十三話
勇者は案外すぐに見つかった。首都のお城の部屋で寝ていたからだ。
「もう昼前かつ、フェンスに囲まれているのにこいつは」
「周りは騒いでいるのに何しているんでしょう。わかりました。時差です。あっちで夕方ごろにコピーされて、ペーストがこっちの昼頃、ズレとストレスと疲れで寝坊です」
普段通りの生活ができないのはわかるが、起こしに来いよ誰か。
「まあ囲んだし、奪うことから始めようか」
「はい。食糧はもちろん、魔法書籍と財宝、攻城兵器、燃料。ポイントで移動させるのはこのくらいでしょうか。魔法書籍と財宝は神への供物です」
「それでいい。今回は蝶がいなくて大変だ。財宝は他のところも獲るか」
「それがいいでしょう」
おっぱいマウスパッドが標準のクローバーの根をかじりながら外で作業する。
やることがないので、ならうように食べる。
朝晩は冷えるが、昼は気持ちのいい季節になってきた。それに雪解け水に紛れて淡水のクローバーが好調だ。悪いことが勇者しかない。
「あっ、起こされました。いろいろなくなってさっきより騒がしいですからね」
「御飯がないのはきついよな。水はあるが」
「あと食糧移動といっても、クローバーさんたちは排除していません」
「あいつらにとってチャンスだもんな」
勇者が偉い人の話を聞きながら、後ろの従者に水をもらっている。
さすがに記憶のないコピーとはいえ、本人は自我がある。寝起きに飯抜きで働けと言われても動かないだろ。
「勇者が十秒でうまく説得されていますね」
「シャブで釣られた薬中だってこんなに物分りよくないぞ」
勇者が城内を先導されて、門から街へ出て行く。そのときいきなりトーチ、松明が右手に出現して火がともった。昼の明るさより明るい火がついていた。
「魔法か?」
「あれは勇者ごとに現れるスキルです。召喚と似たようなものです。今回の勇者はあのトーチの力なんでしょう」
周りの目を気にせず、トーチを掲げた勇者は兵を引き連れて街を行進した。外出禁止が食糧盗難で緩みかかった街でそれは目立ち、家々から人々が表れ、勇者を見守った。不思議と誰もがキチガイを見る目でなく、憧れ、励まされたような顔をしている。
「あれがトーチの力か。洗脳か。フェンスに死体の壁を築かれたら抜けられるな」
「ええ、人口五十万都市ですからね。充分できます。家を壊して積み重ねたほうがいいとしても」
謝らないぞ。
「しかし五十万城塞都市の端っこの城から端っこの門まで歩いてくのか。馬とかないのか」
「あるはずなんですが、使ってませんね」
不安をよそに勇者は歩き続け、民衆を励まし続けた。時にトーチから小さいトーチを出して分け、声をかけ。分けられたトーチは消えず、子から孫に分裂もした。さらに足取りが重くならないことから、疲れないこともトーチの力の一つだろうと推測した。ゲームをしながら。
夕方を過ぎて夜。勇者から分けられた火は街中に広まり都市を照らした。普段の街より明るいのではないかと思う。民衆は勇者に期待し、勇者はその期待を流さずに受け止める。何か奇跡が起きるのではないのかという機運が高まっている。
「蝶さえいればこんな都市三十分で落ちるのに」
「知らないことは幸せですね。蝶はパレードのため赤国へ向かいました」
我々もゲームだけしていたわけでなく、フェンスの見直しなどをしていた。忍び返しの角度とか。
「勇者がフェンスに近づいています」
勇者が騎士を従えてフェンスに近づく。よく見ると魔法書を盗まれた魔法使いもいる。こいつここに逃げ込んでいたのか。運がいいな。
あとマスクも耳栓もしていない。無効化されている。
「機械のような勇者、フェンスと対面しました」
「機械くらい頭がおかしくないと、人を縛ってマグマに巻き込まないよな」
「相手によります。さて勇者はトーチでどうするのか。触ったら感電死ですが。あ、これは、トーチがバーナーになりました」
「えっ」
勇者のトーチの炎が鋭くとがり、火が赤から青白く変化していく。
「バーナーがフェンスの金網を溶かして切断していきますね。異常に火花が出ているので周りの人が驚いていますね。目が焼けないんでしょうか。大丈夫のようですが」
フェンスの金網が火花を散らして無残に切断されていく。
「バーナーのことを建設業界ではトーチと言うが、松明でやるなよ」
「マスター、気持ちはわかります。それにバーナーは普通のウォールマスターに有効ではないので、明らかに狙い撃ちされていますね。この大陸の神から絶対殺すというメッセージが伝わってきます。八つ当たりですが」
元は松明なので、手の届かないところのフェンスも届いて金網を切断できている。そうして人が二人分は通れるほど大き目な穴を開け、フェンスが向こう側に倒れるように椅子を投げてとどめを刺した。
金網は哀れにも倒れ、地に伏せ、地雷を踏んだ。
「がれきか魔法で超えると考えていたから地雷の位置がずれてしまった」
地雷は金網の下で跳躍したため、一メートルも飛ぶことができなかった。それでも内蔵された鉄球を前方後方の二方向に散弾した。前方は壁の外、後方は壁の内側。つまり何十もの鉄球が勇者に向かっていく。鉄球の一つ一つが近距離ならば拳銃ほどの威力がある。
勇者は見ていて気持ちのいいほど吹き飛んで行った。上半身には当たらず、下半身だけだったのでこけたように見える。ただ下半身はボロボロ。魔法使いが走って近づいたが、もう長くないだろう。
「もう少し近かったら下半身一気になくなってましたね。あれでは苦しむ時間が増えるだけです」
「つまりラッキーか」
口ではおちゃらけて言ったが、まだ生き残る予感がある。隠すべき跳躍地雷まで使わされて嫌な予感を残すのだから最悪だ。
切り取られた金網が遠く野原で消えていく。
自分を鼓舞しようと頭で設計する。
「着工開始」
「はい、着工開始」
フェンスに開いた穴の前に一メートルほどのモニュメントのような土壁を作った。その土壁にはクローバーを花壁のようにまとわせ、神のマークに四葉のクローバーを二つ加える。
「絶対生き延びてやるからな」
「はい。そうしましょう」
おっぱいマウスパッドは誠実にうなずいた。




