五話
「いや駄目だろ乳牛は」
昼になって乳牛に生まれ変わるのは嫌だと我に返った。おっぱいマウスパッドと食べたランチが焼き肉だったおかげだ。
「今さらやり直しはききませんよ」
強化はリセットできない。二株とも同じようにやってしまった。深遠なる死生観に流されてしまった。
「生命線だったはずなのにどうして。異常にでかくして増殖する壁にしてもよかったのに」
「本当に色々な嫌がらせが浮かびますね。まあ昼のお水を上げに行きましょう」
おっぱいマウスパッドが部屋の食卓から離れて先を促す。玄関へ向かったようだ。
焼肉の臭いを追い出すため部屋の換気に窓を開けて、コップに水を注ぐ。焼き肉ランチの食器とガスコンロはすぐ消えるだろう。
玄関に置かれた、背もたれのある小さな椅子を持って四つ葉のクローバーの水やりへ。
四つ葉のクローバーは成長していた。もうすでに白い花を咲かせている。
「立派になりましたね」
「魔力どうなっているんだ。こんなのあったら壁なんて無力化できるだろ」
「異界の植物だったからここまでうまくいったんですよ。周りの森の植物とは違うでしょう」
周りを見る。地球で森と接した記憶を欠落しているのを思いだす。
「わからん」
「そういうものなんです」
そうかとしか言いようがない。その日は四つ葉のクローバーを眺め、美味しいという葉っぱを食べて終わった。これはうまいな。
次の日、朝食後にいつものように水やりに出ると、四つ葉のクローバーの周りにいくつもの枯れた花弁が落ちていた。本人はいたって元気に新しい花を咲かせている。
テレパシー届く。
「落ちた花弁から種を出してまけばいいのか」
枯れた花弁を集めて水をやり、種を取り出す。種は花弁を両手で挟んで軽くこするようにして落とした。マメ科らしく、種は豆のさやっぽい部分に入っていた。
「この枯れた花弁も甘くてうまいな」
「そうですね」
おっぱいマウスパッドと一緒に残りをつまみ食って、家の周りの更地に種を植えた。拾い範囲に植えたので水やりが大変だと気づく。それでウォールポイントでじょうろを出してもらい、家から往復することで解決。
「やることが増えたな」
いやな気分ではなかった。僻地にて焦る気持ちはまったくなかったとはいえ、やりがいのある趣味は嬉しいものだ。美味しいし、失敗することがないところが最高。
「種もうまいな」
「そうですね」
この日はそうして過ぎて行った。
一月くらい経っただろうか。初夏を迎えてここに来たのは春だったのかと身体で感じたころだ。
「ニュースの時間です」
突然おっぱいマウスパッドが発表し始めた。朝食中だったので、口を挟まずに聞いた。
姿はマウスパッド。もうこっちの姿のほうが楽だ。
「このニュースは大陸にいる神の信者の目と耳を借りて知りえたことを不定期で流すものです。そのため間違いもあることをご了承ください」
「ほう」
情報は大切だ。不定期らしいが、二か月に一回くらいだろうか。
「トップニュースです。昨晩、勇者ラインにて、紅白両国の首脳が対談し、いくつもの合意を結びました」
まず勇者ラインってなんだよ。
「現地では歓迎の祭りが開かれ、多くの市民が楽しんでいます」
なんとなく読めたぞ。今このタイミングで壁を作ったら殺されるって話だな。
「続いてのニュースです」
どこかの地方の飢饉豊作情報。貴族の婚姻。白国の軍事訓練。新武器の開発が難航していること。山から軍隊熊が降りてきた。地方の祭り。事故と暗殺。ダンジョンの魔物爆発の予兆。雨が降らない。新しい信徒のコーナー。
「以上ニュースでした」
「なかなか興味深い。エンターテイメントとして」
山に引きこもってる以上他にいうことはない。
「はぁ。マスターに関係しているものもありますよ。軍隊熊が降りたのはこのおうちが出している音と臭いのせいですからね」
「え。原因究明をはかってるか?」
「今のところはまだです。下りてくるのは時々ありますしね」
危ない。これは危ない。まだ大丈夫らしいが。
「あれは軍隊熊という名前か。軍隊熊は群れるのか」
「はい。過去のダンジョンマスターが召喚した熊の子孫です」
「熊に規律を仕込みやがって」
名前から予想がつく性質に悪態をつき、最初に気になったことを聞く。
「勇者ラインとはなんだ」
「素晴らしい探求心です」
「思い出したように褒めたな」
「勇者ラインとは、紅と白の両国の中間地点にある町のことです。ここを片方の国が攻めると、もう片方に勇者が与えられます」
昔は魔力で異世界の勇者の魂と肉体をコピーした存在を召喚して戦争していた。それを嫌がった両国からの勇者たちと魔法使いが中間地点に町を作り、この大陸では勇者ラインでしか召喚できないようにした。
それから紅白両国の戦争はなくなり、怨みも過去に消えて半透明になった。めでたしめでたし。
「勇者は魂奴隷じゃないのか」
「はい。コピーです。コピーだと改造が難しいんですよ。著作権ありますから」
「俺には著作権ないのか」
「便利な存在ですよ本当に」
隠そうとする気もないな。
まあそんなことはいい。なかなか楽しめた。今はニュースも娯楽だ。それより大切なことがある。ここ一ヶ月で増えたクローバー関係だ。次回に続く。




