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アニメ顔娘とバトル

 美少女アニメキャラと対峙した俺は混乱していた。


 何だ、この状況は。ラノベアニメも同人誌も守備範囲の俺だが、夢の中にまでアニメキャラが出てくるような重度の二次元オタではない。こういう場面は実在の美少女アイドルでお願いしたい。VRMMO世界に引き込まれた系のラノベは沢山読んだが、実際に体験するとこういう感じか。美少女ハーレムを作っても、アニメキャラやCGキャラがHの相手とか無理。


 じっくり観察すると、見覚えのあるフリー素材のアニメ顔テクスチャが、彼女の頭部に平面のまま貼りついていた。ないわー、これないわー。その作業をしたのは俺だけどな。

 グラフィック班がインフルエンザで集団病欠したので俺が代理で仮作業し、職場復帰したら直すように指示しておいたのだが無視しやがったな。とにかく、ここが制作中のMMORPG世界であることを確信した。


「もう一度、問います。あなた何者?答えないなら火炎弾を撃ち込みます!」


 火炎弾と申したか?

 だが、そんなことより彼女が口パクなしで声だけ出すのが気になって仕方がない。これは改善指摘を出したいがスケジュール的に無理だよな。作業を増やして自分の首を締めるだけだ。よし、見なかったことにしよう。

 などと考え込んでいたら、俺が返答しないと判断したのか、彼女のアニメ顔の目元が怒りの表情に差分で切り替わり、俺に向けられた長杖の先端が妖しく光りだす。


「精霊よ、我がマナを捧げて請い願う。集え炎、弾となりて敵を斃せ!」


 呪文なげーよ。敵に対処の時間を与えすぎだろう。

 長杖の先端にブワッと炎が渦巻き、それが収縮して拳サイズの塊になると俺に向かって飛んできた。

 火炎弾の発動エフェクトはスケジュールに余裕のあった開発初期に、出資者へのプレゼンで披露する目的も兼ねて作ったので、よく出来ている。だが飛行中の火炎弾は仮置きの止め絵のままで、効果音もショボくて迫力がない。当たっても大したことがなさそうな雰囲気だ。火炎弾は標的のHPを固定値で5削り、さらに術者の火魔法スキルのランク値二乗を追加で削る仕様だ。ん、まてまて雰囲気に騙されるところだった、これは当たるとヤバイ。俺は慌てて火炎弾を避けた。


「待ってくれ、撃たないでくれ。俺は……通りすがりの旅人だ」

「嘘ね。旅の装備を身に付けず、手ぶらな旅人なんていないわ」

「いや、それは……装備を盗賊に奪われてね。困っているんだ」

「ふーん、そして今や盗賊の斥候におちぶれですか。

 仲間の盗賊は何人いるの?正直に言いなさい」


 俺は両手を挙げ、降参のポーズで固まった。

 マズイぞ、いきなりピンチだ。誤魔化そうとして適当な嘘をついたら、盗賊認定されてしまった。ここは戦うか、逃げるかだ。どちらにしても相手と俺のステータスやスキル構成を知る必要がある。

 ゲームでは、プレイヤー俯瞰視点の画面左端をスワイプすればシステムウィンドウが開いて自分のステータスや保持スキルが確認できる。相手の頭部を画面上でタップすると相手ステータスがポップアップ表示するのだが、ここには画面がない。その辺の空中をスワイプやタップしたら何か出るかも。それっ、えいっ、やあ。


「その変な動きをやめさない!」

「信じてくれ、俺は盗賊じゃない」

「盗賊は皆、そう言うのよ」


 俺はここで初めて自分自身を観察したが、初期プレーヤー設定そのものだった。装備はサンダル履きで布の服、腰紐には木の棒を刺している。つまり初期ステータス「LV1/HP10/MP10/EXP0/スキルなし」である可能性が高い。

 ゲームのチュートリアルでは、システムウィンドウからガチャメニューを開き、そこでレア装備確定チケット5枚を消費して装備ガチャを回す流れになっていた。そしてレア装備を駆使して魔物を倒すことで経験値を積み、ランダムドロップする装備やスキルを集めて成長してゆく。装備やスキルのランク上げは合成ガチャを回して行う。要するにシステムウィンドウにアクセスできなければ、このMMORPG世界では強者になれない。

 さらに各スキルには発動条件がある。火魔法の火炎弾はステータスLV3以上にならないと発動できない。つまり平面アニメ顔娘は最低でもLV3、俺より3倍以上強い。詰んだな俺。


「抵抗しなければ命は取りません。生きたまま村の衛兵に引き渡すわ」

「見逃してくれないか?」

「ダメです」


 彼女は素早く指笛を吹き、それに応えて牧羊犬がすっ飛んできた。

 速っ!この場から走って逃げる案はボツになった。

 そして俺の足元で牙を剥いて威嚇する犬を見て、再びゲンナリした。簡素なモデリングでカクカクした体、そこに毛皮の絵が貼ってある。ペーパーモデルかよ。こういう場合は画像を法線マッピングして毛皮の質感を出すのが定石だが、モフモフが必要!とゴネるグラフィック班の要求をフレームレート落ちを理由に却下したのは俺だった。


「わかった、正直に話すから聞いてくれ」

「ようやく白状する気になったのね。仲間の盗賊は何人ですか?」

「信じてもらえないだろうから黙っていたが、俺はこの世界を創造した者だ」

「ああ、なんてこと!!」


 彼女のアニメ顔の差分が切り替わった。驚いているようだが、驚き顔のグラフィックは用意されていないので、単にデフォルトの顔に戻っただけだ。火炎弾発射の構えを解いて長杖を両手で持ち、こちらへ歩み寄ってきた。俺は期待を込めて質問した。


「俺を信じてくれるのか?」

「ふざけないで、この罰当たり。神を騙る者は教会で火炙りよ!」


 俺は避ける間もなく長杖で滅多打ちにされ、地面に倒された。LV1の俺がLV3相手にガチの直接戦闘で勝てるわけがない。

 火炎弾による致死攻撃から、殴って生け捕りに方針変更してくれたのは良いが、痛い、痛い、痛い!痛くて死ぬ〜

 打撃を避けようと必死に地面を転がっていたら、偶然にも彼女のスカートの真下へ首を突っ込んでしまった。そしてスカートの中の光景に驚愕して叫んだ。太ももの先には綺麗な生尻、つまり


「え?パンツ履いてない!」

「このっ、痴漢!!」


 股間を強打され、俺はあまりの痛さに気を失った。


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