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三話

 召喚に頼れそうもないとのことで、ひとまず壁の修復をすることにした。


「召喚は後回しにして、消してしまった壁を復元したいのだが」

「現在のウォールポイントは2ですね。範囲はどうしますか?」

「家の周辺三十センチ」

「では砂利でも撒いておきましょうか」


 これは冗談ではないのだ。

 初期のウォールポイントは0ポイント。増えたポイントは、熊の親子を引き離して再会できないようにしばらく時間を稼いだかららしい。このポイントは何を素にしているんだ。負の感情か。


「自分で壁を作ってもいいの?」

「壁作りなめてんのか」


 失言っぽかったので黙ることにする。たしかに無理だよな。初期の木柵だって、一人で作ろうとすれば日数がかかり熊に殺される。


「大体なんで熊がいるところでスタートなんだ」

「ウォールマスターが警戒されすぎて、見つけたら即殺しに来るようになったからです。最近うまくいってないんですよね。さっき言ったように知れ渡りすぎて。田舎者も知ってますよ。だから安い魂奴隷のマスターを買って、誰も来ないような山奥に設置したんです」


 奴隷の上に安いのか。懲罰奴隷とかでなく、商売で奴隷制なのか。地球の魂業界はどうなっているんだ。


「それならやっぱり召喚に頼らないといけないわけか」


 また四葉のクローバーに目を戻す。元に戻ってしまった。


「植物と意思疎通できないよね」

「マスターの性能ではできませんね」

「どうやって頼むの?召喚させてくれって」

「私はウォールコアですからわかりません」


 大切なところで。

 しかしどうすればいいんだ。肥料をやるとか?日当たりのいい場所に置くとか?

 熊がいないことをおっぱいマウスパッドに確かめさせ、玄関から外を覗いてみる。

 家の外は山中を不自然に切り拓いた平地だった。周りはうっそうと生い茂っているのに、家周辺だけ草すら生えていない。


「設置したときに木々を抜いたの?」

「はい。あの木々が木柵になりました」

「材料があれば工賃が安くなるってこと?」

「そうですね」


 いいことを聞いた。


「ここに空堀を作るとウォールポイントはどうなる?土を抜くだけだろ」

「抜くためのポイントがかかるので足りません。それにするとなると四葉のクローバーさんの世話が難しくなりますね」


 無言でおっぱいマウスパッドからの忠告を受け取る。確かにそうだ。

 とりあえず鉢植えを持ってきて、外に出てみる。すると身体が縮み、マウスパッドになった。慌てて鉢植えを確認するとマウスパッドのまま持てている。吸着しているというか。


「驚いたな」

「そうでしょう。みなさん驚きますよ。土に植えるのなら半日向がいいでしょう。こちらです」


 おっぱいマウスパッドが服屋の店員のような口調をしてから歩いて先導する。

 自分の身体を見るとマウスパッド。これどうやって歩けばいいんだ。手本はおっぱいマウスパッドが示しているし、その真似をしたらいいはずだが常識がついてこない。


 とりあえず弱みを見せたくない一心で試してみる。できた。


「このあたりがいいでしょうね」


 おっぱいマウスパッドはちょうどトイレの裏手の壁際をしめした。

 素直にそこに穴を掘り、四葉のクローバーを植える。

 どうやってマウスパッドが土を掘って植え替えたんだ。自分でもわからないができている。本当にわからない。それにおっぱいマウスパッドがちょっとかわいく見えてきた。わからないんだ。


「ウォールポイント1で肥料あげられますがどうしますか?」

「やってくれ」


 優しいおっぱいマウスパッドだなあ。

 四葉のクローバーの周りの土に肥料が混じる。染み渡るように変わっていき、周りの土と色合いが変わる。


「水は水道水からあげたらいいでしょう」

「とってくるよ」


 部屋に戻ってコップに水道水を注ぐ。それを飲み干し、なぜあんなおっぱいマウスパッドがかわいく見えたのか。熱が冷めるようにそういった感情がなくなる。

 またコップに水を注いでから家を出る。マウスパッドに変身して、おっぱいマウスパッドがかわいく見える。畜生。




 四つ葉のクローバーの世話をはじめてもう五日すぎた。熊対策にこっちには感じない嫌な音と臭いを出す装置を設置したから悠々自適だ。たぶん

 鉢植えに植えられていた二株を庭に移し、太陽の光を浴びさせ水やりをする。それだけで四葉のクローバーは成長しもっさもさになってきている。


「どうよ肥料おいしいだろ」


 ウォールポイントは15ポイント。いきなり木々がなくなったこの場所の様子を見て、近寄らないようにしている小動物がいるかららしい。まあ椅子に座って四葉のクローバーに話しかけるマウスパッドがいたら近寄らないよな。


「お前たちなんかしゃきっと背が伸びてきたな」


 こうやって褒め続けたら召喚させてくれるんじゃないのかと、声をかけ続けている。最初の三日間は熊に怯えて小声だったが、全然来ないので今はしっかりと話かけられる。


「植物が言葉をわかるわけないじゃないですか」


 隣の椅子に座って四葉のクローバーを見守るおっぱいマウスパッドが嫌なことを言う。見かけは椅子の上に立っていても、我々の間では座っている。


「言葉が通じていないのならするべきじゃないんですかね、土下座」


 黙って聞いていたら何を言い出すんだこいつ。


「それこそ四葉のクローバーにとって訳わからないだろ」

「話しかけるまでしたんですから今さらじゃないですか。それに早く了解してもらわないと、魔力が使えずに生存競争に敗れるかもしれませんよ」

「魔力という概念をここに来て初めて聞いたぞ。どう影響するんだ」


 陽を浴びるおっぱいマウスパッドが説明するに、地球の植物と違ってここの植物は魔力を栄養に変えられるらしい。そのため水が少なくても日が当たらなくても、魔力があれば育つらしい。それに魔力を使えるとなんかパワーアップするらしい。


「なんかってなんだよ」

「自明の理は説明できません」


 これだから魔力のある世界ってやつは。


「もしかして熊も魔力を使ってるのか」

「攻撃にも防御にも使います。あと魔力を溜めこんで冬眠しますね」

「冬眠の魔力は栄養として?」

「はい。しかし生物の必須栄養素として取り入れてしまったので、魔力がないところ生きづらくなる弱点もあります」


 自分のマウスパッドの身体を見る。こんな外に出たらマウスパッドになる不思議な体質なのは、魔力のおかげなんだろう。

 それはまあ置いておいて。


「召喚のパートナーに四葉のクローバーがなったとして、それで魔力を使えるようになるもんなのか?」

「なります。元々頑丈で栄養に多く振り分けなくてもよい分、繁殖や成長などを強化させることもできるでしょう」


 何か詳しすぎないか。誘導されている気がする。

 その夜こっそり家を出た。誘導されているなら何も起こらないことはないだろう。

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