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ポンコツMMORPGへようこそ  作者: フォークと白紙
残念美人と羊番
13/19

残念美人と攻防戦

「元カレのことはもういいっす。さあ飲も、飲も」


 藤原がワインボトルを傾けて、ルビー色の液体をグラスにゆっくりと注いでゆく。

 アルコールと揮発成分の混じった複雑な香りが広がる。ワイン素人の俺でも格別なものだとわかる。

 グラスに注がれた液体をぐるぐると回して香りを立たせようとしたら、藤原が慌ててストップをかけた。


「ちょ、皇さん!

 年代物ワインは激しくスワリング(グラス回転)しちゃダメっす。

 酸化が進みすぎて味が壊れちゃいます。優しく丁寧に扱って欲しいっす」


 お、おう。そうなのか、高級ワインは飲み慣れなくて、作法がわからん。


「では、私たちの初デートに乾杯〜っす」


 藤原はグラスを合わせてチンと澄んだ音を響かせると、グラスの開口部を顔にぴったり押し付けて内部の香りを吸い込む。その後に少量のワインを口に含んで口内で転がし、鼻から息を抜いた。


「すっごい良いっすよ、これ。

 全然崩れてなくてボディしっかり、奥深い香りとスパイス味。

 昆布出汁のような旨味もあり、もちろん樽の存在感も。

 1992ってオフ・ヴィンテージ(ハズレ年)なんすけど、さっすがDRCっす!

 美味しい、旨い、最高!」


 藤原、超ご機嫌である。満面の笑顔でワインについて語る、語る。

 いつもの投げやりで冷めた態度からは想像できないな。


「お前、びっくりするほどテンション高くて引くわ」

「うへへ、ワインとBLには目がないっすからね」

「会社でもこういうノリで愛想をふりまけば、飲み友ぐらい出来るだろうに」

「も〜うっさいなぁ。カスと群れる気はないっす。あんなの時間の無駄っす」


 おいおい、カスって。


「あのなぁ、そういう態度だから皆に疎まれるんだぞ」

「あんなつまらない絵しか描けない奴ら、どうでもいいっす」


 これだから天才肌の人間は困る。

 自分の才能を発揮することにしか興味がない。

 周囲の凡人にどれだけ迷惑をかけても平然としている。今夜はその思い上がりを打ち砕いてやるぞ。


「俺達はチームで1つの作品を作り上げているんだ。もっとチームメンバーを気遣えよ。

 才能ある人間だけを集めたら個性が衝突して収拾がつかず、作品は永遠に完成しない。凡人も必要なんだぞ」

「そういうマネージメントは皇さんや一条さんの仕事っしょ。絵描きの私の仕事じゃないっす」

「そうもいかないぞ。お前のところの班長の一条な、来季はアートディレクターに昇進って噂だ。そうなったら、一条の後任はお前だぞ」

「げっ、マジっすか」


 藤原が愕然とした表情で固まった。

 うはは、ざまーみろ。藤原を弄って飲む酒は旨い。


「一条が抜けたら順当にいって次はお前が班長だろ。他に適任がいるか?」

「私は班長やりたくないっす。皇さん、適当な人を外から引っ張ってきてくださいよ〜」

「俺には権限がない。泣きつくなら人事にどうぞ」


 藤原がさらに凹む。

 社内に友人も味方も無く、グラフィック班内でも一匹狼を貫いてきた藤原にとって、班長ポジはさぞ辛かろう。

 グラスが空いているぞ藤原。注いでやるから飲め。このワインはマジ旨いな。


「もしも私が班長になったら、皇さんに助けてもらうっす」

「あのな、俺がお前を助ける義理も理由もねーよ。

 お前は特別手当で俺より高給取りだろうが。

 俺より楽して稼いでいるやつを、なんで助けなきゃならんのだ。

 会社は社員にポジションを与えて成長を期待する、自分でなんとかしろ」


 俺の宣告を受けて、テーブルに突っ伏す藤原。

 やったぜ、撃沈だ。


「え〜と、恋人としての頼みでも助けてくれないんすか」

「そういう公私混同はダメだって。つーか、誰が恋人だって?」

「私が、皇さんの、恋人っす」

「いつから、どうして?」

「さっき、私の告白を聞いてくれたから」


 まて、まて、たしかに告白を聞いた。

 でも、まだ返事をしてないよね?

 イケメン彼氏と続いているかを確認して、そこで話が止まってるよね?


