十話
現代的なアスファルトと違って、原初的な道というのは生き物が歩いて踏みしめて作られるものだ。獣道が典型だ。そうした道は草が生えない筋ができる。
そう、道に壁を作ることができない。
「とん挫したな」
「短い距離ならいいのですが、今回は距離がありますからダメですね」
村と村をつなぐ流通のため、荷台分の草のない道が続いている。塩水をまいたり、砂利を敷き詰めたりと、車を邪魔しないようしているのだろう。田舎道だからとなめていた。地図ではわからないものだ。働き者だ。
「道があるから村だけを囲もうにも抜けてしまうな」
「どうしますか」
深く考えるのも面倒だな。
「仲の悪い一帯を囲んで戦争させよう」
「二つの派閥が共闘しませんか?」
「仲たがいさせる方法ならある。むしろ囲まなくてもいいのか。出口を敵対に向けるだけで」
「そういえばどこが敵対し合っているのか知りませんね」
深く考えていないことが裏目に出たようだな。
真面目にやると情報が地図のみできつい。村の名前で派閥が決まるわけでもない。道がしっかりしている以上、仲良く交流しているとみるべきか。というか国が同じなのに暴力敵対しているわけがないのか。
「パワープレイで敵対させよう」
「敵対させなくても広く囲んで匂いと音で参らせればいいのでは」
「あ」
芸術点はいらないようだ。今気づいたけど謝らないぞ。
頭の中で壁の設置計画書を書く。一部の道が森にふさがれている地域でよかった。山を背にしている集落と、山と山の谷になっている場所にかまえる集落、川から少し離れた場所にある集落、この三つを巻き込む壁を制作する。おっぱいマウスパッドが。
クローバーがある場所にしかないことがばれないように、できるだけ壁のラインがソリッドにならない余裕を持った計画に修正されつつ完成。
「これでいこう」
「待ってください。神のマークが必要です。支柱ごとに1ウォールポイントいただきます」
「ぜったいポイントとられると思ってたよ」
必要経費のお布施だ。そう考えよう。
「裏と表、村人に見せるのか、外に見せるのか」
「支柱一本2ウォールポイントと言いたいところですが、裏表交互にやりましょう」
これで得したと思わないぞ。
「まあそういうことで着工開始」
「はい。着工開始」
これでウォールポイントを九割使った、全長二十キロ余りのフェンスが雨後の筍のように生えてくることになった。
他のウォールマスターは自分の召喚獣を使って事前情報を得るらしい。異常なスピードで範囲を広げていくことと引き換えの目隠し。何とも癖のある状況だ。
「三つの集落はどうなったんだろうな」
「ウォールポイントが入ってきていますから、迷惑しているのは確かですね。予想より村人がいて、みんな閉じ込められことにストレスを感じています。臭くてうるさいですからね」
今日は庭の淡水クローバーのたらい前に座り、淡水クローバーをつまみながらおっぱいマウスパッドと話す。淡水クローバーは浸かっている水すらもおいしい。
「三つの集落は中心の森に逃げそうか?」
「はい。中心まで臭いとノイズは届きませんから」
「これで、内外で協力しづらくなったな」
順調だ。ポイント生産者たちよ、絶望するがいい。
「ただ問題があります。森に魔法使いとその弟子がいるらしく、助けを乞うようです」
「なんだそのファンタジー。あの百人は魔法を使ってなかったぞ」
「細かいところで使ってましたよ」
気づかなかったミスを責められているようだ。いや魔法とかあるわけないだろ。
「魔法があるとして、フェンスは大丈夫なのか」
「どうなるか楽しみですね」
おっぱいマウスパッドが海水のついたクローバーを真水で洗って食べる。余裕を持ちやがって塩分控えめ野郎。
魔法使いのおっさんは、三つの集落に囲まれた森に住み、山川と平地の農地から幸を受け取っていたようだ。そのせいか、乞われるとすぐにマスクと耳栓を用意して、弟子と共にフェンスへ向かって行った。
空を飛ぶのかとモニターで見守っていたら、普通に歩いていた。
「魔法にはどんなものがあるんだ。おっさんが十人くらいで一本の丸太持って突撃するのより強いのか?」
「百人来たときに丸太を使っていた通り、尖った丸太を持って突っ込んだほうが強いですね。魔法より断然。魔法の利点は、火で溶かしたり、風で切ったりを近寄らずにできることでしょうか。攻撃の方向性が違います」
