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普通に暮らしてただけなのに

作者: 松田絢愛

リハビリです

私は至って普通だ。


普通に会社に行き、普通に事務員として働き、仕事が終わればすぐ家に帰る。

会社と家の往復の日常。


それがこの日本という社会の中での普通だったはずだ。


さてここで問題だ。







土の匂いで目が覚めたら黒くて大きいものがいました。

これってなーんだ?


ヒントはー、大きさは2メートル位でぇー、体は人間の2倍くらいの大きさでぇー、ちょっと鼻息荒いかも?


……なんて考えられてるうちはまだ幸せだったと思う。













『……っ……ガァルルガォオオオ!! 』

「いやあぁぁぁあ!!! 」



いきなりこの目の前の熊らしいケモノ、あっ、熊って言っちゃった。もう熊でいいわ。

熊が雄叫び上げて私に対してご自慢の爪で襲ってきたらそりゃわけも分からず逃げるわよね?

でもって逃げてる感じから思うにここはどこなの?


起きた途端にこの熊が居たから周りなんて気にせず逃げ出したけどなんで日本に熊が!?

いや動物園にいるのは知ってるけどっ!?


『グワァァア!! 』


こんなか弱き乙女に襲い掛かるなんて知らないけど!?

野生!? 野生動物なのか!?

日本に野生の熊がいたの!?

いやその前に私が住んでいたのは都心じゃないにしろある程度都会でしたけどぉぉお!!

地面はアスファルトで、ビルディングの大渋滞ですけど!!

1個路線が止まればちょっと歩けばほかの交通手段で会社に行けるくらいは社会発達してましたよぉ!!


「……っ、はぁ……はっ、は!」


思考は馬鹿みたいなことしか回らないのに危機管理能力的な感じで必死こいて走り続けてるけど、やっぱりもうすぐ三十路の体力はもう限界がすぐそこまで来ている。

なのに熊は相変わらず私を追ってきている。


「……うわっ!? 」


バタりと何も無いのに足がつまづく。

やっぱり体力の限界だ。足は思った以上に上がらないらしい。


『がぁぁあ!!』


すぐに起き上がれないからだを追い詰めるように低い獣声。

死んでしまう。

思わず恐怖で目をつぶった。



…なんでこんなことになるの?

今頃電車に乗って会社に行って上司の無理難題を押し付けられてぶつくさと心の中で愚痴にながら仕事してるはずなのに。

なんでこんな熊に襲われなきゃならない。なんで服をボロボロにしながら逃げなきゃならない。

……なんで死なないといけない。

世の中、理不尽だ。


恐怖の中で自分に対する未来に悪態をつき続けるとだんだん違和感を感じる。


……ちょっと、襲うの長くね?

体感的には2~3分は経過してるハズ。

いや私の長い回想時間を作ってくれたのは大変ありがたいけどここまで語らせてくれなくてもよかったよ。

なんなら『仕事してるはずなのに』辺りでサクッといって欲しかった気がするよ。

最後の方なんてポエムぽくって逆に恥ずか死なんですが。


「…おい、そこのあほ面女」


自問自答してる中に聞こえてきた私と熊もどきとはまた違う声。

ゆっくり瞼を開けると真っ先に見えたのは熊が倒れてる姿。


…嘘だろおい。

よく見たら頭と胴が分断されている。

ま、まさか私のポエムに発狂して分断された!?


「んなわけねぇだろ、恥ずか死女」


そんな声と共に後ろからパシッと頭を叩かれる。

……った!誰だよ、恥ずか死女とか言ったやつは!


咄嗟に振り向けば剣みたいなものを担いだ1人の男の人。


「恥ずか死女ってさっき自分で言ってたじゃねぇか。 」


そう言って笑う一人の男性(・・)


……いや、さ。こういう時の普通相場って目が覚めるようなは言い過ぎだけどイケメンが立っていたというのがセオリーじゃない?

でも言わせてもらっていい?


「……きもちわるい」

「おいてめぇ、今俺の顔みて言ったな? 言ったよなぁ!? 」


だってさぁ、ちょっと期待するじゃん?

私はこう見えてラノベとか偏見ないからたまに読むんだけどやっぱ期待するじゃん?(2回目)

で、これじゃん?


