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ベッキー分隊

「これが羊番の腕利きパーティか。なんとも頼りないな」


 俺達は出発に際して魔物討伐軍指揮官の元へ挨拶に伺ったのだが、騎士甲冑を着た指揮官は開口一番に嫌味を言った。パーティリーダのバーニーがそれに返答する。


「騎士様、辺境の民に多くを期待されも困りますぜ」

「先ほどの喧嘩騒ぎは見ておったぞ。そこの男は子供に倒されていたが、使い物になるのか?」


 騎士が俺を見て腐す。ぐはぁ、弱っちくてゴメンナサイ。

 そんな俺をバーニーがフォローする。


「騎士様、ヨシは喧嘩は弱くとも知恵が回る。魔物が棲む森の中できっと役立ちますぜ」

「ふむ、よかろう。弁舌ではなく働きでその力を示してもらおうか」


 ちょ、バーニー、勝手にハッタリをかまさないでくれ!

 騎士が俺を上から下までじっくり検分する。


「貴様はその服で森に入るつもりか、魔物の爪や野獣の牙を防げまい」

「はあ、あいにく服はこれしかないので」


 騎士が身に着けている「騎士甲冑」は、ダメージを50%カットする効果を持つ()()()()である。

 何故知っているかって?このゲームのデバッグ作業にて、何百時間もバグ再現プレイを重ねている俺にとっては見慣れた装備だからだよ。コモン(C)やアンコモン(UC)装備はいちいち覚えていられないが、レア(R)やスーパーレア(SR)装備はだいたい頭の中に入っている。

 一方、俺の服は初期プレーヤー用のデフォルトアイテム「布の服」だ。これは装備ですらない、ただのアイテムだ。

 レイチェルを含めて他のパーティメンバーが着ているのはいかにも田舎者らしいもっさりとした服装、貫頭衣の重ね着「羊番の民族服」だが、これもただのアイテムにすぎず、防御力は俺の服と大差がない。


 騎士は暫し考え込んでから、隣に控える女性兵士に向かって命令した。


「ベッキー准尉、この羊番パーティに予備の軍服と防具を貸し出せ。

 そして、貴様がこのパーティを臨時分隊として統率しろ。

 その間は副官の任を解く。

 以上、復唱せよ」

「ハッ! 私ベッキー准尉は、ダニー中尉付き副官の任を離れ、羊番パーティに予備の軍服と防具を貸出し、分隊として統率します」

「宜しい、直ちに実行せよ」



 ◇ ◇ ◇



「あたいは327偵察小隊配属の士官候補生ベッキー准尉。呪術師レベッカだ」


 騎士の隣に控えていた女性兵士はそう名乗った。

 赤髪ロング、外ハネで毛先は腰の位置。勝ち気な性格を伺わせる強い瞳。細身の体型にぴったり張り付く垢抜けた士官服がよく似合っている。レイチェルのような艶めかしさはないが、魅力的なキャラ造形だ。

 これはグラフィック班長である一条が手がけたキャラクターだろう。一条は平凡な造形にワンポイント加えて手際よく個性を際立たせるのを得意としている。このキャラクターの場合は外ハネ髪と瞳だな。


「まずは、これに着替えな」


 女性兵士(ベッキー准尉)は軍馬の鞍に取り付けた背嚢マジックリュックサックから4人分の軍服を引き摺り出し、俺達にぽいぽいと投げて寄越す。がさつな性格らしい。

 俺達が着衣呪文で軍服に着替えると、次の指示を飛ばす。


「脱いだ服は軍服のポケットに突っ込んどきな、魔法収納になってる」


 おー、それは便利だな。収納アイテムを持たない俺は、レイチェルの頭陀袋マジックバッグに頼っていたが、これで楽になる。


「んで、次はこれを被りな」


 4人分の革の兜が投げ渡された。詳細は覚えていないが、この兜と軍服には見覚えがある。たぶんアンコモン(UC)装備だろう。効果はダメージ20%カットだったかな?

 ゲームプレイヤーにとってコモン(C)装備やアンコモン(UC)装備はゴミであり、ガチャで出たら装備合成の餌にするか即廃棄するしかない。だが、今の状況では有り難い装備だ。


「おっけー、形は整ったな。んじゃ、あらためて自己紹介な。

 あたいはベッキー。歳は19、士官候補生、階級は准尉、ジョブは呪術師だ。

 お前たち羊番パーティを臨時分隊として統率する分隊長を拝命した。よろしくな」

「おう、よろしくな。ねえちゃん」


 ベッキーの雑な挨拶に対して、パーティリーダのバーニーもぞんざいな返答を返したことで、俺達の間に緊張が高まった。ベッキーは眉を吊り上げてバーニーを睨む。


「おっちゃんから見れば、あたいは小娘だけどさぁ。

 あんたらの上官じゃん。もっと敬意を込めた態度が欲しいな」

「そりゃ話が違うぜ。俺っちは食糧調達のために雇われたはずだ。

 徴兵されて、ねえちゃんの下に配属された覚えはないぜ」


 バーニーの抗弁に対し、ベッキーはやれやれという態度で突き放す。


「あたいの知ったこっちゃないね。

 ダニー中尉からあんたらを臨時分隊として統率せよと命令されたんだ。

 あたいはその命令に従うだけさ」

「文句があるなら、騎士様(ダニー中尉)に言えってか?」

「あんたらが望むならな。けど、あまりお薦めしないぞ」


 ベッキーの説明によれば以前にも同じようなことがあり、ダニー中尉は抗弁を聞き届けて村人パーティを分隊として軍に組み込む命令を撤回したが、その村人パーティは魔物からの撤退戦にて、逃げ遅れて全滅したそうだ。


「軍に組み込んだ兵の命には責任を持つけどさぁ、

 そうじゃない奴らは知ったこっちゃないから、

 わざわざ伝令を出さないし、

 上からの命令でも無い限り救援もしないってことさ。


 さあ、もう一度聞く。

 あたいを上官と認めて、敬意をはらうかい?」


 ベッキーは俺達を見回してニヤリと笑った。


 うーん、なかなかに手強い娘だ。さらにごねても何かを引き出せるとは思えない。

 俺はバーニーに視線を向けて無言で問う。バーニーは肩をすくめて首を振った。


「降参だぜ、ベッキー分隊長殿」


 俺達はベッキー分隊として軍に組み込まれた。

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