②世界平和を守る悪(正義)の組織と戦えと美少女に脅迫された話
何だこれ。
すごいぞ。
信じられない光景だ。
何もないし誰もいない。
世界が真っ白だ。
窓の外は一面の焼け野原。
信号も街路樹も通行人もビルもいつも隣の公園でいちゃつきながら自慢げにこっちを見上げてくるドヤ顔してくるむかつくカップルも道路も何もかも存在しない。
アナタのせいですよ――と美少女。
ボタンを押したからです――と美少女。
本当に?
あんなので?
世界は滅亡しました――と美少女。
マジですか。
すごいな世界滅亡委員会。
肉まんモドキで世界を終わらせるとは。
どういう仕組みなんですか?
企業秘密です——と美少女。
そうなんですか?
嘘です私も知りません――と美少女。
私は営業担当なので――ってそういう問題?
あとAB型なので――ってそれは関係ねえ。
それはおいといて疑問なんですが。
何ですか――と美少女。
俺生きてるんですが。
だから何ですか――と美少女。
生きてるってことはまだこの世界に存在してるということでしょ?
我思うゆえに我有り――と美少女。
デカルトですか――と美少女。
ややこしい話しないで――と美少女。
哲学うざいです――と美少女。
いやいやいやそういう話をしてるんじゃなくて。
世界が滅亡して俺がまだ生きてたら意味ないじゃないですか。
ぽかーん――じゃねえよ。
一番大事なとこだろ。
何もかも消したいっていう希望なんだから。
とうぜん俺自身も含むの。
細かい男はモテない――って?
よけいなお世話だ。
それじゃ女性にフラれますよ――って?
もうフラれたんだよ。
だから世界滅亡キャンペーンにハガキ送ったって話したでしょうが。
俺も含めて世界中が滅べばいいと思って。
エクレア美味しいじゃねえよ。
話聞いてんのか。
なに差し入れ自分で食ってんだ。
いやどうせ食べないからいいけどさ。
まあいいじゃないですか――と美少女。
今だけですから――と美少女。
滅亡とは言ってもこれは一時的なものに過ぎないですから——と美少女。
どういうことです?
まあ見ててください――と美少女。
いちにいさんしい。
「うわっ世界が復活した!」
すっかり元通りじゃないですか。
ビルも道路も信号も街路樹も通行人も。
公園で例のカップルがいちゃつきながら俺の方を見上げてるしなんなんだよあのドヤ顔ちくしょう毎度のことながら本当むかつくな他のヤツらが復活してもせめておまえらだけは滅んでてほしかったのに。
ねえちょっとどうやったんです?
ていうか復活させないでよ。
せっかくさっき滅亡させたのに。
なんてことしてくれるんだ。
私じゃありません――と美少女。
じゃあ誰がやったんです?
世界再生同盟です――と美少女。
それ誰ですか?
敵対組織です――と美少女。
嫌なやつらです――と美少女。
世界の平和を守ると言って、我々の邪魔ばかりする連中です——と美少女。
こちらが世界を滅亡させるたびに、世界を復活させてしまうんです——美少女。
そういう組織もあるんですね。
悪の秘密結社です——と美少女。
悪っていうか正義の味方ですよね?
違います——と美少女。
いやそうでしょ。
世界平和を守ってるんだから。
なるほどそうか。
そういう意味じゃ世界滅亡委員会の方が悪ってことになりますよね?
ナイスギャグ――って本気で言ってますが。
ありえない――ってよく断言できますね。
待てよじゃあ俺のしてることも悪なのか。
世界を滅亡させようとしてるわけだから。
普通の人から見ればそりゃ悪だよな。
当たり前のことにいま気づいたわ。
善悪は相対的なもの――と美少女。
ニーチェですか――と美少女。
哲学うざいです――と美少女。
あんたが言い出したんだろ。
しかしどうやって復活させるんです?
一度世界が滅亡したあとに。
世界の設定に触れて消滅前のステータスを使って再起動するんです——と美少女。
元に戻すというより世界を作り直すというのが正しいです——と美少女。
いやでも待てよ。
おかしいぞ。
こっちが世界を滅亡させた時点でその人たちも死ぬわけでしょ。
その後に世界を復活させることはできなくないですか?