目は釣り上がり気味、鼻と口のバランスも悪い。

笑うとよく悪役とかでタチの悪い二ヒヒとか効果音とかつきそうな感じ?

あと全体的に命助けた俺かっこいいだろ? 風を出されても正直受付拒否なんですが。


「なんだ、恥ずか死女のくせに偉そうに」

「…その"恥ずか死女"ってのやめてくれない?

きもちわるいから」

「きもちわるいって俺の顔は生まれつきだ!! 」

「うわっ、そうでしたか。 ……可哀想に」

「憐れむんじゃねぇよ!! それに俺はこれでもご近所さん達には優しくてかっこよくなったねってお墨付きもらってんだぞ!! 」

「それは単に比較対象がいなかったからでは? 」

「居たわ! 隣のおばさんにはすっげぇかっこいい旦那さんがいますぅー。 でもおばさんはかっこいいって言ってくれましたぁー。」

「お世辞に決まってるでしょ。おべっかよ。」

「一言多いんだよこの恥ずか死女!! 」


なんとも血の気の多そうな(私的に)きもちわるい男。

まあなんにせよ、助けてもらったことには変わりはない。


「……とりあえずきもちわるいけど助けて貰ってありがとう。

お礼は言っとくわ。きもちわるいけど」

「一々てめぇは気持ち悪いって言わなきゃ気がすまねぇのかよ。

…で、あんた何者だ?

こんな森の中に武器も持たずに女が1人で居るなんて死に行くようなもんだぞ?

それにその変な服装……。ひょっとして異世界人か?」


舐め回すような目線が不愉快極まりないけど、仕方が無いのはわかる。

大丈夫。こいつはイケメンだと念じておけば。


「おい、聞いてるのか恥ずか死女。」


こいつはきもちわるいけどイケメンだ、こいつはきもちわるいけどイケメンだ、こいつはきもちわるいけどイケメンだ……


「こいつはきもちわるいけどイケメンだ、こいつは」

「口に出てるぞポエム女」

「いい加減その恥ずか死女とかポエム女とか変な呼び方やめてくれる!? 」

「自分で言ってたくせに」


ああ、言ってたとも!

言ってたけど他の人にそれを言われると腹立つのよ!


「……ちっ、んで、お前は異世界から来た異世界人で間違いないか?」

「……異世界人? ってことはやっぱここ日本じゃないの?」

「ニホン? なんて言葉俺は生きてて1度も聞いたことはねぇ。

ただこの世界には神からの使者で度々異世界からやってくる人間がいる。 そいつらも服装が見たことないものを身にまとっていると本で読んだからな。

お前もその辺と踏んだ訳だが、当たりなようだな。」


……くっそう。セリフとか聞いてたらすごくイケメンなのに顔が残念すぎて。


「……人の話を聞け!」

「……うわっ!? いきなり大声出さないでよ。」


耳がキーンってするじゃない。


「……とにかく異世界人は速やかに国に届け出ないといけない。 これはこの世界の決まりだ。

国が保護し、慣れない異世界人を援助するシステムもある。 」


要するに私は神より飛ばされた異世界人の1人でこの世界にはそういう人達が過去にも何人かいる。

だからそれをサポートする仕組みもこの世界の国がしっかり仕組みを作ってあるって事ね?


だから私のことを知らせなきゃいけないっと。


「…それって信用できるの?」

「お前人が助けってやったのにまだ信用出来ないのか」

「助けてもらったのはありがたいけど信用出来るかどうかはまた別の話よ。

だいたいアンタがもっと顔が整ってたら私即信用してると思うし。 」

「お前ほんとに顔ばっかだな。」


当たり前でしょ?

人間第一印象が肝心なんだから。


「……なら余計に来といた方がいいぜ?何せうちの国王は既に王太子が成人迎えているってのに未だに愛人候補が名乗りあげる程顔がいいからな「え、マジで?いくいく行きたい!! 」……はぁ。」


こうして私は熊に襲われて助けて貰ったきもちわるい精神的に受け付けない男と共に異世界の王に尋ねに行くことになった。

そこでイケメン国王にメロメロになったり、きもちわるい男が実は王太子だったり、実はセオリーみたいに呪いをかけられていてとけた瞬間イケメンに変貌して迫られたりするのはまた別のお話。


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