 ◇ ◇ ◇


 藤原との酒は予想外に楽しく、今夜は返事を保留しておきたかったが、勘違いして暴走されたら困る。

 恋愛脳で暴走する社内変人四天王の藤原、どんな大惨事が発生するか想像するのも恐ろしい。

 残念だがここまでだ、きっぱりお断りして退散しよう。


「スマン、告白の返事をしてなかったな。

 俺は藤原と交際するつもりはない」


「私のこと嫌いっすか?」


 藤原は目を伏せて、か細い声で問いかけてきた。

 こんな女でも拒絶されればやっぱり傷つくんだな。

 可哀想だが情に流されてはいけない。スッパリ引導を渡そう。


「女性としては魅力的だ。

 だが、価値観がまるで合わないし、突飛な行動にはうんざりする。

 プライベートを共有したいとは思えないんだ」


 ここまでハッキリと断れば大丈夫だろう、と油断した俺がバカだった。

 敵は俺より何枚も上手だったのだ。

 仏心で付け加えた『魅力的』という一句から全てがひっくり返された。


「そっか〜

 ダメっすか

 でも、まあ……元々、パンツを見せてあげるって約束だったし」


 藤原はゆらりと立ち上がって、腰に手をかけ


「女としては合格なら、こういうのはどうすか?」


 するりとロングスカートを脱いで


「価値観とか、恋愛感情とか、そういうのは全部抜きで、どうすか?」


 上着のボタンを外して前をはだけて


「体だけの関係で、どうすか?」


 下着姿の藤原を唖然と見上げる俺に、覆いかぶさって囁くように


「私の体、好きにしていいっすよ。どうすか?」


 下着の内側から滲み出る彼女の体臭に頭がクラクラする。この女のフェロモンやべぇ。

 俺は吸い寄せられるように彼女と唇を重ねた。


 あー、くっそ。藤原の突飛な行動に対応できず、思わず手を出してしまった。

 『恋人や嫁にしたくないが、抱いてみたい』

 という当初の望み通りの結果を手に入れたが、藤原に主導権を握られっぱなしで気に入らない。

 こうなったらベッドの上で主導権を奪い返す。俺の好きにしていいなら、お前が壊れるまで抱いてやる。泣こうが喚こうが、俺が満足するまで許してやらない。覚悟しやがれ。


「藤原、続きはベッドの上で」

「うん」


 ◇ ◇ ◇


 藤原が立ち上がって先にベッドへ向かう。美女の下着姿は絵になる。

 ブラもパンツもシースルー生地仕立てのエロ下着となれば尚更だ。


「藤原、いつもそんな勝負下着を付けて勤務してるのか」

「まさか。皇さんが『今すぐ』っていうから、慌てて女子トイレに飛び込んで、10分で着替えたっすよ」

「下着を替えるのに10分はかかりすぎだろ」

「女はそれだけじゃ済まないの!

 化粧を直して、髪を整えて、香水つけて、やることいっぱいすよ。

 ようやく準備を終えて皇さんの席に行ったら、帰った後だし。激おこっす」


 無人となった俺の席の前で怒りに震える藤原。その姿を想像して笑ってしまった。


「悪かったよ。お詫びに今夜はたっぷり奉仕するから」


 ベッドに入り、愛撫を繰り返して気分を高めてゆく。

 彫刻のように引き締まったレイチェルの躰と比べて、藤原のボディはだらしない。

 胸も尻も弛んで垂れはじめているし、腰や腹回りも贅肉がついてぷにぷにだ。

 だが、それはそれでソソる。今夜飲んだ年代物ワインの崩れてゆく儚さと熟成した旨味に通じる。

 数十年の熟成を経てこその味わいってやつだ。そうか、あのワインのヴィンテージは……


「なあ、あれは藤原のバースヴィンテージ(誕生年)ワインか?」

「えへへ、そっすよ。私が指定して部長に買わせたっす」

「ということは、お前の歳は……」

「だめ、計算禁止!」

「イテテテテ、おいバカ、やめろ!」


 藤原が俺の股間のモノを掴んで捻り上げる。マジ痛いから、死んじゃうから。


「デリカシーの無い男には、お仕置き!」

「悪かった、すまんかった、藤原も人並みに歳を気にする女だとわかってほっとしたよ。やっぱり女性は25過ぎると、、」

「過ぎると何?もっとキッツいお仕置しなきゃダメっすね」


 藤原は俺の上に跨ると向きを変え、捻り上げていたモノに齧り付いた。

 先端の敏感な部分に歯が食い込む。ちょ、痛ッてー、よせ、喰い千切る気か!


「降参だ、降参!攻撃手段を歯から舌に変えてくれ」

「じゃあ、皇さんも舌で私を攻めて。先にイッたほうが負けっすよ」


 楽しむだけのセックス。娯楽の交わりの始まりだ。

 俺たちは互いに攻撃を繰り返し、快楽を与え合った。


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