色々とできるということか。念動があれば一人で木の足場を作って超えることができるし、土を操れたら小高い山を作ればフェンスは埋まって終り。
「多数の形態を持つ壁に、多数のやり方を持つ魔法使いを向かわせるか。これはこれからの方向性を決める戦いになりそうだ」
重い表情で淡水クローバー出汁のジュースを飲んでモニターを見つめる。魔法使いと弟子が数人の村人ともに壁に近づく。
壁は川と集落の間の平原に設置してあり、川沿いの集落のヘイトを一身に受けている区間だ。
「さあキックオフだ」
「村人は周りを警戒していますね。魔法使いは、火の魔法ですね。こぶし大の炎を投げました。しかし金網に向かっています。金網は爆風などに強いので無意味ですが。あ、金網で止めました。火で溶かす作戦でしょうか」
おっぱいマウスパッドの実況で、こいつまったく心配してないなと勘付いた。しかもこのままだと言いたいことをすべて言われてしまう。
「金網はこっちではあまりないのか?」
「とっくに発明されていますが、まだ小型の害獣避けとしてですね。焼き網はあります。ただ金属の質が低いので火に当ててたら崩れるだろうと思っているのでしょう」
良い解説だ。さすがおっぱいマウスパッドだ。
「一旦火を止めるようです。変化は、多少焦げているだけで問題ないようです。あれくらいなら、自動修復さんがワンウォールポイントでやってくれます」
「序の口だからな。しかし本当に支柱を狙わないな。ワイヤーカッターがなければ支柱を倒すのが常套なんだが」
「倒されたら自動修復さんでもきついですね。その戦術はまだ先かもしれません。金網が弱いという固定観念から解放されないと」
金網べた褒めだな今回。
そして噂をすれば、今度は支柱を狙いはじめた。
「あれは、魔法メテオストライクの準備ですね」
「何だその名前」
やっていることは支柱の前に土の山を作っているだけだ。魔法使いと弟子、みんなで真剣な顔をして。
「見ていてください。ほら、土の山がすべり台のようになってきたでしょう」
「ああ、もしかして」
「そうです。メテオストライク、すべり台を作って大きな硬い岩を勢いよく壁にぶち当てる、壁破壊の最終魔法です。多くのウォールマスターはこの魔法にやられてきました。例外的に丸太槌より破壊力があります」
真水で洗った海水クローバーの根っこをかじりながら言うので、言葉の割に緊迫感が伝わってこない。こいつ根っこ大好きだな。
「どのくらいやれてるんだ」
「軽く三ケタですね」
「歴史長すぎるだろ。百人の時はなかったな」
「すごい魔法ですから、使い手がいなかったのでしょう」
そうこうしている内に準備が完了した。あ、けっこうでかい。縦幅十五メートル、高さ三階建くらい。そして転がす大岩の玉は直径三メートルはある。
「本当にすごそうだ。こっちの世界の戦争大変そうだな。ウォールマスターのおかげで城壁破壊が進化してしまって」
「あ、来ますよ。せーの、メテオストライク」
「誰も言ってねえよ」
大玉が転がって行き、魔法使いたちは場を離れる。
大玉は支柱に向かってまっすぐと駆け、大きな音とともにぶつかった。現地では振動もあっただろう。偶然か狙ったのか、ぶつかった場所は神が送ってきた山をくわえて運ぶツバメのマークだった。
「支柱残ったぞ」
「基礎がしっかりしていますからね。支柱も中がコストカットで空洞でも強度が保つよう工夫されています。少しへこんだくらいじゃないでしょうか。これも自動修復さんがウォールポイント1つで治してくれるでしょう」
誇らしげにクローバーをかじらずに自慢する。すごいけど褒めないからな。
「あっちは空気重いな。失敗していたけど、電柱だったらひとたまりもなかったろう」
「電柱と同じ技術のコンクリートポールなので、電柱も倒れません」
謝らないからな。せっかく誉めたのに。
土のすべり台はすぐに維持ができなくなり消えた。逃げるとしても集落全員ならかなりかかりそうだ。
魔法使いたちは力尽きたように座り込み、たき火をはじめた。火が安定すると、何か投げ入れる。
「狼煙か」
「外に救援を求めているようなので勝ったようです」
おっぱいマウスパッドの機嫌がいいので、そうだなと相槌を打った。




