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絶望の鳥籠  作者: 藤ゐ馨
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プロローグ

――人類は、ゆっくりと衰退している。

何処かの学者が、そんな言葉を口にしたのを聞いた覚えがある。


ネットで知ったのか、テレビで知ったのか、無意識に情報だけが脳に蓄積されていく。

その集積された情報は、うろ覚え、デジャブ等の現象に収束されるのだろう。

情報とは意識しなければ、知識にはなりえないと言う事なのだろう。


では、放課後の窓辺から外を眺めている男子生徒一人。

男子生徒の外見によって様々な印象を人は、受けるだろう。

この男子生徒の外見は、人を殺してそうな目つきに、愛想の無い顔、無駄に長身で怖さが際立つ、この情報で大抵の人は『不良』と言う認識を受け、関わろうとしないだろう。

結論から言えば、このキョウと呼ばれる少年は、不良ではない。

だが他人は、無意識に感じ取った情報だけで、キョウを『不良』と決めつけ、あまり近寄らなかった。


その事を憂いて、黄昏ているのかと言えば、そこも違う。

机の上に置かれている、進路相談のプリントに何を記載すればいいのか、その事を悩んでいるだけだった。

変に真面目だな……そんな事を、思ってしまう。

実際こんなものを真面目に考えて書いてる奴は、少ないだろう。

適当に書けば良いだけなのに、書けずに残ってしまうなんて……。


「面倒くさい……まず将来を高校二年生で決めろと言うのが、不条理だ!」


真面目に言えば、今の時期に決めるのは正しい。

受験を考えれば、早めに進路を決めた方が良いに決まっている、だけどどうしても自分の将来に対する、気持ちがわかない。

適当にも答えられず、真面目にも答えられない中途半端な気持ちだけが宙を舞っている。


「……部活に行くか」


旧校舎一階の部室棟。

薄汚れたプラスチック製の板に、科学研究部と書かれた部屋がある。

古く立て付けの悪い扉は、金具が軋む音を立てながら開いていく。

部室内には、冷蔵庫と起動中のパソコン音が、唸るよに鳴っている。

机の上には、専門雑誌等が、乱雑に置かれ、お世辞にも綺麗とは言えない環境だった。


「キョウ先輩~遅いです~」


パソコンに向き合う小学生と見間違うぐらい幼い少女が、不満の声を上げた。

腰辺りまでだらしなく伸びた赤毛が、『だらしない』性格を表現していて、高校の制服を着ていても、知らない人が見たら小学生と勘違いされるだろう。


この少女も外見と言う情報だけしか知らないと、『小学生』と誤認させてしまう。

教室では、小動物の様に可愛がられているらしいが、本人は煩わしく思っており、この部室に良く逃げ込んでいる。


「別に俺が居なくても、問題ないだろう」


机の上に置かれている、雑誌を手に取り空いてる椅子に腰を掛ける。

自分がこの部活に貢献できるような、知識も技能も持ち合わせていないのは自覚しているが、学校自体が部活を必須項目に置いている為、部員として所属するしかなかった。

はみ出し者にとっては、はみ出し者しかいないこの部活はそれなりに快適ではあった。

何をするわけでもなく、ただ雑誌とお茶を飲んで過ごすだけで良いのだから。


「話を聞いてくれる人がいないと、暇なんです~」


「また下らない話か?」


雑誌に目を通していると、少女は液晶モニターを此方に向けて見るように促してくる。

液晶モニターには、英文表示のサイトが、和訳して表示されていた。


「地球浄化計画?」


地球浄化計画と書かれた、サイトには専門用語だらけで、読んでも理解できない内容だった。しかめっ面でモニターを見つめると少女は、得意げな顔で説明する。


「先輩に解りやすく言うと。この汚染された地球を綺麗にしましょう~って言う話みたいです」


「解りやすいが、ざっくりし過ぎてわかんねえよ」


しょうがないですねと言う、顔をして再度説明を始めるが、実に下らない話であった。

地球環境の問題点を淡々と書かれているだけで、具体的な解決などは書かれていない、それに戦争がより一層、環境を破壊しているが、それを止めようと言う内容は特に記載されていないらしい。

