愛しのレイチェル
戦いを終えた俺達は、魔物のドロップを回収し、牧羊犬のチャッピー(レイチェルにその名で紹介された)を呼び戻し、羊の群れ集めてキャンプ地へ向かった。
広大な放牧地帯には、いくつかの放牧キャンプが設けられている。そこにテントを張って寝泊まりし、昼間は牧草地へ羊を放す。周辺の牧草が少なくなると次のキャンプ地へ移動する。これが羊番の遊牧生活だ。
地形設定はシナリオ班の仕事なので俺は詳しくないが、ゲーム世界の大陸西端、ウェストリア辺境州の丘陵地帯だろう。レイチェルの話では、このキャンプ付近に人里はなく一番近い村まで20キロ、ギルドのある街は40キロ、州都は150キロの彼方だそうだ。帝都にいたっては位置はおろか存在さえ知らないらしい。
オープンワールド型だからといって無駄に広大なマップだな。プレイヤーが少ないと人口密度が低すぎて満足に遊べなくないか?シナリオ班へ日次アクティブユーザー数(DAU)の想定から逆算してマップを作るように提案しよう。
レイチェルが「帝都って何?」と聞いてきたので、わかりやすく説明した。
この大陸全土を支配する「帝国」があり、その帝国の一番偉い人である「皇帝」の居城がある場所が「帝都」だ。帝国には封建領主が存在せず、その国土は20の「州」に分割され、帝都から派遣された「太守」が州の統治を行う。古代中国の秦・漢帝国をモデルとした中央集権国家である。
以上、わかったかい?
レイチェルは俺の説明を「帝国?皇帝?なにそれ知らない」と冒頭でぶった切った。彼女の知る世界は、魔物の棲む「森」、羊を放牧する「牧草地」、畑仕事をする「村」、市場やギルドがある「街」、魔物討伐軍が駐屯する「州都」、これだけだ。
辺境のNPC村人にとって世界は単純明快だ。田舎の住民はこの程度の認識で十分なのだろう。
まあ、今は世界観などどうでもいい。レイチェルと過ごした夜に、話を戻そう。
到着したキャンプ地は頑丈な柵を巡らせた草地で、中には井戸・炊事場とテント村があり、数人の羊番と多数の羊が休んでいた。
俺達は炊事場で急いで食事を済ませ、レイチェルが寝床にしているテントに入るやいなやラブラブタイムに突入した。宵空には満月が低く輝き、テント入り口から月光が差し込んでいる。その青い光に照らされて暗闇に浮かび上がるレイチェルの姿は幻想的な美しさだった。俺はレイチェルを抱き寄せて貪るようにキスをする。レイチェルも俺の情熱に応えて舌を絡め返した。見た目は20歳前後の清純そうな娘だが、男を知ってる反応だな。うーん非処女かぁ。そもそもNPCは歳をとるのか、という根本的な疑問は捨て置く。
大人のキスをたっぷり楽しんだ後、寝具として使う毛皮の敷物の上に彼女を押し倒す。レイチェルは、躰が臭うから先に汗を拭かせてくれと言い出したが、それを拭き取るなんてとんでもない。匂いも含めてレイチェルの全てを堪能したい!どうせこれからの運動で一汗かくから同じだと説き伏せて、いよいよレイチェルの服を脱がせにかかったのだが、ここで大問題が発覚した。
このゲーム世界の衣服は脱ぐように出来ていなかった。ボタンや紐の結び目はあるが服と一体化しており、ただの飾りだった。まあ、そういうプレイが目的のゲームじゃないから仕方ないけどさぁ、頑張って作り込んで欲しかったよ。恨むぞ、モデリング班。
そもそもこれは俺の夢なのだから、こういう場面までゲームっぽくする必要はないんじゃね? これから抱く女の衣服を一枚、一枚、エロく剥いてゆく興奮シーンを省くようでは、夢の存在意義が問われる。
もう邪魔な服は破いてしまえと力を込めたが布地は無駄に丈夫だった。しかたなくレイチェルにナイフかハサミを持っていないかと尋ねたら、あるけど何につかうのかと聞かれたので、服が邪魔なので切り裂く、と正直に答えた。
めっちゃ怒られた。ラブラブ空間が霧散して小一時間も説教された。俺は過去の辛く悲しい経験から、怒っている女には理屈や説明は一切通じないと学習済みなので、一言も反論せずに平謝りして、ようやく許してもらった。
さすがに二人とも白けてしまい、今夜はこのまま眠る流れになったのだが、そこでミラクルがおきた。レイチェルが毛布を肩から羽織って寝具の上に立ち、服に二本指をすべらせて「着衣解除」とつぶやくと、衣服がスルッと脱げて足元に落ちた。えっ、魔法で脱ぐのかよっ!
彼女は服を畳んで枕元に置くと、そのまま毛布に包まって横になる。ちらっと俺の方を見て言った。
「ヨシヒコ、毛布は持ってる?」
「持っていない」
「仕方ないわね、半分貸してあげる。服を脱いでこらちへ来て」
俺もレイチェルの動作を真似て「着衣解除」とつぶやいてみた。おお、脱げた!!
マジかよ、俺も魔法が使える!と感動したが、後日にレイチェルからそれとなく聞き出したところ、服の方に着脱魔法が付与されているのだった。確かにゲーム画面ではワンクリックで着替えが完了し、モソモソと脱いだり着たりはしない。レイチェルが先の説教タイムでブチ切れていたのも理解できる。このゲーム世界の「服」とは魔道具であり、高価な品物なのだ。高価だが耐久性もあるので貧乏人は親子代々着回すらしい。
だが、このときの俺は悠長にそんな考察をしていたわけではない。どうやってラブラブタイムを再開するかを必死に考えていた。紳士的にレイチェルの毛布に潜り込み、彼女と躰をピッタリ寄せ合った。1枚の毛布を二人でシェアするのだから、こうするのは仕方ない。レイチェルも「仕方ないわね」と言っていたから問題はない。
レイチェルの瑞々しい素肌の感触を、彼女に触れている肩や腕で堪能する。勝手に手を伸ばして触ったりはしない。喧嘩の後の仲直りセックスには誠意とムード作りが大切、がっつかずに紳士的にアプローチするのだ。俺はそっと彼女の耳元で囁く。
「レイチェル、愛してる」
「私達、今日出会ったばかりなのよ」
ここで『ごめんなさい』とお断りされたら撤退するしかないが、
告白は受け取ってもらえた。もう一押ししてみよう。
「時間なんて関係ない。一目で君に夢中になった」
「口の上手い男は信用できないわね」
はぐらかされたか。ならば直球で勝負だ。
「愛してる、俺を信じてくれ。君の気持ちが知りたいんだ、レイチェル!」
「信用はしない。でも、騙されたっていい。ヨシヒコ、私も愛してる!」
やったぜ『騙されたっていい』を頂きました。俺が女に言わせてみたい台詞の第三位だ。
ちなみに第二位は『もう我慢できない、私をメチャメチャにして』、第一位は『すごい!こんなのはじめて』です。
我ながら頭悪いな。いいじゃんか、男の夢なんてこんなものさ。
レイチェルは俺に強くしがみつき、激しいキスを求めてきた。
俺たちは結ばれて1つに溶け合った。
R18制限の警告を受けたので、色々とカットしました。