九話
録画を鑑賞して反省会をさせられてから地下室を出た。やはりフェンスの高さが低いと簡単に攻略されてしまう。
「フェンスの高さはポイントをつぎ込むことでしか解決しないな。周りを掘って低くするにしても」
「その壁越えの資材は壁を越せないと考えて二重三重に壁を作る方法がありますが、それもポイントしだいですね」
昨夜の百人切りでポイントがたまったとはいえ、なかなかそこまであるわけではない。
潮騒がマウスパッドの頬をなでる。先々のことを考えると詰みに入っている気がする。そんな憂鬱な心を海が慰めてくれているようだ。
ということで熊のいる山奥から離れ、自然にできた湾内ビーチを見下ろすロケーションに来ている。誰もおらず、四葉のクローバーをいじりながら望む遠浅の海がひたすら美しい。
なぜいるかというと、壁の進出範囲を説明しないといけない。壁はポイントがあれば建てられるが、どこにでも設置わけではない。壁が建てられる場所は壁がつながるところ、そして召喚が五分以上支配した地域に限られている。この作業は普通夜中にこっそりやるそうだ。
さてこの壁範囲拡張作業、四葉のクローバーたちとその子孫がいる場合はどうだろうか。五分間いるだけでいいなら、大陸を覆うような勢いで繁殖している彼らを通して、大陸の多くを支配していることにならないだろうか。なってます。
それで我々は一ミリの壁を海岸線まで伸ばし、そこに地下室を作って隠れていた。ワンルームは囮のために置いてきたので退屈な日々。一応壁を越さず、形跡をたどられて殺される恐れもあったので緊張はしていたよ。平気そうだから寝たけど。
「ポイントもいいが海か。何かしたいな。物足りない」
「海は範囲外なのでいけませんよ」
「うーん。実は召喚の強化ポイント増えてるんだ」
たくさん繁殖して、たくさん食べられたおかげか四葉のクローバーたちの格が上がっている。そのおかげで強化ポイントが増えたのだ。さっき気付いた。
「召喚は関知できないので知りませんでした。それでどうするんですか。またトップニュース狙うのですか?」
「あのニュースは神も見ているんだよな」
「はい。覚えがよくなりますね」
それも大切だ。どうする。残酷なことをしてここの神に褒められるだけではだめだ。地球の神に功徳で認められて入場できないと地球石油王来世にも届かない。
「何か案があるのなら相談に乗りますよ」
「いや、いい。迷ったらやる」
願望を叶えるためにはこれしかない。
「四葉のクローバー一号、お前に海水適用を与える。海で遊びたいのと、ほんのり塩味がついてもおいしい気がするからだ」
一号を変える。変えたはず。
「何も変化ないよな」
「枯れて次に成長してからではないのでしょうか」
なるほどとうなずく。
「二号もやってほしいそうだが、二号は淡水担当だ。湖でジューシーになってくれ」
変化させる。二体とも適応範囲が増えただけで普段通り育てたらいいから楽なものだ。
「そしてだ。信徒に連絡とれないか。本土にクローバーの種を流して神に媚を売りたい」
「できます。よい心がけですね。密輸船か奴隷船に頼みましょう」
邪神は本当にダーティーだな。これで別の大陸では善神としてやっているんだから恐れ入る。とりあえずこのその場しのぎで何とかなりそうだ。
四葉のクローバーたちがうずうずしている。壁伝えならワープできるので明日にしような。
種で媚売り作戦は生態系を崩すからと本土では植えないようだ。変わりに他の大陸に植えるらしい。海水対応のやつは奴隷船のビタミンになるようだ。食糧がいらなくなった分だけ多く積めそうだね。
壁の高さはポイントを注ぎ込んで十メートルにした。野球のネットくらい。立派な外出の許されない受刑者の運動場になった。
あと鳥を使い魔にされることもあると聞いて、有刺鉄線の屋根をつけた。壁を壊すためになんでもやるな。
最後に庭にたらいを使った水田ができた。海水と淡水の二つ。ちょろちょろと水が循環する仕組みをつけた。彼らは嬉しそうに生い茂っている。
ここ一週間の変化はこれくらいか。
攻め手にカウンターアタックをしようがないので、塩味の四つ葉のクローバーを味わって庭を眺めている。
おっぱいマウスパッドは淡水の方。これでバランスがとれて、四つ葉のクローバーたちがすねない。
「やることもないし壁を伸ばすか」
「あの一団のおかげでヘイト当てられていますからポイントけっこうたまってますよ」
百人が帰らなかったらそりゃヘイト来るよね。
「問題はどの方向に伸ばすかだ。ポイントで地図買えないのか」
「壁ランクが上がったので無料です。ちなみに神のマークを壁につけることも許されています」
「光栄なことだ」
壁のマークは半強制のやつだなこれ。割り当てだ。
「マークは話が脱線するので最後にしよう。今は地図を見せてくれ」
おっぱいマウスパッドが頭の中に地図を出す。
今現在大陸の南南東の山脈にいるようだ。けっこう奥でよく百人も攻めてきたものだと感心した。
大陸の真ん中辺りには勇者ラインの街。東西に別れた大国の緩衝地帯になっている。南北に山脈が広がり、この街が一番のウォールマスターだよ。
「わからないところは説明します」
「ならここはどうだ」
「田舎の山道です。隣の村へ行けます」
ふむ。手頃だ。
「決めた。この村から始めよう」
「百人殺してますから警戒度すごそうですけど、がんばってくださいね」
おっぱいマウスパッドのおざなりな応援を受け、進軍、進壁?壁が進む?えっと作戦を開始した。




