①世界が終わった後にオバハン(美少女)が来てまた世界が終わった話
世界が終わった。
俺はもう死んだ。
さようなら人類。
そんな感じだ。
何もしたくない。
だれにも会いたくない。
できることならこのまま消え去りたい。
なのに変なオバハンが訪ねてきて言った。
あらどうもこんにちはうふふ今日は暑いわねえお兄さん目が真っ赤だけどもしかして泣いてたのまあかわいそうちょうど良かったわそんな人にぴったりの宗教があって『オールOK教』と言うんだけどそれを信じれば救われますよなぜって神の愛はいつもあなたを包んでいるから騙されたと思ってあたしを信じてそれとこれ差し入れのエクレアよ――と。
ウソつけオバハン。
神はいない。
俺を愛してもいない。
幻だ。
だいたい俺には神もエクレアも必要ない。
なぜ神を疑うのか――だと?
神が俺を愛してるなら俺を殺すはずだから。
だって俺はいま猛烈に死にたい。
死にたくなるくらい死にたい。
いってみれば生きた屍だ。
悲しいこと言わないで――とオバハン。
ちっ何も知らないくせに。
頼むからほっといてくれよ。
さようならオバハン。
さようなら人類。
世界は終わった。
俺はもう死んだ。
なんでかって?
あんたに関係ないだろう。
なんで教えていいじゃないのなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで――。
「彼女にフラれたからだよ!」
俺はついに吠えた。
それで落ち込んでるのかって?
ああそうだよ。
悪いか。
彼女にフラれたんだ。
捨てられたんだよ。
ただのぬのきれ同然に。
誕生日に14万のブランド物のバッグあげたのに。
超高いフレンチレストランにも連れていったのに。
高熱と腹痛を我慢して車出して迎えにいったのに。
どしゃ降りの中ずぶ濡れで引っ越し手伝ったのに。
エッチなことはしたの――ってしてねえよ。
キスどころか手も繋いでねえよ。
いつかはと思って一生懸命つくしたのに。
結婚までダメっていうのを信じてたのに。
イケメンに惚れたから別れてだと。
そいつとは付き合う前にヤったんだと。
世の中どうなってるんだ。
間違ってる腐りきってる。
女なんかみんなこの世から消えればいい。
あらまあ――とオバハン。
御愁傷様――とオバハン。
いいことあるわよ――とオバハン。
神を信じなさい――とオバハン。
へらへら笑ってやがる。
なんかむかつくなこいつ。
そんな時こそ『オールOK教』?
黙れこのやろう。
ハンコだけ押してくれたら帰るじゃねえ。
サインでもいいのよほらここじゃねえ。
ちょっと待て。
それ本当に宗教か?
新手の詐欺かなんかじゃないのか?
まあいいや帰ってくれ。
わかりました――とオバハン。
おい違うぞ。
そっちはリビングだ。
勝手に入ろうとするな。
お茶が欲しいじゃねえよ。
どこまでずうずうしいんだババア。
脳みそ腐ってんのか。
いやだから差し入れのエクレアはいらん。
カエルの人形みたいな宗教グッズもいらん。
あのねわたし大学のとき一目惚れしたサークルの先輩がいて西城秀樹似でみんなにヒデキって呼ばれてる人で彼あてのラブレターを二年間毎日バッグに忍ばせて部室に行ったけど渡せないまま向こうが卒業しちゃって結局眺めているだけで終わって悲しくて泣いちゃったのよ純情よねあの頃のあたし——とかそんな話もいらん。
それを聞かせてどうする。
俺の世界は終わったんだ。
さようなら人類
さようならオバハン。
はあ何だって?
あのねよく考えたらアナタと彼女って手も繋いでないしキスもしてないなんてカップルとして普通じゃないわよいい大人がセックスもしないで付き合ってるなんて聞いたことないわ絶対おかしいわよ本当にアナタたち付き合ってたのひょっとしてアナタのお金を絞り取るのが目的だったんじゃないの――とか冷静な分析はもっとやめろ。
よけいなお世話だ。
傷をえぐるな。
死にかけなんだから放っておけ。
どうしたら帰ってくれるんだよ。
ちゃんと話を聞いてくれって?
もう十分聞いたよ。
宗教には入らんぞ。
それ以上何を言うことがある?
