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最終話

「やはり生き残っています」


 嫌な予感が当たったと渋い顔になる。


「首都に礼拝堂がなければ即地雷なんだが」


 壁の内側は好きにできる。しかしそれにも例外がある。この大陸の神の礼拝堂がある場合だ。食糧などを盗んだように戦利品を獲ることはできる。しかし礼拝堂のある範囲では創造ができない。

 それは強固な縛りで、壁内のクローバーたちの付近でも不可能だった。


「生きて意識あるのか」


 もう昼だ。峠は過ぎてしまったか。


「はい。これからまた出るそうです」

「フェンスに?」

「はい」


 モニターに注視する。作りたての白い御輿に乗ってトーチを掲げる勇者の姿があった。

 ゾッとした。両足を失ってすぐの表情じゃない。


 手術麻酔のシャブが効きすぎたのではないのか。

 穴の空いたフェンスはテーブルを四方に挟まれ修復できない。普通壁の外側には地雷を仕掛けられるが、兵士が立っているから神の子パワーと干渉しあって出入り口付近に創造できない。


 周りを地雷源にしようにも、周辺は農地で、そこから食糧の供給が絶え間なく行われていてやはり神の子パワーが邪魔をする。

 クローバーの絡んだ花壁はとっくに壊された。


「首都の人口を半分にするのは容易い。ただ勇者は難しい」

「閉じ込めても出てくるのが問題です。しかし初期立地の地雷にかかってもらえたら終わるので前向きで行きましょう」


 こちらの強みは位置情報を与えていないこと。それを生かさないと。

 民衆が両足のない勇者に声援を向ける。穴を空けて期待に応えたからだ。絵面がカルトだ。


「これまた端から端まで何時間も行進するのか」

「そのようです。拙速なのか、ゆっくりしているのか。一応簡単な治療後に城に戻されたときから予想できてました」

「報告されても信じなかったよ」


 脳改造パワーで無理に心を落ち着かせて映画を見る。三本終わったところでやっと城塞都市から出た。もう夜だぞ。


「今回は兵士が多いですね。遠征の用意がフェンスの外にされています。勇者御輿を先頭に二百人の兵と兵站が続くようです」


 フェンスの外で陣形を組み、勇者御輿は始まった。後ろの兵士がトーチの子を持ち明るい。


「将来祭りになりそうだ」


 そう馬鹿にすると勇者が御輿を止めた。そしてトーチの火が燃え盛り、地上を指した。そこには地雷がある。


「地雷探知もできるのか。便利すぎるだろ」


 そしてさらに炎はある方向を指した。


「トーチをまとめると、トーチの範囲では強化、疲れないと臭い音など平気にする。バーナーになる。消えない松明を分けられる。地雷発見器。そしてウォールマスターのいる方向がわかる。の五つの機能があります」

「ふん」


 なぜか懐かしい気持ちになった。そうだよ。これが世間だ。


「追い詰めたら追い詰められるのは当たり前だ。赤国にも壁を伸ばして、せめてこの大陸の文明を遅らせる。死の穴に種を埋めるぞ」

「はい」



 勇者御輿は走り続けている。食事はするようで一日に二度止まって、それが休息になる。問題は寝ないこと。そしてワープして場所を変えても眉ひとつ動かさずに方向を変えて走り出すこと。


「また増えていますね。勇者ラインからの人でしょう」

「魔法使いのおっさん、筋肉がついてきたな」


 親戚のように暢気にいうが、追い詰められてきている。

 壁付近でないと様子がモニターできないので、勇者がフェンスに来て初めて変化がわかるのだ。


 勇者はトーチを増やすことができる。最初の子トーチは人を強化ロボにするだけだったが、成長してきたようで地雷発見器とウォールマスター発見器もできるようになっている。

 そのため各地にワープしてジャグリングしようにも、一度拠点にした場所へ本隊から兵士と魔法使いを出して占拠され先回りされるようになった。一ミリ壁では領域支配できないのがつらい。


 今では礼拝堂がなかったあの三集落の小高い丘に待機する兵士たちがいて行くこともできない。土魔法まで強化されていて潜り込まれてしまった。盗人どもめ。


「魔法使いのおっさんロボとして強化されていますね」

「もう人間に思えない。もしかすると勇者はトーチを出して即洗脳されたんじゃないのか」

「ありえます」


 モニターで監視していると、勇者が御輿に乗ったまま手を伸ばしてトーチで金網を切断している。自動修復を止めるための丸太の細工を終わらせ、あとはフェンスの修復を止めるだけ。


