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佐栗山探偵事務所譚(仮称)  作者: 茶太郎
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序章 不仲な兄妹

あたしの通う高校は今は冬休み。

今回を最後に、来年度の四月であたしは高校生を卒業する。

三年を掛けてやっと着慣れた制服も、ひとたび学校を卒業してしまえばめっきり着る機会もなくなってしまうだろう。

ついつい感傷的な気持ちに襲われたあたしは、作業の手を止めて、壁に掛けてある制服をじっと見つめてしまうのだった。

思い返してみると、一年生や二年生までは友達のみんなとカフェ巡りをしてティータイムを満喫したり、洋服を買いに行ってはオシャレをしてみたり、テーマパークで皆がくたくたになるまで歩き回ったりと、実に色々なことして遊び尽くし充実していたといえるだろう。

しかし、三年生になってしまってからは、ぱったりと遊ぶ機会がなくなってしまい、なんだか物足りない一年だった。

まぁそれも仕方が無いのだろう。一般的に高校三年生といえば、就職活動だったり、大学に進学するための勉強を始めたりなど、それらを本格的に進めていくものだ。

当のあたしはというと、一家の例に漏れず、祖父の代より続いている<家業>を継ぐことになっている、のだが。

正直なところ、あたしは気が乗らないでいた。幼心に憧れを抱いていたあの頃から、あたしの心はすっかり変わってしまっており、出来ることなら……。いや、もうこのことを考えるのはよそう。

気持ちを振り払うように首を振り、キャリーケースの蓋を力強く閉めた。

「だめだめ!せっかく楽しみにしてたのに、台無しになっちゃうわ、もっと楽しいことを考えないと。」

向こうに着いたらまず何をしよう、早めのランチを食べるのもいいし、あちこち見て回るのも案外楽しいかもしれない。

あっ、プール!そうだ、屋内プールもあるんだった。

そして夜になったら部屋からの夜景を眺めよう、きっといい景色だろうなぁ。

──などと考えていると。

「おい!芽瑠!まだ用意に掛かるのか!?」

と、室外より怒気を含んだ声が投げかけられた。

「ご、ごめん!すぐいくー!」

あの憎たらしい兄のことだ、すぐに向かわないとまたネチネチとイヤミをぶつけられてしまうだろう。

あたしはパンパンに詰められたキャリーケース伴って慌てて自室を後にした。

階段を降りようと階下を見ると、先程の声の主がそこに待ち構えていた。

「どうしてこう、女という生き物は準備に時間がかかるものなのだ、全く理解ができない。」

顔を合わせるなりさっそくイヤミをぶつけられてしまった。

「むっ、月斗が理解できなくても、女の子はそういうものなの!」

「ふん、そんなことはどうでもいい。支度が済んだのならさっさと行くぞ、でないとチェックインに遅れてしまう。」

それだけ言い終えると、月斗はすぐさま踵を返して玄関のほうに向かってしまう。

その背中を、あたしは慌てて引き止めた。

「ちょ、ちょっと待ってよ!コレ重いから下ろすの手伝ってよ!」

あたしの必死の静止に、月斗はうんざりと言った様子で振り返り、手に提げていたキャラメル色のトラベルバッグを降ろし、階段まで戻って来てくれた。

「全く、世話のかかる妹だな。」

特別筋肉質という訳でもはずなのに、月斗はぎっしりと重いはずのキャリーケースをいとも容易く持ち上げ、そのまま階段を降りていった。

普段は悪態ばかり付いている兄の背中が、少しだけ逞しく思えた。……少しだけね。

「ありがとう、助かったわ。さすが男の人ね、見かけによらず結構力持ちじゃない。」

「そんなことはない。どちらかと言えば、単にお前がひ弱すぎるだけだ。」

「ひ、ひ弱って……。」

「とりあえず、荷物はここに置いておくぞ。」

そう言って、玄関のすぐそばにキャリーケースを下ろしてくれた。

「もう他に荷物はないんだろう?後は自分で運べよ。」

吐き捨てるようにそう言った月斗は、今度こそ玄関から外へ出ていくのだった。

「…………はぁ。」

あたしは、言い知れぬ波乱の予感を覚えつつも、また何か文句を言われてしまってはかなわないので、すぐさま月斗の後を追い掛けることにした。

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