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第十三話 「幕間」

加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


今は白いワンピースを着てニコニコしているが。




前田さんの手伝いで夏休み最初から女装をさせられている。といっても今は女装にならないか。

被写体になる手伝いは若菜と優佑に説得されてやることになってしまった。


「わ~! かわいい! かわいいよ加賀美さん!」

「あ、あはは……どうも……。」


若干興奮気味の前田さんがシャッターを切る。

その後ろではにやにやしている若菜と優佑。なかなか腹が立ってきたぞ?


「それにしても街中で撮るんだね」

「おしゃれな小道と美少女は映えること間違いなしよ」

「写真のコンクールって風景とか撮るんじゃないの?」

「人物写真のコンクールもあるのよ、私は人を撮るのが好きだし」


前田さんと雑談しながらリラックスした状態で撮影は進んだ。自然に笑えているように思える。

とそこに優佑が近づいてきていた。


「なぁ、俺と若菜腹減っちゃってさ、飯にしねぇ?」

「あー、そうね。もう結構撮りきったしお昼にしよっか」


どこ行こうか、と優佑と前田さんはスマホで調べ始めた。


「加賀美君すっごい可愛かったね!」

「や、やめてくれ……。」

「そのワンピースが似合うのはすごいと思うし」

「若菜だってすごく可愛く着こなしそうじゃないか」

「か、かわっ!?」

「おーい、場所決まったぞ」

「う、うん分かった!」


逃げるように優佑の方に行ったが、今すごい恥ずかしい会話した気がする……。




四人でご飯タイムである。場所はよく高校生がいくようなファミレスだが。

全員が注文を済ませ、料理を待っている間に俺はメッセージを返していた。


しばしば返信しているから気になったのか優佑が聞いてきた。聞かれてしまった。


「蒼、メッセージ誰からずっと来てんの?」

「あー、えっと……秋宮君……。」

「なにぃ!? ど、どれくらいしてるんだよ」

「この前連絡先交換してから割と」

「俺とはあまりしてくれないじゃんかよ!」

「優佑はよく会うから別にいいだろ!?」

「……嫉妬の化身だね。」

「……あはは……。」


ほら、若菜も前田さんもドン引きしてるじゃないか。

こうなると夏休み中に遊びに行く約束していることは絶対優佑には言えないな……。


そんな優佑を宥めようとしていると今度は若菜の携帯が鳴った。


「あ、琴音ちゃんからなんだけどね」

「お、おお牧ね!なんだって?」


俺はあからさまに話題をそっちに向けようとする。


「山城先生に車出してもらえることになったから、部活の皆で海行こって」

「い、いいじゃん海!ねえ優佑!」

「え?ああ、海か……確かにいいな、水着とか」


ほんとブレないよな優佑。さっきまで怒り心頭だったのに今の頭の中はおそらくピンク色なんだろう。


「いいな~、それ私も行ってもいいかな?」

「もちろん!莉子ちゃんともっと仲良くなりたいし」

「やだ、この子可愛い……。」


若菜も意識的に友達作り頑張ってるな。その純真さに前田さん感動してますわ。

すると再びまた若菜の携帯が鳴り、


「なんか陸上部の佐川さんもくるみたい。」

「佐川……こういうの来るのか……。」

「なんか意外だな」


うーん、佐川か。なんかまた面倒なことにならなきゃいいけど。

しかしふと疑問が生まれた。


「てかその人数で車乗り切るのか?」

「あ、たしかに」

「部活メンバープラス二人で七人か……。」

「しょうがない、私の姉に車出してもらうよ」

「加賀美さん、お姉さんいたんだ!美人さんなんだろうなぁ」

「会ってがっかりしないでくださいね……。」


かなり残念な中身をお持ちなので。

とはいえあれでも車の免許は持ってるんだ、とりあえず連絡を取る。


『オッケー!若いこ達と遊べるとか楽しみだわ笑』


とか頭悪そうな返事が返ってきた。あんま歳離れてないだろ……。

姉はうちの高校の卒業生だし、山城先生ともそれなりに面識があるみたいで今回は適任だった。


「となれば加賀美さん、若菜さん、水着買いに行くよ!」


あ、そっかしまったな。水着……俺も着るんだった……。







俺には女物の水着なんぞわかりゃしなかったので若菜と前田さんに選んでもらうことにした。

フリルがあしらわれたものをお勧めされたのだが、なにやら俺の欠点を補えるとか……。


「おまたせー、終わったよ」

「おう、蒼はどんなのにしたんだ?」

「と、当日のお楽しみってことで……勘弁してください。」

「いや~、それは期待が膨らむな!」


くそっ、水着見せるとか恥ずかしすぎるわ!

