新生活の始まりに武器を買う
ブキヤと聞くと武器屋よりもコトブキヤの方しか連想できない病
朝日が瞼を貫き、少し肌寒いぐらいの気温がスッキリとした目覚めを誘う。簡単な作りの質素なベッドから降りて、軽い体操をし、脳味噌の電源をONにする。
……とまあ、文芸部っぽい書き出しをしてみたものの、結局やってる事と言えばセメスさんから朝に出すとご近所迷惑になる程の大声で
「朝だぜーーーっ!!!!起きろーーーーっ!!!」
って起こされたからウゴウゴ蠢いてただけなのだけども。
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洗面所(意外にも現代日本チックな作り。大理石造りでオシャレ)で身なりを整え、喫茶店のカウンター席に座ってマスター特製モーニングセットを振る舞われた。セメスさん曰く、ここでの一日はこの特製モーニングがないと始まらないらしい。
『濃いめのコーヒー』
エスプレッソかな?と思う程の濃~い苦~いコーヒー。コップ半分程の量で出されるが、朝に飲むには丁度いいサイズ。
『ハムとポテサラ乗せトースト』
5枚切りぐらいの分厚さに切られた楕円形のパンにハム(豚の様なモンスターの肉)とポテサラ(芋もマヨネーズも自家製)を乗せて軽くグリルした物。アッサリしつつも食べ応えがあり、喫茶店のメニューでも人気らしい。ちなみにマヨネーズに使っている卵はダチョウに似たモンスターの卵を使っているらしく、日本で食べていたマヨネーズと比べると少し変わった風味がした。
「ところでラゼン君、この街はどれぐらい観光したのかね?」
コーヒーカップを慣れた手つきで洗うバンリさんが、カウンター奥のシンクから質問を投げてきた。
「昨日は森で目覚めたらすぐ小鬼……?みたいなモンスターに襲われながら逃げ出して……そこで気絶した後は冒険者ギルド(?)で目を覚まして、そこからは市場とか見ながらウロウロしてました」
説明すると長くなりそうな上にあまり関係ないかもしれなかったので、『主人公』が絡んだ話はしなかった。
「へぇ~、森で小鬼……それはね、『グール』って言うモンスターなんだ。丸腰でよく逃げ延びたねぇ」
「あの時はもう兎に角必死で逃げてて……初めてでしたよ、気絶するまで走ったのって……」
「バカ場の火事力が出たのかな?」
出てたまるか、そんな聞いたことも無い力。
そんな中、突然セメスさんが話しかけてきた。
「そうだ、この世界の住人は大人から子供まである程度自分の身を守るぐらいの戦闘能力は持ってるんだけどさ、お前ってある程度体って動かせるタイプ?」
「いや、元いた世界は基本戦いとか無い、広い目で見たらギリギリ平和な世界でしたんで……」
「ふーん……そうだ、いっぺん俺と戦ってみないか?」
なんですって?
「おっ!模擬戦するのかい!では近所の森の奥にある空き地……セメス君は分かるよね?あそこでやってきたまえ。今日は店が定休日だし、お昼頃にはお弁当を持って行ってあげよう!」
この世界って好戦的な人ばかりなのだろうか……と言うか、急に戦うと言っても私に出来るのはせいぜい中学生のケンカぐらいの腰が入っていない格闘ぐらいなのだが……
「そういやセメスさん、私武器とか使ったこと無いんですが……セメスさんはどんな武器を使っているんですか?」
「俺かい?俺はコレだな」
セメスさんはおもむろに、腰のベルトに左右1本ずつ刺してある50センチ程の鞘から、刃が異様に短い、赤と白の剣を抜いた。
「こっちの赤い方の剣が『廻炎』で、白い方の剣が『光牙』って言うんだ。二振り合わせて一対の剣『廻円光牙』って言うアーティファクトなんだぜ?」
「すいません、アーティファクトって何ですか?」
わたしゃ小学生か。
「あー、それも知らないか。アーティファクトってーのはだな、やたら強いモンスターとかが時々持ってたり、僻地にある遺跡みたいな場所の奥深くに落ちてたりするもんで、アーティファクト収集専門の職業もあったりするんだ。俺の剣は海に流れ着いてたのをたまたま拾ったのをそのまま使ってるんだ」
「なるほど~!」
小学生並の感想が出てしまった。
「よし、そいじゃあ武器屋で好きな武器(ただし安くて威力が弱い物に限る)を1つ買ってやるから、出かける準備をしてこいよ!」
色々教えてくれる上に、気前もいい!正に快男児って感じのセメスさんだ。早速カバンと小銭入れを持ち、店の外で待っていた彼に着いて武器屋まで歩いていった。
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前に見た屋台形式の店に行くと思っていたのだが、辿り着いたのは普通に店舗形式の武器屋だった。イメージしやすく説明するなら『食べ物の代わりに色々な武器をショーケースに入れて展示しているコンビニ』みたいな感じだった。
「ようおっちゃん!弟分の武器を新調しようと思ったんだが、戦いの初心者でも使える様な武器ってなんかオススメはねぇか?」
セメスさんは砕けた口調で武器屋の店主にオススメ商品の注文をすると、店主がカウンターの裏からカタログらしき紙を1枚出してきた。
「………………これがオススメだ……」
無口なぶん声が滅茶苦茶渋い!凄い!日本なら声優で食っていけるレベルだ!!!……じゃなくて、手渡されたカタログをセメスさんと一緒に眺めた。
『アイアンソード』
鉄の片手剣。長さは普通のビニール傘ぐらい。振り回しやすい長さの様で人気らしい。
『アイアンロングソード』
1.5mぐらいの刀身を持つ長剣。技量的に扱いきれなさそう。使いこなせると強いらしい。
『アイアンバスターソード』
鉄製のアイロン台に持ち手を付けたような物。持てるか!
時々売れるらしいし、プロの冒険者は時々大剣を振るっているらしい。筋力オバケかな?
『アイアンアックス』
1.2m程の木の棒の端に斧刃が付いた物。手に取ると想像よりも軽かった。斧系の武器は物によって癖が強いらしく、変わり者が好むらしい。
『アイアンメイス』
金棒。ハンマー。棒の端にでっかい鉄塊を付けた物。重過ぎて運ぶのも大変だったのだが、ごく普通のアイアンメイスで巨大なモンスターを倒した伝説の老兵が居るとの噂を聞いてビビった。
『ショートボウ』
タオルとかを干す大きめのハンガーかな?と言った感じの弓。もし今までで弓道部に居た経験があったらこれにしていたかもなぁ……なんて思った。
『ウッドボーガン』
硬い木材を更に固く、堅く加工して壊れにくくしたボーガン。難しそうなので却下!と思ったが、旅人はよくこれを持ち歩いて狩りに使っているという事を聞いて少し気になった。
さて、と。カタログに載ってるのはこれで全部触って試してみた。どれにしようかな……
「それじゃあすいません、これをお願いします!」
「……………………よし、いいぞ」
「おっちゃん!コイツにとっては記念すべき最初の武器なんだ。立派な仕上がりのやつ期待してるぜ!」
「ふふっ……………………任せな」
なんと昨日のうちに話をつけてくれていた様で、私が選んだ武器は今から仕立ててくれるそうだ。まっさらなピカピカの新品を用意してくれるとは嬉しい限りだ!
初めての武器。
私専用の『アイアンアックス』の仕上がりが楽しみだ。
ワンフェス行きたかったなぁ




