プロローグ
「リーヴァス」
久しく聴いていないでも見知った声音が俺の名前を呼ぶ。
手元にある本は閉じずにその声のする方に顔を向けると思った通りの人物がこちらに歩み寄ってくる。
「……」
「相変わらず傀儡人形のように無機質な表情だね。自由になってもその根本的なものはずっと根付いたままかな。まぁ、いいや。」
俺を見るなり目の前の男は言う。
「それはどうとでもなるし。僕が伝えに来たのはね、君をこのヘルバ学園に入学させるためだよ。」
ヘルバ学園の歴史は古い。
ここにある沢山の本の1つが教えてくれた。
今ではそう珍しいものでもないが、いつしか人間が産まれ10歳を迎える間に、人は特技として更に開花した力を"異師力"と呼んだ。
人それぞれに特化した様々な異師力は、生活を豊かにし、日々苦戦していた妖魔にも対抗出来る力だが、同時にその力を悪用する事件もまた多い。
そんな中この力を纏め正しい事の為に導く、異師力のための第1の学び舎を設立。それがここヘルバ学園である。
「君を入学させるという事はリスクを伴うそれは君自身がよく分かってるはずだ。だけどその逆もしかり、君を入学させることでこの学園を良い方向へと導いてくれることを切に願っているよ。」
よく分からないがそもそもリスクしかないんじゃないかと思う。しかも自分で言うのも何だが、今までただの図書室の引きこもりが教室で授業に参加するというモーションがついただけで何が変わると言うのだろうか。メリットなんでこれっぽっちもないだろう。
俺自身そんな事は望んでないが、この男が俺を入学させる意図が見えない。
しかし目の前の男はそんな言葉とは裏腹に、「拒否権なんて君にはないけどね。」と言う顔でこちらを見ている。
「……拒否権、ないんでしょ。」
その言葉にこの男ヘルバ学園の現校長であるストローク・キルトリアは、にっこりと笑った。
「入学おめでとう、リーヴァス」
俺は図書室の住人から生徒へと昇格した。これからの出会いや変化がこの大陸全土の分岐点になるとも知らずに……。
そして今日も世界は少しずつ腐敗し、砂のようにサラサラと崩れ去っていく。