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第一話 「灯籠」

 加賀美 蒼(かがみ あおい)は所謂絶食系男子である。草食系だとか肉食系だとか、そんな結局は恋愛に飢えた若者とは違っていた。


彼自身、見てくれはそこそこの美少年で、性格だって少しばかり消極的な面を除けば悪くない。

しかしながら、彼には恋愛などというものに興味がわかなかったのである。




6月頭の午後、授業の板書をしていると後ろの席から小さな声で話しかけられた。


「なぁ、蒼はどうなんだよ。」

「何が?」

「何って、体育祭に決まってるだろ?」

「あぁ…」


体育祭に浮かれている、このかなり明るい茶髪の男は木崎 優佑(きざき ゆうすけ)である。俺にとっては一年前の高校に入学したときにできた初めての友人でもある。


「でも体育祭なんて去年もあっただろ?」

「そんなこと言ってると出遅れるぞ」


いまいち優佑の言っていることにピンとこなかった蒼は「なんのことだよ」と聞き返す。すると雄介は目を光らせて答えた。


「彼女だよ、彼女! 今年こそは最高の青春を迎えねばなるまい!」

「…あっそ」


聞いてあきれたと視線を黒板に戻そうとして止められた。


「なんだよその反応! お前だってほんとは興味津々なんじゃないのか? このむっつりさんめ」

「わりぃけど、そういうのはな…。 第一、クラス替えしたばかりだろ。友達はできても恋人までできるヤツなんているのかよ」

「周りをよく見てみろよ」


優佑に言われるがまま見てみたが特にこの二か月で代り映えしない教室だ。真面目にノートをとっている生徒、近くの席の友達と談笑している生徒、寝ている生徒


よくある光景でしかない。

しかし、優佑が言うには


「皆考えてる。高校初の体育祭を充実させるために誰と過ごすか、誰と青春するかをな」

「そうは見えないが」

「いいか?現にあそこの席の男女は付き合ってる」

「マジで?」

「…と思う」


再び前に向けようとした視線を強引に引き戻される。いや、首痛いんだけど。


「待てって! 今付き合っているかはわからないがワンチャンありそうじゃないか?」

「そういわれてもな…」

「そういう風に鈍感だと一生彼女できないぞ」


まぁでも俺には関係ない話だ、と再三視線を戻そうとしたときチャイムが鳴った。しまった、授業の後半聞いてなかったぞ、おい。


優佑にクレームの一つでも入れたやろうと振り向いたとき、ポニーテールを揺らした同じクラスの女子、牧 琴音(まき ことね)が二人に話しかけてきた。


「なんの話してたの? 盛り上がってたみたいだけど、木崎が一人で」

「うるせーな、俺と蒼は大事な青春の設計図を描いてたんだよ」


牧は去年も俺と優佑と同じクラスであり、今は優佑と一席挟んだ隣である。

何か話しているのは見えたが、何を話していたかまでは聞こえてなかったみたいだ。


「何それ? ま、いいや」


そんなことより、と牧が話を流すとその後ろから二人こちらに向かってくるのが見えた。


細い目の男子の方が芳野 双真(よしの そうま)、黒髪でショートボブの女子の方が若菜 心(わかな こころ)である。


二人とも去年は違うクラスだったが双真は牧の部活仲間、若菜は俺と中学が同じだったということもあり、今はクラスの中でも仲のいい友達だ


「さっきの授業ガッツリ寝てしまったわぁ」


と間延びした感じの話し方で双真があくびをしながら未だ眠たそうにしている。対して若菜は


「琴音ちゃん、さっきの授業でさ…」


とすでに牧と話し始めていた。


これで全員集合だ。これが高校における俺が所属するグループだ。自分自身ではこのグループにいれば恋愛なんてなくとも十分青春は謳歌できると思うのだが。


皆が集まった中で先ほどの優佑の話を思い出していた。ほんとに二か月程度で仲がそこまで進展するものなのか。













 最初は席が近かった俺と優佑の二人だったが、お互いが知り合いを紹介していくうちにこの五人でいるのが当たり前になっていた。


今も、双真と牧が部活に行くまでの間は五人で他愛もない話をしている。部活の顧問が厳しいだの、授業の内容がすでにきついだの取るに足らない話だ。


そんな中、牧が皆にさっき話そうとしていたことを思い出した。


「皆はさ、体育祭のペアダンスの相手決まった?」


そういえばそんな話あったな…。すっかり忘れていた。

うちの体育祭は七月末の大型イベントで、ペアダンスはメインと言っても過言じゃない。


「俺はもう決まったかなー」


そう最初に答えたのは双真だった。


「うっそ、誰?」


牧が食い気味に尋ねる。


「部活のマネさん」


そっか、色分け自体は最近決まったから他クラスでもペアが組めるのか。


どうやらペアが決まっていたのは双真だけだったみたいだが、時間が来てしまい部活組の二人が慌てて退室していった。


部活に入っていない三人、俺と優佑と若菜は帰路についた。


「まさか、芳野君もうペア決まってたとはなぁ」


「たしかに早いよな」


俺がそう答えると

「早すぎるて」と優佑が愚痴るように言った。


「まあでも、同じクラス内では色分けが出る前から決めてるペアもあるみたいだしな」


「クラス替えでまだ知らない人多いんだけどなぁ」


「あー、恋人を作るチャンスだってのに」


二人は口々に不安や文句を垂れていると、駅に向かう優佑と別れる道まで来ていた。


優佑とはここで別れたが俺と若菜は徒歩で通える距離なのでまだ少し一緒に歩いていた。


「芳野君はもうペア決まってるんだよね」

「そうだな」

「なら、私のグループには男女が二人ずつだし…」


と若菜はなにやらぶつぶつ言っていた。

気になって横を見てみれば、若菜をこちらを見ていて


「だから、私たちでペア組まない?」




若菜と別れた後一人で家に向かっていた。

とりあえずはペアダンスの件については解決したかな。


とりあえず俺と若菜はペアになったのだが、よく考えてみたら双真が組んでた時点で、俺たちのグループ内での完結ができるじゃないか。


牧と優佑がペアというのははあまりいい予感がしないが…

そんなことを考えていると、見慣れないものを見つけた。


「なんだこれ」


それは灯籠のようなものだった。神社とかにありそうな。

しかもなんだか特徴的な形をしている。

こんなとこにあったか? というかあまりにも不自然じゃないか?


「うわっ」


その灯篭のようなものに突然光が灯り、一瞬視界が奪われた。

前が見えるようになった時にはすでに()()はなかった。


ようやく帰宅できた。徒歩で通えるとはいえまあまあな距離はあるし、行って帰ってくるだけでも一苦労だ。


とりあえず洗面所に向かう。手を洗う。うがいをする。その時に鏡に自分の姿が見える。見える。


見えてるはず。なのだが。


「はあああああ!?」


甲高い女子の声が家に響く。今日は誰も家にいないのか。

そんなことより、だ。


鏡に見えたのは見慣れた冴えない男の子ではなく、少し見慣れた感じのやはり冴えない女の子だった。


俺…だよな…。 俺が女子になってるのか!?

あまりにも非現実的なことに一瞬信じられずに固まっていたがすぐにあの灯籠のようなものを思い出した。


「なんだよこれ…」


どうしてこんなことになったのか分からない。

顔だけじゃない、体までしっかり女の子だ。

俺はしばらく洗面所から動けなくなってしまった。





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