君の名は
そして、ついに最後の二匹の魔物を倒した。
魔狼LV3を屠ったとき、経験値が満杯になってLVが上がった感じがした。
「やった!魔物を全部倒し切ったぞ」
藤原は頷いたが、俺から距離をとり警戒した表情で俺を見つめていた。
おいおい、戦闘が終わった途端につれない態度だな。互いに命を預けて戦った仲じゃないか。
「剣を返して。そこに置いて五歩下がって」
「あ、ああスマン。貸してくれてありがとう」
意味がわからないが指示通り、俺は剣を地面に置いて五歩下がった。
藤原は剣を回収すると、俺を見つめて問う。
「この剣を持ったあなたは、マナ切れの私より圧倒的に有利。
この剣を持ち逃げしようとか、私を殺して奪い取ろうとか考えなかったの?」
「まさか、俺を助けてくれた恩人にそんなことはしないよ」
「あら、助けは有料よ。金貨10枚の約束を忘れないで」
「あー支払いはしばらく待ってくれ。今、文無しなんだ」
藤原は、にぱっと笑って俺に言った。
「わかった。信じて待ってあげる!」
こりゃあかん、藤原が愛しく見える。吊り橋効果ってやつだな。
もともと藤原の美貌には心惹かれていた。中身が残念でなければ口説いていた。
本当の中身がこれならば、阻むものは何もない。
ダメだダメだ、騙されちゃダメだ。このカラクリの見当はついている。
それを確かめるため、俺は彼女の頬に手を伸ばす。
「もっと近くで顔を見せてくれ」
驚きと期待がまざった表情で彼女が俺を見つめ返す。
すげーな、こんな表情が出せるのか。
瞳を覗き込むと、精緻な虹彩がゆっくり収縮する。
化粧なしでも完璧な眉毛のライン。
頬を撫でると、乳児のような瑞々しい肌の質感が指に伝わってくる。もちろんシワやタルミは一つもない。
プリッとした唇がわずかに開き、吐息が漏れた。
藤原、お前は天才だ。
このグラッフィクはまさに神業だ。現実を超えるリアルがここにある。
平面アニメ顔娘は、藤原の手により顔のグラフィック素材が交換された。あろうことか藤原は自分の顔写真を素材化して使ったに違いない。あいつにとってはただの悪戯だろうが、今の俺にとってはご褒美だ。
この娘の体はグラフィックで、魂は自律学習AIによる作り物だ。NPCだとわかっているさ。それがどうした、現実のどんな女より魅力的で愛おしい。夢の中だ、本音でガンガンいこうぜ。
「俺の名はヨシヒコ。君の名が知りたい」
「私は、羊番のレイ。剣士アレクシスと剣士アリシアの子、魔術師レイチェルよ」
「レイチェル、俺は君を……」
「ヨシヒコ、もう黙って」
俺の不器用な告白は、彼女の唇で塞がれた。