「さてここをどうするのか」


 今過ごしている場所は最終拠点だ。逃亡のためと壁建設にウォールポイントを使いすぎてもう後がないのだ。

正当防衛バタフライパレードと贈与で増えた分もあっという間になくなった。


「泳ぐんでしょうね」


 ここはこの大陸最大の湖の底。淡水クローバーによって急速に環境が変貌している場所。広さは白国の首都四つ分。ネッシーに似た魔物が生息している。


「深さは五十メートルか。こんな日が当たらない場所で淡水クローバーよくやった」

「はい」


 湖中のワンルームでたらいの中の淡水クローバーを褒める。種がおいしい。一応お前もよくやっているぞと海水クローバーも食べた。


「いかだを作るようですね。船は全部接収しましたから仕方ないですが、あれ本気でしょうか」

「他に手はないはずだが、いかだって。もしやトーチがまた何かやるのか。あの便利グッズが」

「ありえるでしょうね」



 二日後、いかだが二十枚完成した。休養になったようで、みんなすっきりとした顔をしている。

 勇者御輿が先頭に立っていかだが湖畔を出た。


 おっぱいマウスパッドとの話では、トーチがぶぶって何か出して前に進むと予想している。

 勇者はトーチを掲げて、いかだに座ったまま周りの人がかいを漕いでいる。本当にただのいかだだった。


「このスピードだと五日はかかりそうですね」

「計算のない強行軍は怖いな。発想が」


 機雷を設置しようにもポイントはなし。見守るしかない。



 そして勇者到着。

 ちょうど真上に勇者がいかだに乗っている。いかだは十五枚と案外減っていない。


「どうするんだ」

「脱いでますね。潜るんでしょうか。水中で息をする魔法はないはずです」


 勇者を見守る会全員で見守っていると、勇者がトーチを湖面につけた。トーチは消えることなく燃え続け、ぶくぶくと大きな泡を出している。そして持ってきていた食糧を入れていた木箱を逆さまにさせて空気を溜めはじめた。


「水に浸かったら酸素が出て来るようです」

「あのトーチはどこのホームセンターで買ったんだ」


 ウォールマスターもひどく強力なパワーを持っていた。それでも勇者の力からしたら軽いものに感じる。


「どの世代の勇者もああなのか」

「大きさの変化するはしごの勇者やハンマーの勇者などがいましたが、今回のはとびっきり便利グッズです。あれほど多くの能力を持った勇者は他にいません」


 諦めが浮かんできた。

 武具の重りをつけた勇者と兵士、魔法使いたちが湖に沈んでいく。恐怖も覚悟も感じない。

 あんな哀れな人形たちに殺されるのか。


 ワンルームまで水深五十メートル。沈むだけならあっという間だ。


「マスターは一度もまだかと聞きませんでしたね」

「それが意地だ。不幸体質は常にベストに生きないといけない。急かすのは謝罪に似た恥だ」

「そうですか。勇者が目前に迫ってきましたが、壁建設完了しました。この大陸は私たちの物です。ではワープ」


 ワンルームごと、どこかの高原に飛んだ。フェンスのない無防備な環境。

 おっぱいマウスパッドと手分けをして四葉のクローバーたちのたらいを持って外に出る。

 気持ちのいい天気の中、クローバーが高山植物を駆逐して繁殖していた。


「間に合ったな。大陸を囲む壁」


 淡水クローバーをなでる。


「お前のおかげで時間稼げたぞ」


 そして海水クローバーをなでる。


「お前がこの大陸すべての海岸線を制覇してくれたおかげで、この大陸を囲むフェンスが完成した。この大陸はもう我々の領域だ」

「よくがんばりました」


 おっぱいマウスパッドがご褒美に二つの葉っぱをちぎって一緒に食べる。四葉のクローバーたちは嬉しそうに風に揺れた。


 この大陸を囲むフェンスを海岸線に立てるために、多くのポイントを紅白両国からしぼりとった。さらにポイントを時間かけてたまたポイントでフェンスを建てるのに一月かけた。もう完全勝利しかこちらに道が残されていなかったから、本当に危ないところだった。


「あ、緊急ニュースです。この大陸の神が白旗を上げて、かなりこちらに有利な条件でマスターをリムーブする取引が成立しました。これで晴れてマスターは乳牛回避です。パレードは一週間ですが、別にやることないですね。クローバーは歩けませんし、元々忘れるなという意思表示でしたから。あちらの希望はすぐ消えてくれです」

「そうか」


 他のマスターと比べたら長くなかったはずだ。それでも長かったと感じた。


「いらいらしない時間を過ごせた。感謝する。どう消えるのかわからないが、もう生まれ返っていいぞ」

「いえ、感謝するのはこちらこそ。私たちもいい転生できますから」

「そうなのか。お前も?」

「はい。生前のあなたと縁が強くて、連座制で魂奴隷仮みたいな状態だったので」


 全然思い出せない。ただ、おっぱいマウスパッドはすべて覚えているようだ。


「来世では四葉のクローバーたちもあなたの味方をしてくれるかもしれません。今度こそ」


 そこでおっぱいマウスパッドは詰まった。

 しばらくして身体が薄霧のように乱されていく。またお腹のあたりが暖かくなってきた。


「今度こそ、今度も一緒に勝つぞ」

「はい」


 おっぱいマウスパッドへの返答として勝つぞが正しいのか分からなかった。ただおっぱいマウスパッドは満足そうにうなずいていた。

 夏の香りがする。

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