……。」

「いいぜ、牧にもリベンジしてやる」

「芳野君は審判お願いね」

「任されたよー」


さて、俺はさっきから前田さんの視線を感じるし、被写体にならなきゃかな。


「若菜さんは午後も私と遊びましょうね……。」

「な、なんか怖いよ、佐川さん……。」

「それお姉さんも入れてくれないかな?」

「加賀美君のお姉さん!」

「……仕方ないですね。」

「先生も一緒に入れてもらおうかな」

「……仕方ないですね。」


姉ちゃんが若菜を危機から救ってくれたな。今のは珍しく有能だった。

とはいえ、先生と姉ちゃんの胸元を見て困惑している佐川には同情する。同志よ。






「加賀美さんそこ立って」

「こうかな?」

「もうちょっと力抜いて、手とか添えてみて」

「こ、こう?」

「いいよー!次少し歩いてみようか!」


流石に水着での撮影は恥ずかしいものがある。ただでさえ女の子の水着になれていないのに。


「午前中は先生撮ってたんでしょ?」

「いや、すごかったよ先生」

「いろいろと……ね……」

「いやほら!加賀美さんはそこも可愛らしいというか!」


なんかすごいフォローされた。胸を気にしたのがばれていたのか。


「それに今日は浴衣も撮らせてもらうからね!」

「……ん?浴衣?」

「そう!旅館の浴衣姿期待してるから!」

「どういうこと?」


まてよ、旅館という単語に嫌な予感しかしないんだが。


「どういうって、今日はみんなで泊まりなんでしょ?」

「聞いてない……。」

「え、でも先生が合宿という体にしてお酒飲みたいからって……。」


なるほど少し考えてわかったぞ。

そんな理由で泊まりにする先生も先生だが、おそらくこれは姉ちゃんの仕業だな。


俺が行かなくなると踏んで隠してやがったのだろう。

いやまあ聞いてたら悩んでいたとは思うが。


楽しそうに遊んでいる姉と視線が合う。


ものすごい形相でにらむと状況に気づいたようで、姉ちゃんは半笑いで手を合わせて見せた。





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