第十二話 「写真」
加賀美 蒼は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。
今は学校中で男子の視線が気になっているが。
なぜこうなったのか。体育祭で目立ちすぎたこともあるだろうが、
俺には確かな心当たりがあった。
体育祭が終わり、俺はまたいつもの平凡な学校生活が始まると信じていた。
あれを見るまでは。
ことの発端は同じクラスで新聞部で白い眼鏡が特徴的な前田 莉子が
俺と優佑が話しているところに来たことだった。
「加賀美さん、木崎君ちょっといいかな」
「おー、前田どした?」
「これについてなんだけど……。」
前田さんは一枚の写真を俺たちに見せ、それを見た俺と優佑に衝撃が走った。
例の閉会式の時の写真、俺と優佑が抱き着いちゃってるところだ。
嫌な予感がしたがやはりこれか……。
「やっぱり二人は付き合ってるの?」
「ばれちゃったか~!」
「おい!嘘をつくな嘘を!」
「そこまで強く否定しなくても……。」
「前田さん、こいつとは何もありませんから。」
そういった瞬間、再び嫌な予感がした。嫌な予感part2。
「ま、前田さんもしかしてこの写真、新聞に使ったの……?」
「まさか!これは流石に使えないよ」
ただまあ……、聞くより見る方が早いでしょ。と前田さんは自分のカバンから何かを取り出した。
「はいこれ、今回の体育祭の新聞ね」
「あ、ありがと」
「俺の活躍ちゃんと載ってるんだろうな~?」
俺と優佑は新聞を開き覗き込むようにしてみた。
そして、その新聞で大きく載っていた一枚の写真が俺の平穏を奪うことになる。
「ななななんですかこれぇ!?」
「えへへ、加賀美さんとってもかわいいでしょ?」
「お、おお……。マジですごいなこの写真……。」
それはペアダンスについての記事だったのだが、俺と若菜の踊っているところが抜かれてしまっている。
かなりの大きさで、その上アップで。写真写りがすごくいい。
「蒼、これ奇跡の一枚ってやつだぞ」
「美少女ペアだからたくさん写真撮ったんだけど、その中でも一番きれいに取れたやつなの」
そういって前田さんはカメラのデータの一部を見せてくれたのだが、俺多くない?
「これ変えてくださいよ!」
「え~、なんで? こんなにいい写真なのに」
「あんまり目立ちたくないんですよ、面倒ごととか嫌だし」
「といってももう手遅れだけどね」
「えっ……。」
「もう配布されちゃった☆」
ということがあり、現在の状況に至る。
新聞の影響は想像よりはるかに大きく、今は学校のどこ歩いても見られている気がしてならない。
しばらくはなるだけ教室から出ないようにする方がいいかもしれない。
そう思って優佑に頼んで自販機で飲み物を買ってきてもらうことにした矢先だった。
「やあ、加賀美さん」
「え、秋宮君どうしたの」
あの秋宮君だ。黒髪イケメン、学年の中心人物。
違うクラスなのになぜ俺のところに? うちのクラスの女子がすこし騒がしくなっている。
「来週から夏休みだからさ、どっか遊びに行きたいなと思って」
「あ……。」
そういえば体育祭の時にも誘われてたな。あの時は優佑が来たことでうやむやになったけど。
「いや、申し訳ないんだけど……」
そう言いかけたときだった。一気に周りの女子の雰囲気が変わる。
え、なに、怖い、凍てつく視線を感じる……。
これあれだ、断ったらまずいやつだ。秋宮君のお誘い断るんかお前……?的な心の声が聞こえるもん。
「あ、後で詳しく決めたいから、とりあえず今は連絡先の交換しよっか」
汗だくになりながら、何とか返事を延期する方法をとることにした。
秋宮君が俺の連絡先に追加される。
『よろしくね』
さっそく秋宮君からきた。
この距離でのメッセージはいらないだろ……。
『よろしく』
まあ、一応返すけど。礼儀だし。秋宮君の方を見るとニコニコしていた。
なんだか気恥ずかしくなってきた……。
「木崎が帰ってきたら面倒だし、俺もう行くね」
「そっか、じゃあね」
「うん、またね」
秋宮君はそういって自分のクラスに帰っていった。
と、入れ違いに優佑が帰ってきたのだが、
「蒼!なにもされてないか!今秋宮が出ていくの見たぞ!」
「連絡先交換しただけだよ」
「なに!?お前なぁ~!……」
その後もなんか言ってたが聞き流すことにした、面倒だし。
それにしても優佑は秋宮君のこととなるとすぐ熱くなるな。
そして放課後。場所はいつも通り部室で、いつも通り俺と優佑と若菜の三人。
「加賀美君、今日他クラスの男子に話しかけられてなかった?」
「ああ、秋宮君。体育祭でいろいろ関わった人だよ。」
「また、秋宮の話かよ」
「なんか夏休み……」
「特に何もなかったけど!?」
慌てて若菜の口を手でふさぐ。ごめん……ごめんな……若菜、優佑が面倒なことになるから。
その意思を眼で若菜に伝え、若菜も何度もうなずいて理解したみたいだ。
「そ、そうなんだ……。」
手をどけると若菜は小さい声で漏らすように言ったが、その顔は赤かった。きつく塞ぎすぎたかな。
「でも、加賀美君モテ期みたいだね」
「勘弁してくれ」
「モテるって言っても男子にだもんな」
「同じ写真に若菜も映ってただろ? 若菜はどうなんだよ」
「私は目立たない方だから」
「蒼は体育祭の競技でだいぶ目立ってたもんな」
最悪だ。いろんなところでの出来事がつながって最悪の状況を生んでるじゃないか。
俺が絶望していたときドアが開いた。
「学生支援部ってここかな」
「あ、前田さん!」
前田さん……だと……?
「いや実は協力してほしいことがあってね」
「何やればいいんだ!?」
二人は初めての生徒からの相談ということもあり、テンションが上がっているが……。
「私夏休みに写真のコンクールに出ることになりまして」
「すげえな!」
「それでそれで!?」
「被写体になってくれる人を探しているんだけど」
嫌な予感part3。
「加賀美さん、お願いできないかな?」