十一話
「ニュースです」
「今回は地味活動だったが、最後の方に出たいなあ」
もう冬になり、クローバーが落ち着く季節。それでも三日でワンサイクル回るけど。
「トップニュースです。ダンジョンマスターが来春白国の前線への魔物爆発を起こすと宣言しました。生まれてから二十年と、昨今のダンジョンマスターとしては長い雌伏を経ておりますので、被害について神も期待しています」
「是非とも便乗したいな」
「壁でふさいで、魔物で殺すのは一種の様式美ですからね」
この世界で生まれたくないな。
その後、白国の軍備の再編の流れ、両国の通商が順調なこと、両国間の婚姻、赤国のウォールマスター討伐、一級の魔法使いが一時的に壁に閉じ込められるが村民と脱出、冬の飢饉が淡水クローバーによって回避、赤国が美術品を秘密裏に売却、難民発生、一部の家畜に謎の奇病、新しい信徒のコーナー。
「魔法使いが逃げられたやつ、ばれてたな」
「たくさんもぐりこんでいますから知られてしまいますね。それと壁を超えるだけなら珍しくありませんから、恥ではありません」
魔法使いのおっさんと弟子には村民を連れて逃げられた。十日以上かかったが逃げられたことにはかわりない。あの土山を作る魔法は壁にとって脅威だ。
しかしただ逃げられたわけではない。魔法使いのおっさんが壁の前で狼煙を上げている中、壁で囲んだ領域は領地ルールで、魔法使いのおっさんの魔法書を盗んで神に献上した。おかげで魔法使いのおっさんと弟子からのヘイトがポイントになってめちゃくちゃたまっている。
実質痛み分けだろう。
ポイントは他にも逃げた人々が難民になっていることからのものもある。逃げてもおいしい人たちだ。
「あっ、最初のアジトに三百人ほど来てます。三重になったフェンスとどう戦うのか。有志のモニターさんたちありがたいですね」
「壁の驚異度が更新されているな。できるだけもぬけの殻だとバレたくないのだが」
今は人がいなくなった三集落の土地の小高い丘にワンルームを移してそこに住んでいる。近くに水源があり、そこに淡水クローバーを植えるとどんどん下流に種が流れていきおもしろい。
引っ越した理由は、山は雪が多いから。
初期立地にあるワンルームは外側だけの偽装だ。雪の深い山奥まで魔法があるとはいえお疲れ様だ。変わりに軍隊熊が冬眠していて襲って来ないから、そこは有利か。
「土山を作る魔法も楽でないので、忍び返しまで埋めて突入するのは難しいでしょう。一人を逃がすだけでもあの一級の人と弟子が過労顔していたのに、高さが三倍になっているフェンスを三連続で埋めるのは飛んだほうが効率的です」
三百人の活躍を見守りながら、ゆったりと春を望む人々の冬が深まっていく。
「緊急ニュースです」
「なんだ」
ワンルームの隣に作った温室で、地上に残る雪をおっぱいマウスパッドと四つ葉のクローバーたちとで眺めていると、突然おっぱいマウスパッドが通信をはじめた。
「半月後に魔物爆発が白国の最前線都市、その後方の交易都市、その二つのへいたん都市に向けて出発します。信徒の方々は避難してください。奥にある首都へは第一陣では向かわないようです。繰り返します」
「ついに来たか」
「間に合いましたね」
「なんとかな」
かっこつけてみたが、冬の間何もせずにクローバーの生育を見守っていただけだ。やったのはおっぱいマウスパッドとゲームしたり映画を見たくらいだ。クローバーをつまみながら。
「また一ミリ壁を伸ばすか」
「早い内にやって異変にバレたら怒られますよ」
「じゃあ今度にしよう」
春は近い。
春になりました。
ダンジョンマスターの予告した当日。多少ズレることもあるかと思っていたが、その心配はなかった。
「ではカウントダウン行きます。十、九、八、七、六、みなさんも一緒に、五、四、三、二、一、ゼロ!魔物爆発!」
おっぱいマウスパッドの軽快なカウントダウン後、たぶんどこかで魔物爆発がスタートしているはずだ。
これみんな聞いているんだろうか。カウントは心の中でした。
「ではこちらも壁着工開始」
「はい。着工開始」
一ミリ壁を事前に三都市の周囲に巡らせていて、今の着工で八メートルのフェンスにアップグレードされる。ダンジョンマスターの召喚が陸上を走る生物だったらとんだ邪魔だが、その中身を聞いているから問題ない。
今回の魔物爆発で主役となる生き物は透明な蝶だ。二十年雌伏していた理由がわかる。蝶では人を殺せないだろ。普通は。しかしそこは召喚だ。強化できる。ダンジョンマスターは透明な蝶の蜜を吸う力を強化したようだ。
「さて、いったん寝るか」
「到着までかかりますもんね。夜中出発とは大変なものです」
とりあえず寝ました。




