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絶望の鳥籠  作者: 藤ゐ馨
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第一章2 見捨てる事が最善な時もある。

――……外の景色は……知らない景色だった……


記憶にある空は、青色。

今ある空は、赤茶色。

大地はひび割れ、周辺に見える木々は、白い枯れ木。

枯れ木には薄気味悪く、赤い菅がまるで、血管の様に纏わりついている。

外の空気は、微かに熱を帯びており、ねっとりとした気味の悪い感じがした。

呼吸をする度に、むせ返る空気が肺を浸食していき、咳が更に酷くなっていく。空気が眼に触れる度に、激しい痛みが押し寄せてくる。


見える景色は、まさに終焉を思わせるのに十分だった。


「ゲフゴフッ……ゴップ」


胃から込み上げる吐き気を、耐えきれずに吐き出すと、血が口から流れていた。

何故この様な事になっているのか、原因が何なのか、何もわからない。ただ痛みと苦しみだけが、無慈悲に何度もやってくる。


『俺は死ぬのか……』諭したみたいに、その言葉が浮かんでくる。


茫然としていると、近くから怪獣の足音を連想させる、強い衝撃音が聞こえてくる。

音の方向に目を向けると、怪物がそこにいた。


首の無い、体格3mの巨人。

右肩から左脇に裂けた口から、舌がだらしなく垂れ下がり。

屈強な上半身を支えるには、不具合に小さい下半身。

腕の太さは、大人三人分ぐらいあり、足の代わりに地面を叩きながら移動していた。

移動する度に、地面は抉れ砂埃が宙を舞う。

怪物と言う言葉は、この存在の為にあると思わせる、破壊的な威圧感があった。


怪物は何かを追いかけていた。

追いかける方向に目をやると、子供と思わしき姿が見える。

子供と怪物との間は50mぐらいあり、徐々に怪物が追い付こうとしていた。


混乱している頭でもすぐに理解できた。

これは追いかけっこではなく、獲物を追いかけているのだと。

だからと言って今現状、死に掛けている人間に何ができると言うのだろうか。

どうにかする余裕も、知恵も、力も何もない無力な人間。


テレビを見ているのと同じだ。

流れているニュースは、所詮他人事でしかない。

今追いかけられてる子供も、それと同じで他人事なのだ。

テレビの向こうに何もできない様に、今も何もしなければいい。

ただ静かに、終わりを迎えればいい……。


「ごっ……ごっぢにごい!」


口から血反吐をまき散らし叫んでいた。

地面に転がる石ころを怪物に投げていた。

叫んだ後に、投げた後に、何をしているのか解らないと言う顔で立っていた。

これはテレビはなく、現実で手を出したら干渉してしまう。


だからこそ、怪物はキョウに気付いた。

だからこそ、怪物は標的をキョウに切り替えた。


恐怖と後悔に、足が震える……馬鹿な事をやってしまったと感情が鬩ぎ合う。

逃げないと……そう思うが、体は動いてくれない。

怪物が目の前に来ても、腰が抜けて動けない。

絶望の状況で、キョウは何故か笑っていた。


「ヂモ! ヌゴト!」


何語かわからない言葉を、遠くで子供が叫んでいる。

子供の表情は、ガスマスクの様なお面を付けていてわからない。

怪物の凶悪な右拳が、キョウに振り下ろされる。




景色はゆっくりと流れていく。


頭に浮かぶのは、走馬灯ではなく、何故こんな事をしたのかと言う疑問。

勇気があるわけでも、正義感が強いわけでもない。

むしろ見捨てようと言う気持ちの方が強かった。

綺麗ごとを言えるのは、他人事だと思っている人間だけだ。

真っ当な精神なら、普通は見捨てる場面。


『……ああ、そうか……。どの道、見捨てても死ぬのに……何もしないで死ぬのが嫌だったんだ』


化け物の右拳が、キョウの右腕に当たった時、その考えに至った。

右腕と右脇腹から骨の砕ける音と共に、体は宙に放り出され、勢いよく木と衝し衝撃で背骨砕ける。


即死……出来なかった事が、更に運が悪い。

虫の息ながら息があり、痛みを感じてしまう。

ギロチンをされても、人間は5秒ぐらいなら意識があるそうで、即死は運が良くないとできないのだ。



死の恐怖に頭が染まっていく中、後悔と死にたくないという思いだけが残される。

怪物は、心境なんてお構いなしという感じに、勢いよく駆け寄ってくる。

あのだらしない口で、貪る気なのかもしれない。


だが、怪物はキョウを食う事は出来なかった。

その前に地面が怪物の体重と移動する時の衝撃に耐えきれずに沈没してしまったからだ。

地の底に落ちていく怪物を、横目に見たまま、痛みを徐々に感じなくなっていく。


ただ、冷たい、体温が失われていき……意識も定まらなくなっていく。

薄暗い暗闇に覆われていく中、これが死ぬと言う事なのかと感じていた。

そこには恐怖も何もない。思考する力がなくなっていくからだ。


何かが近づいて来ても、気にならない。もうすでに視界は闇に覆われているから。

ただ、最後に思ったっ事は、助けた子供は無事なのかと……頭を過っただけだった。


「ノオ……アクト……」


子供が何かを、呟いたがキョウには届かなかった。


見捨てる事が出来ない、そんな状況もあるかもしれません。

ちなみに私の場合は、たぶん動けないと思います。

動けないで、ただ見ているしか出来ない、現実とはとっさに判断できないのかもしれませんね。

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