まさに格好だけ付けた文章と言う感じだろうか、中身の無い話だ。


「まずは、戦争を止めようって考えないものなのかね」


話を聞いていて、真っ先にそう思ってしまった。当然それをどうにか出来ると思ってるほど、子供でも夢想家でもない。だけどつい言葉にしてしまうのが人間だろう。

だが少女は違った。無邪気な顔で明るい口調でこう言った。


「しょ~がないですよ。戦争は必要なものですし~」


諦めと言う感じの口調でもなく、心の底から必要な物だと認識している自信を感じる。

その無邪気な言葉に、気圧されてしまい、しばしの沈黙が流れる。


「その心は?」


ついぞ出た言葉は、なぞかけの答えを求めるような言葉。

戦争が必要だと言った、少女の考えを聞いてみたかったのか、見た目通りの愛らしい言葉が出ると期待したのかもしれない。


「だって、人類がこのまま増え続けたら、食糧不足に住む場所だって減っちゃいますし~。ある程度人口を減らしていかないといけないんですよ」


――仮に地球上での人口密度が、キャパオーバーした場合、どうするのだろう。

地球上で生活が出来ないなら、別な生活スペースを確保するしかない。

だが、現代の科学技術は、難しい問題だ。その為に、間引くのだと言う。

論理的な思考で、そこに感情は含まれない。


少女は人間味の無い言葉を、愛らしい笑顔で口にする。

ただ、少女の瞳だけは酷く冷たい印象を帯びていた。


こんな事を言う少女だっただろうか? ひどく背筋に冷たい物を感じる。


「……戦争が原因で、地球環境問題が言われてるのに、続けても意味ないだろう」


「それは~環境を汚染する兵器を使うからなのです~。時代を昔に戻して、剣とか槍で戦争すればいいのですよ」


少女が答えると同時に、再度金具の軋む音が部屋に響く。

二人の会話が止まり、視線を扉に向ける。

突然の注目に驚いたのか、扉を開けた女学生は、部室内に入ることなく扉を閉めた。


……数秒後、再度扉が開くと、気恥ずかしい面持ちで女学生が部室内に入る。


「二人してどうしたの……。そんなに見つめられると、恥ずかしいんだけど」


切れ長の瞳と、癖毛の髪を後ろに束ね、見た目だけなら何処となく、冷たい印象だが、仕草と口調から、内気な性格だと言う事が解る。身長は平均的で、胸のサイズは人一倍目立っている事を、コンプレックスに抱いている為、制服は一サイズ大きい物を身に着けている。


先程までの、切迫し始めた空気が和らいだ事で、喉が渇きを訴えてくる。

冷蔵庫に入っていた、ペットボトルのお茶を一口飲み込んで言葉を口にする。


「いや、……が遅いって珍しいと思ってさ」


「え? あ……うん、ごめんね」


「部長~ 謝る必要ない場面ですよ~」


「えっと……。言われてみればそうだよね」


女生徒は、何処か申し訳なさそうに席に着く。

ふぅーと女生徒が一息つくと、食い入るように少女が話しかける。


「部長どうなったんです? 大丈夫みたいですか?」


「あ、うん……。協力してくれるみたいだよ」


「協力? 何かあったのか?」


「えっとね。……の為に、資材協力をお願いしてたんだけど……協力してくれることになったの」


話しかけられた女生徒は、相手の目を見て話そうとするが、気恥ずかしそうに目線が泳ぐ、話す口調もたどたどしく、じれったく感じる。

何の為の資材協力か、頭ではすでに理解しているが、何故か聞き取れない。


「ああ、視覚共有なんとかって、そんな話だったよな」


「う、うん……。前にも話したと思うけど、人間は電気信号によって様々な情報を脳に送ってるんだよ。……はね……自分のイメージした視覚情報と思考情報と触覚情報を、他者の脳に共有することで、実現出来るんじゃないかと思って……。その為にまずね、視覚情報の共有化についてなんだけどね」


徐々に説明に熱が入り始め、恥かしさを忘れていく女生徒に対して、次第に理解できなくなっていく会話に両手を上げて答える。


「楽しそうなところすまん……全然意味が解らん」


「キョウ先輩は、想像力が乏しいからですよ~」


クスクスと笑う少女を見ていると、さっきまで感じていた違和感は、次第に薄れていく。

少女と女生徒が楽しそうに会話をしているのを眺めて、これがいつも通りの光景なのだと、心の中で思っていた。


◆◆◆


夜に近い夕暮れ時の学校からは、部活帰りの生徒が疎らに入るぐらいで、人通りは極めて少ない感じであり、寂しくもあった、

校門を抜けると、左右に分かれる並木通りになっている。

少女は右方向なので、キョウと女生徒は左方向にそれぞれ曲がっていく。

別れる際、大げさな身振りで少女は、別れを惜しみ、女生徒は小振りに手を振って返す。


「でも。……が上手くできたら、新入部員とか増えてくれるかな?」


「凄い物を見たら興味を示す奴は出るだろうな。今、来年の事を心配してもしょうがないだろう、何とかなるさ」


ー―街灯の明かりが、夕闇の空を染めていく。

人家から聞こえる家庭音、静かな並木道に響いている。

普段と変わらない、帰路のはずだった。


……平凡な日常とは、突如として奪われる物だと誰も知らない。

それは、事故かも知れない、事件かも知れない。

平和な日常に触れすぎて、それが永遠と感知して皆気づかない。


再度言おう。日常とは理不尽に奪われるものだと……。、


『エラー発生……。システム再起動……不可。リンクを終了します』


頭の中で、警告音と機械音声が響き渡る。

眼前に広がる光景は、砂の城を崩したみたいに、パラパラと壊れている。

街も……空も……女生徒の姿も……。


網膜から視覚信号に変換され、大脳皮質に届いた映像を、心が否定する。

否定したところで、現実は変わらない。


叫び声を上げようにも、空気振動が起きずに音に変換されない。

抗う事が出来ずに、意識は闇に溶けていく。

―――…………。

――………。

……そして新しい日常が始まる。


前回書いたプロローグの一部分をカットして、短くまとめました。

文章表現の乏しいのを感じますが、そこを気にし過ぎても前に進めないので、まずはこれでひと段落。

こう書いた方が良いよー等の、感想がありましたら、よろしくお願いします。

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