八話
「見つかって二週間ちょっとやっと人間が攻めて参りました」
「ついにきた。彼らは何をやっていたんだ。遅くないか」
「予想でしかありませんが、往復一週間、人集め一週間、休息と準備でちょっと、じゃないでしょうか。妥当です。約百人来てますからね。絶対殺す意志を感じます」
「こんな山奥に百人分のキャンプ地を作るもんな。本気だよ、あいつらは」
実況解説自分とおっぱいマウスパッドでお送りしております。
モニターにかじりつくしか、やることがないので。
今は庭の地下室にいる。酸素を必要としないから生きていけるが娯楽がない。出入り口は四つ葉のクローバー一号二号が生い茂っているので見つかりにくいだろう。
食料はいらないが、四つ葉のクローバーたちがじゃれるように出入口を侵食して伸びてきているので時々食べている。
そんなボロボロな地下室を意味がないのになぜ作ったのか。不安だからさ!
「さあ攻め手です。しっかり消臭マスクと耳栓をつけていますね。その嫌がる匂いと音機能は切っていますが、突然オンにされたらまずいので警戒しているのでしょう」
「みんな頑丈そうな手袋もしてるな。顔も隠している」
「酸や火を警戒しているのでしょう。それに破城槌としてその辺の丸太を使うようです。手袋は必須でしょう。さあ一番槍、いきました!一番外側にある膝までサイズのもろい土壁が破壊されました。もうもうと土埃が吹き荒れる」
「目に入って苦しめ」
攻め手の彼らは突入の邪魔になる範囲の土壁を完全に破壊した。土埃には反応がない。寂しさがある。
そして土埃が収まると、指揮官が手で指示を出した。
「丸太槌は何本ある」
「現地生産の六本です。本命の第二の壁、突破できるでしょうか」
「どうなんだろう。いや、有刺鉄線の忍び返し付き金網電気フェンスならやってくれる。丸太にも」
有刺鉄線の忍び返し付き金網電気フェンスを説明すると、壁でなくフェンスだ。触ると感電する金網製のフェンスだ。素材はワイヤーカッターが必要な現代っ子。ウォールマスターが消えたらなくなる安心設計。
ちなみにフェンスは金網の柵のことで、金網とフェンスで二重になってるのはわかりやすいようにだぞ。
モニターの中でも男たちが丸太を抱いて突っ込む。慎重なのか短い一本だけ。
「勢い余って先頭の二人が感電死しましたね。後ろの二人も巻き込まれてダメでしょう。金網はたゆんだだけでした。金網全体でダメージを吸収しています」
「いい解説だ。それにしても人が四人死んだところを見ても喜びしか感じないのだが、これも脳みそ改造か」
「そこはノータッチですね」
「そっかあ」
四人やられたことで周りがフェンスから距離をとった。他の丸太マンたちは電気を感じてなさそうだ。木は絶縁体で手袋をしてるからな。
「あ、木を立ててフェンスに倒しました。そして木を触って平気だと確認しましたね。実験台お疲れ様」
「あの通電しているかもしれない木を触らされた人は助けてあげたいな。何もせず運に任すけど」
実験台は丸太マンたちの周りで警戒する役に戻る。警戒役をよく見ると装備に差があった。ファイト。
「あ、引くようです。まあ壁に木を立て掛けても忍び返しがありますからね」
「早朝の部は終了か。ウォールポイントは?」
「一千五百増えました。殺せたのが大きいですね」
鷹揚にうなずいて理解をしめす。あと二桁人になりました。残り九十四人です。
昼になるとぼちぼちフェンスの前に集まり、木を組み立てはじめた。
「足場を作って越える作戦ですね。技師もいますし、想定の範囲内のようです。下から抜けるための穴堀の専門家さんは別の場所で基礎のコンクリートと戦っています。まあ鉄製品では無理でしょう」
「情報、握っとるなあ」
「もちろん。普通はここで召喚獣が襲い掛かるのですが、あっちではそれはないものと完全に思っていますね」
なめられている。時間が稼げるのだからいいけど。
「あ、自然回復をした最前列のもろい壁が、上にあった足場を不安定にしています」
「そういうのいいよね。想定外の間抜けが出て来るの」
ほのぼのとしてしまった。モニターを見ると、上にいる人たちが慌てている。蹴ればなくなるし、下手したら足場の重みでまた壊れるから大丈夫だぞ。
さてこれから、壁の前に足場を作るための木の切り出し、加工、建築で今日中には終わらないだろう。間に合った。
「夜襲するようです」
「あいつらが社会的な生き物で助かったよ」
こうして我々は伸びて来る四葉のクローバーの葉っぱを舐めるのだ。
夜、壁破壊隊の二割が夜警に立っていた。消臭マスクと耳栓を外せないのはストレスだろう。気軽に外せる環境ではないにしろ、外していたら気付けたのにとニヤニヤしてしまう。歴史の途上にいるのだと。
最初に襲われた人は実験台の人だった。同じ不幸体質として同情してしまった。彼は軍隊熊の斥候によって静かに殺され、深い森の闇に消えた。
それから夜警に立っていた彼らは次々と襲われ、誰も気付かないまま消えて行く。耳栓が悪かったのか、合図の照明を理解して防いでいた軍隊熊が一歩先を行っていたのか。
軍隊熊たちは森を切り拓いたキャンプ場を囲む。待ちきれない様子で鼻をひくひくとさせている。
彼らは壁固有能力のおいしそうな餌に思える匂いを吸っていた。その匂いはフェンスからではなく、休んでいる彼らからしている。なぜなら、一番外側のもろい膝までの壁の砂塵を浴びていたからだ。
軍隊熊たちが一斉に襲い掛かった。明かりが付き、油断なく起きていた人間が反撃に出る。しかし軍隊熊の暴力によって剣劇が森に沈んでいく。
我々は一番外側にあったあのもろい壁に獲物の匂いをつけ、壁を破壊させて砂塵をばらまき軍隊熊を誘い、そして勝ったのだ。
「寝ている間に終わっていましたね。録画を見ましょう」
「おう」