あのね大好きだった大学の先輩っていうかヒデキに失恋したあとの話だけど立ち直れないまま社会人になって合コンとか行ってみたけどヒデキ以上の人は見つからなくて最終的に上司のツテでお見合いをセッティングしてもらった相手がいまの主人で意気投合したから思いきって結婚したら体の相性もバッチリでけっこう幸せだわあたし――じゃねえよ。
聞いて欲しいってそっちかよ。
すっかり時間をムダにしたわ。
勧誘する気ないんならもう帰れよ。
する気あっても帰れ。
いやお邪魔しましたじゃねえ。
そっちはリビングだと言ってるだろ。
お邪魔しましたじゃなくてお邪魔しますになってんじゃねえか。
だからエクレアはいらんと言ってるだろ。
結局あんた何しに来たんだよ。
勧誘もしないし人の話も聞かないし。
どうしても知りたいですか――だと?
知りたくないから帰れ。
うふふしょうがないわね――じゃねえ。
知りたくないと言っただろう。
ジャジャーン――とオバハン。
はあい――とオバハン。
今までのは全部――とオバハン。
ウソでした――とオバハン。
本当はオバハンじゃなくて美少女でした——とさっきまでオバハンだった美少女。
ああなるほど。
そういうことか。
オバハンの着ぐるみを着てたわけね。
それを脱いだら美少女。
確かにそうですね。
感動が薄くないですか――って?
そりゃそうでしょ。
ぶっちゃけだから何だって感じなんで。
美少女ですよ美少女――って?
見れば分かりますよ。
正直興味ないんです。
いまやアンチ女だから。
俺の世界は終わったんです。
さようなら美少女。
おいお邪魔しますじゃねえ。
やってること同じじゃねえか。
だから差し入れのエクレアはいらんて。
いや種類の問題じゃなく差し入れがいらん。
結局美少女が何の用ですか?
宗教は興味ないんで帰ってくれます?
冗談通じない人ね――と美少女。
せっかく準備したのに――と美少女。
あなたを試したのです――と美少女。
世界滅亡委員会から来ました――と美少女。
それ本気で言ってる?
もちろん——と美少女。
あんた世界滅亡委員会の人?
そうです——と美少女。
なんだそうだったのか。
最初に言ってくれよ。
本当に宗教の勧誘かと思った。
それも超タチの悪いやつ。
世界滅亡委員会の人なら話は別だよ。
暴言吐いてすいませんね。
ええ確かに送りましたよ。
ハミガキガムについてた世界滅亡キャンペーンのハガキ。
抽選で一名様に当たるんでしょ?
世界を滅亡させる権利とやらが。
それが当たったんですか?
マジで超ラッキー。
もちろんやる気はありますよ。
はい滅亡させたいです。
俺の世界はもう終わりましたから。
みんなの世界も終わらせたいです。
さようなら人類。
さようなら元カノ。
すべてのオバハンとすべての美少女も永遠にさようなら。
彼女にフラれたくらいで――って?
別にいいでしょうが。
動機は何でもいいんでしょ?
応募資格に書いてなかったし。
部屋の中で詳しく話します――って?
それじゃまあ入ってください。
リビングの方へどうぞ。
汚いところですけど。
男のひとり暮らしなんで散らかってますが。
はいこれ座布団。
いえテレビはないです。
お茶が飲みたい?
おとといのやつで良ければどうぞこれ。
ごちそうさまでした――って一気飲みかよ。
あんた本当に美少女ですか?
じゃあ早速始めましょうアナタが本当に適格者なのか試験をしますグズグズしないでチャチャっとこのボタンを押してください――って何ですかコレ。
ボタンていうか肉まんにしか見えませんが。
真ん中のへこみを押せばいいんですか?
はい押しましたけど。
えっ世界滅亡のスイッチ?
何も起こりませんよ。
もう少し待ってろ?
まあいいですけど。
その間にもう一杯お茶をいれろ?
ええわかりましたよ。
それが終わったら肩をもめ?
あんた本当にずうずうしいな。
「チチーン」
ん?
「ガシャポコ」
え?
よしできた――って何がですか?
窓を開けていますぐ外を見なさい――ってわかりましたよはい。
パッ。
カタッ。
ガラガラガラ。
「うわっ世界滅んでる!」
【続】