よく気づきましたね――と美少女。
頭いいですね――と美少女。
まるっきり能なしでタマなしのバカかと思ってました――と美少女。
言い過ぎだろあんた。
タマなし関係ないし。
いちおうタマはついてますよ。
どれどれ――って見せるわけないでしょ?
簡単なことです――と美少女。
あらかじめ仕込んでおくんです――と美少女。
世界が滅亡したら自動的に再生するようプログラムしておくんです――と美少女。
言ってみれば○ァイナル○ァンタジーの白魔法のリレ○ズみたいなベタな感じのヤツです――ってその説明はいらないです。
とにかくそういう組織があるわけですね。
滅亡した世界を再生させる組織が。
世界再生同盟でしたっけ?
世界滅亡委員会の敵だと。
ちょっとそれじゃ世界滅亡させられないじゃないですか。
滅亡してもすぐに復活させられちゃうってことでしょ?
俺の望みはどうしてくれるんです?
キャンペーンに当たってもムダじゃないですか。
私たちも困ってます――と美少女。
連中のせいでいつも世界が滅亡できないんです――と美少女。
上司にも毎日怒鳴られっぱなしで辛いです――と美少女。
ただでさえ手取り14万で働いてるのに――と美少女。
世界滅亡委員会も大変なんですね。
給料も妙にリアルな数字だし。
ていうかちょっと安過ぎません?
世界の未来を左右する重要な仕事なのに。
世界再生同盟と戦ってください――って?
突然なにを言い出したんですか。
戦ってくれたら抱かせてあげる?
すごい露骨な枕営業ですね。
戦う気になってきたでしょ――って?
逆にドン引きしてやる気なくしましたけど。
ていうかセックスにも興味ないんですよ。
完全にアンチ女になったんで。
美少女なのに断るんですか――ってよく言えますね。
元カノより私の方がきれいだし――って勝手に決めるな。
前の彼女も顔は美人だったんだよ。
中身の方はだいぶひどかったけど。
申しわけないけど俺の好みで言うと彼女の方があんたより好きな顔なんですすみません。
プライドが傷つきました――って知らないですよ。
いや貧乳だからだとは言ってないですって。
じゃあひとまず元カノの方が美人だと仮定しましょう――と美少女。
抱けない美人と抱ける美少女どっちを選ぶんですか――と美少女。
とてつもなくエグいこと言うなあんた。
あんた本当に美少女ですか?
美少女の着ぐるみを着たオバハンなんじゃないの?
ていうか元カノの方がまだまともな性格に思えてきたわ。
仕方ないのでこれを飲んでください――と美少女。
世界滅亡の確率を高める薬です――と美少女。
なんかバファリンみたいですね。
これを一粒飲めばいいんですか?
パクッ。
ゴックン。
これでいいですか?
すいませんウソです――と美少女。
それは薬じゃありません――っと美少女。
今日一日で死ぬ毒です――って何してくれてんだあんた。
大丈夫苦しまずに死ねます――ってそういう問題じゃねえ。
世界が滅亡しないうちに死ぬなんてイヤですよ。
ご心配には及びませんよ――と美少女。
世界再生同盟と戦ってくれれば解毒剤を渡します――と美少女。
それを飲めば毒は消えますよ――と美少女。
ちくしょう毒が抜けたら覚えてろよ。
自分の都合の良いように利用しやがって。
これだから女は嫌いなんだ。
まったくめんどうな人ですね――と美少女。
さっさとエクレア食べさせれば良かった――と美少女。
百粒分の毒が入ってたのに――と美少女。
それで必死で食わせようとしてたのか鬼畜野郎。
それで俺は何をすればいいんですか?
突然戦えと言われても困りますよ。
どこへ行けば会えるのかもわからないし。
戦い方もわからないし。
世界再生同盟でしたっけ?
その人たちの顔もわからないし。
とりあえず会ってから考えましょう――と美少女。
こっちから探しに行く必要はないです――と美少女。
待ってれば向こうから来ますよ――と美少女。
ほら来たみたいですよ――と美少女。
はあ?
来ましたって誰がです?
タッタッタッタッ。
「ピンポーン」
【続】