うやむやにしようとしたら期待値上げられちゃったし。


ともあれ全員が新しい水着を買うことができたようで、今日は解散となった。


帰りの電車、俺と若菜は同じ駅まで一緒に帰る。

すると若菜が袖をちょいちょいとつかんできた。


「あのさ、私実は泳げなくて……。」

「え、そうだったのか。海どうするんだ?」

「だからプールとかで練習しようかなと」

「なるほどな、新しい水着も着れるし」

「だから一緒に行ってくれないかな?」

「おお、いいよ。部活のやつらとか誘う?」

「あ、いや、えっと……泳げないのあんまり知られたくないかなーって」

「そっか、じゃあ二人でいくか」

「うん!」


若菜はすごく満足そうだった。




若菜と別れて家に帰ったとき、姉が迎えてくれたのだが何やら様子がおかしい。


「久しぶりだね、加賀美 蒼君、体育祭見てたよ。」

「まさかお前」

「そうだよ、神様だよ」

「何の用だよ」

「いや感想を聞きたくてね」

「感想?」

「君の周りではすでにいろんな変化が起きているだろう?その感想さ」


しばらく見ないと思ってたが、俺のことは見ていたようだ。悪趣味なヤツめ。


「気持ち悪いな」

「意外だね、もっと変化を楽しんでいるかと思ったよ。特にあの若菜という少女の変化とか」

「違うな、気持ち悪いのはお前だ」

「あ、悪口言われてたのね……。」


なんかしおしおしてる。さっきまでの偉そうな態度は何処へ。

まあいいや、と気を取り直したのか続けてきた。


「で、実際の感想は?」

「……若菜とか優佑の態度が変わったのにはドキドキしたり恥ずかしかったりした。」

「いいじゃんいいじゃん!それを大事にしてほしいんだ。」

「そうすれば俺は元に戻れるのか?」

「戻してほしいのかい?今更。」

「当たり前だろ。これでも男でいた時期の方が長いんだぞ」

「ならこうしよう、二年生の間に真に愛する人を見つけるんだ」

「……は?」

「できなかったら一生女性として生きてもらう。」

「なっ、そんなの受け入れられるわけないだろ!?」

「だって君遅いんだもの」


正直、女の子になってからはや数か月。

確かに恋愛への興味は未だ薄く、多少そういう場面が意識できるようになったくらいか。

しかも、若菜や優佑といった近しい人限定。


「それに君、今の環境に慣れたら元の絶食に戻りそうじゃん?」

「……それは否めない……。」

「だから焦らせた方がいいかなと思って」


効果覿面だぜ神様よ……。めっちゃ焦ってるわ。


「とにもかくにもまだ時間はあるんだから、頑張ってよね」

「ちっ……」


こいつに翻弄されるとはな。憎たらしい神様だ。


「ええ……そこ舌打ちするかな普通、かっこよく締めたかったんだけど……。」


情けないことを言い残して神様は行ってしまったようだ。

姉がすとんと力なくへたり込んだと思ったら目を覚ました。


「あ、おかえり。」

「ただいま、さっきまで例の神様に憑依されてたぞ」

「あ、マジで?」


なんだこの会話。

最初はこの現象をなかなか信じなかったとは思えない姉の適応力にも驚かされるが。


「あれ、その袋……もしかして水着……?」

「げっ」

「ちょぉっと着て見せてみようか!?」


見つかってしまったからには観念するしかないか。こうなった姉は止まらない。

今年の夏休みは大変なことになりそうだ。




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