効率厨で何が悪い
★前回に示されたステータス情報
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ヨシヒコ @バーナードのパーティ
ジョブ:剣士
スキル:なし
装備:R鋼鉄の剣、レア装備確定チケット5枚
ステータスLV2:HP11/20、MP20/20、EXP9/400【HP回復中 4:23:45】
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予想はしていたが、俺のステータス情報は、俺が初期プレイヤー(LV1/HP10/MP10/EXP0/スキルなし/初回ログイン特典チケット保有)としてこのゲーム世界に入ったことを示している。
LV2に上がっているのは、レイチェルと出会った直後に魔物8匹と戦い、経験値を得てレベルアップしたためだ。HPが減っているのは、先程のマイク少年との殴り合いでダメージを受けたせいだ。
ジョブはやはり「剣士」か。初回ログインのキャラメイクの際にジョブは自由に選べるのだが、選択肢のデフォルトは「剣士」なのである。初回の夢でキャラメイクやジョブ選択のシーンは無かったので、デフォルトのまま確定したのだろう。
「お前、剣士のくせして剣術スキルを持ってないのかよ。それに、このなんとかチケットというのは何だ?」
「えーと、上手く説明できないけど、俺の故郷ではこれが普通……」
バーニーは俺を探るように眺めたが、
「余計な詮索はしない約束だったな。俺っちは何も聞かないことにする。だが、軍の連中に知れると面倒だ。注意しろよ」
「ああ、もちろんだ」
めっちゃ怪しいので早くチケットを使い切りたいが、それにはシステムウィンドウからガチャメニューを開き、装備ガチャを回す必要がある。ステータス情報ウィンドウが呪文で開けるならば、システムウィンドウも呪文で開けるだろう。
「バーニー、つかぬことを聞くがシステムウィンドウを開く呪文を知らないか?」
「ん?システむウイんど?なんじゃそりゃ」
「このチケットに関することなんだが、知らなければ忘れてくれ」
NPCはガチャを回さないから知らなくても仕方ない。明日、現実世界で目覚めたらシステムウィンドウを開く呪文を探ってみよう。
「話が逸れたな、次は武器装備の確認だぜ」
バーニーが羊皮紙の装備欄に記載された「C短槍」の箇所を指で触れると、羊皮紙の記載内容が書き換わった。
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コモン装備「短槍」
解説:熟練戦士の槍。
効果:槍術のクリティカル発生率がLVに比例して上昇する。
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続いてレイチェルが「C長杖」の箇所に触れる
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コモン装備「長杖」
解説:マナ回復を助ける杖。
効果:マナ(MP)回復が毎時プラス1%増加する。
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メルが「Cロザリオ」の箇所に触れる
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コモン装備「ロザリオ」
解説:聖母への祈りを強める祭具。
効果:光魔法のリキャストタイムを30秒短縮する。
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最後は俺だ。「R鋼鉄の剣」の箇所に触れる
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レア装備「鋼鉄の剣」
解説:鍛冶神が鍛えし名剣。折れず、鈍らず、刃が通らぬ魔物なし。
効果:標的のライフ(HP)を固定で15削る。
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鋼鉄の剣の解説文が、妙に文学的だな。
これを書いたのは絶対に平川だろう。一昨日の進捗会議では装備のフレーバーテキストは八割完成と報告していたが、レア装備の解説文を嬉々として推敲している平川の姿が目に浮かぶ。スケジュールをガン無視して没頭していたに違いない。あいつはそういうやつだ。
まあ、解説文は雰囲気作りにすぎない。大事なのは効果の方だ。
パーティの誰に何を装備させるかはとても重要である。装備の効果を最大限高める工夫をしよう。俺は、レイチェルとメルに質問した。
「レイチェルが火炎壁魔法を連発し、メルがレイチェルに回復魔法をかけてマナ補給を繰り返すと、二人がマナ切れになるまでに火炎壁を何発撃てる?」
「私の持ちマナは30で、火炎壁魔法は一回につきマナ1を使うから、私のマナ切れまで30発ね」
「わたしの持ちマナは20で、回復魔法は一回につきわたしのマナ1を使って、相手にライフ5とマナ5を補給できます。わたしがマナ切れまで頑張って、レイ姉ちゃんに補給できるマナの合計は5掛ける20、えーと……100です。だからレイ姉ちゃんは火炎壁を130発撃てます」
「もう1つ質問だ。ライフとマナの自然回復は一時間あたり最大値の10%だから、
レイチェルの一時間あたりのマナ回復量は3、メルは2となる。
これで間違いないか?」
メルはこくりと頷いたが、レイチェルは訂正を入れてきた。
「長杖を装備した私は一時間あたり11%、マナ回復量は3.3になるわ」
さすがだ、レイチェル。長杖の運用結果を正確に理解している。
「先ほどの答えで、二人が組めばマナ切れになるまでに火炎壁を130発撃てることはわかった。では、マナ切れ後を考えてみよう。
メル、自然回復分を使って一時間当たりレイチェルに補給できるマナの量は?
レイチェル、自然回復分とメルからのマナ補給を使って一時間あたり火炎壁を何発撃てる?」
「えーと、わたしの回復分2でレイ姉ちゃんに補給できるマナは10です」
「私の火炎壁は、自然回復と長杖分で3.3発、メルからのマナ補給分で10発。合計で13.3発ね」
その通り。ここからが本題だ。
「メル、君が長杖を装備したらどうなる?」
「えっ、わたしがレイ姉ちゃんの長杖を?
うーんと。私の回復分が2.2になるから……レイ姉ちゃんに補給できるマナは11です。レイ姉ちゃんの自然回復3とあわせて14。あっ!
ヨシさん凄いです。火炎壁が14発に増えます!!」
増加分は、わずか0.7発。ゲームならば効率厨と批判されるかもしれないが、NPCにとってこのゲーム世界は現実だ。最後の一発が撃てるかどうかで生死が分かれる場合もある。俺はレイチェルを失いたくない。徹底的に効率を追求して生存率を上げるんだ。
「そういうわけだ、レイチェル。このパーティの間はメルに長杖を貸し出してくれ」
「わかったわ。メル、はいどうぞ」
メルがレイチェルから長杖を受け取る。バーニーが感心して言った。
「ヨシ。その知恵ならば軍の参謀が務まるぜ。志願してみたらどうだ」
「だめよバーニー、ヨシヒコは私と一緒に暮らすのよ」
もちろんだよ、レイチェル。俺も君とずっと一緒にいたい。
たかがゲームの夢じゃないか気楽にやろう。という当初の気分は消えていた。
レイチェル、君を死なせない。絶対にだ。