逃げの一手は超便利
転生した結果がこれだよ……
小鳥のさえずりや草木のざわめく心地の良い音が耳に入ってくる。
体は少し痛いがお陰様でピンピンしており、四肢に血が通っている感覚がある。
え?血が通っている感覚がある?
そりゃあおかしいぞ?私は死んだ筈では?
……成程、これが巷で流行りの異世界転生か!
「うっそおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!???!??!!?!」
小鳥が一斉にバサバサと逃げ出した。
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何処ともしれない、平和な森の小道をサクサクと歩く男が居た。服装はこの時代には合わないであろう、白Tシャツにくすんだ青い迷彩のジャケットを着たそいつは道端に落ちていた程よい大きさの木の枝を杖替わりに適当にブラブラと歩いていたのだ。
ていうか迷っている。此処はどこ?私は小野木世蘭。
「ったぁ~~、クッソ疲れた……多分転生したんだろうけど…………」
生前から一人言は言わないタチだったので、一人言を言ったところで思考の整理にはならずに少しの恥ずかしさだけが心に残った。
今の持ち物と言えば身につけている服一式と良い感じの棒と寂しさと不安ぐらいだ。後ろ二つはどこかに捨てておこう。
「んぁ?」
遠くの方で何かの叫び声が聞こえる気がした。具体的に言うなら女がセイ!ハァ!とか言ってたり人間が出すには違和感のあるくぐもった声でギエェだのヌグゥァだの……
多分向こうで戦闘が起きているんだとおもいます(名推理)
「……ファイト!」
参戦しないのかって?まっさかぁ、丸腰で戦ってる場面にホイホイ参戦するなんて死にたがりか何か?とにかくどんな時も命は大事にした方がいいんよ。
そんなわけで踵を返して来た道を戻ろうとしたのだが、ふとジャケットの裾をチョイチョイと引っ張られた。
---振り向くと、そこには中学生程の身長をした生白い色をした人型の怪物……多分グール?が居た。
「……」
「………」
「…………見逃して?」
「ノ゛ォ゛ォヴ」
いやギリギリ喋れるんかい。…………
じゃない!!!!!逃げなきゃ!!!?!??!!!
「ごめん!!!悪いけど他を当たって!!!!」
私は脱兎のごとく、まるでアクセルを前回まで踏んだ車の様に、全速力を超えた速度で逃げ出した。ランニングフォームなんて関係なく、時折足がもつれて転がったりしながら、ただ速く駆け抜ける事だけを念頭に置いて走った。
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「ハァ……ハァ…………オエッ………………」
肩で息をする、と言う形容があるが、今の私は肩どころか上半身で呼吸をしていると言った方が正しい様な姿でヘロヘロにバテていた。汗はシャワーでも浴びたかのようにビシャビシャになっており、体は38℃は超えているんじゃないかと言う程に熱い。腹は減ったし喉も乾いた。
多分あの時戦闘に混ざった方がトータルの損傷は低かったんじゃないかな?と考えようとしたのだが、お陰様で頭が回らず、その場に倒れ込むように気を失ってしまった。
我ながら不用心にも程があるのでは?
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「おや、目が覚めたかい?」
「多分……覚めてます……?」
自分で言っちゃアレだけど、目が覚めた?に対する返答としては赤点モノだと思う。
「あんたねぇ……あんな魔物が普通にウロウロしてる道端で行き倒れるとか何があったんだい?珍しいカッコしてるけど冒険者証は?」
簡易ベッドの横で声をかけてくる女性は何を言っているのだろう……。冒険者証?知らない子ですね……
「ああ、冒険者証……冒険者証?」
「まだ意識が朦朧としてるんじゃないのかい?ホラ、胸ポケットに刺さってるやつ!」
は?(困惑)…………えっ?(大困惑)
胸ポケットに手を当てると、確かに名刺より少し大きいサイズのカードがいつの間にか入っていた。取り出して確認してみると
NAME:斧樹 羅善
JOB:放浪者
RANK:☆1
SKILL:ショートブースト
TEAM:未所属
と、書かれていた。
「なんだ、ちゃんとあるじゃないか!放浪者は出来ることが少ないからもっと別のジョブに変えた方がいいよ?」
「なるほど……(わからん)」
シャキシャキに新鮮な生返事をテキトーに返すと、様子を見ていてくれていたであろう女性はベッドの横の机に2切れのサンドイッチと瓶に入った……多分牛乳?を置いて
「とりあえず、今回は無償で助けたげたんだから、次からは気をつけるんだよ?」
と言って立ち去ってしまった。
分からないことは沢山ある。例えばこの世界だと私の名前は[斧樹羅善]と言う名前だと言うことや、いつの間にか持っていた冒険者証、何故か放浪者に就職していた事、魔物って何?……………………うーん、今はよく分からない。
と、何気無しに色々考えてみたのだがまだ何も思いつかないので、サービスで差し入れられた軽食を有難く頂こうと思った。
[サンドイッチ]……六枚切りサイズのライ麦パンでレタスの様な野菜と胡椒の効いた燻製肉を挟んだ代物だった。多分現代日本を探せば似たような物は見つかるだろう。
[ミルクの様なもの]……意外にも豆乳っぽい物だった。だが、豆乳にしては甘みとコクが強いのできっと別の何かを絞ったものだろう。これでプリンを作れば多分とても美味しいと思う。
軽食を済ませた私は、汗でじっとりと湿った服の不快さに眉間にシワを寄せながら部屋の外へと出た。
宿屋か何かだと思っていたが、ここはどうやら冒険者ギルドの救護室だったらしい。
---冒険者ギルドってなに?
今更ですが感想とか評価とか下さい……!




