前篇
ケイと亜木夜が二人のサポートに就いてから、キッドとケインが色々な事件を熟して行ったある日、サポート役の一人であるケイからある提案があった。
「ケイン、キッド、貴方達はペアのメンバーだから、そろそろ【コード・ネーム】を決めた方が良いかもね。」
溜息交じりで告げられた言葉に、同席している亜木夜も頷き、彼等に呼ばれたい名前を尋ねる。彼等の言葉と行動で、二人が共に難しい顔をして考え込む。
この課には、【コード・ネーム】という物を持たないメンバーも存在しているが、キッドとケインの様に二人、若しくはそれ以上で行動するメンバーには、彼等を示す一つの名前が必要であった。
しかし、色々と考えた二人ではあったが、全く良い案が浮かばない為、この話は先送りとなる。そんな話の中、何かを思い出した亜木夜がメモリーカードを彼等に渡す。
「今度の任務は、犯罪者の護送っていう簡単な物なんだけど、少々難点があるから二人共、十~分に気を付ける事。」
注意点があると、亜木夜から指摘された二人が渡されたカードをリーダーに掛けると、そこから画面が空中へと映し出される。そこには今回護送する犯人に関しての事細かな情報と、今までの脱走回数が記されてあった。
彼等と一緒に情報に目を通したケイは、納得した様に頷く。
「この人達…確か交通課のα部門のメンバーが私達に頼らずに自分達で護送するって、言い張った犯人達じゃあない?
ここに来ると言う事は…やっぱり無理だったのね。」
溜息交じりのケイの言葉に、亜木夜が頷く。
通常犯罪者の護送は、特別任務課で行うのだが、偶に関係した課がそれを行う事がある。この場合、護送に失敗すれば当然、この課へとその任務が移行する。
ついでの補足だが交通課のα部門とは、宇宙海賊の取り締まり部門であり、宇宙空間上での窃盗もこの課の管轄である。
話は戻るが今回の犯人達は、そのメンバーの手で護送する筈だったが、出来なかった為に彼等へとその任務が回って来たとの事。それ故に、彼等二人の仕事となった。
「今回は、君達だけでの任務となるよ。
差して危険もないだろうし、失敗しても命を落とす事もないからね。」
まるで、失敗しても大丈夫と安心させるかのように告げられるが、返って二人は不安になった。こういう風に亜木夜が念を押すと言う事は、今までの経験上、何かしら嫌な要素がこの任務に隠されていると感じてしまう。
任務を伝える際には何時も、食わせ者と化している亜木夜に対して、二人は声も高らかに宣言をする。
「大丈夫です。無事にやり遂げてみせます。」
「心配はいらない、俺達が必ず、遂行してみせるぜ。」
自信満々の彼等の言葉に亜木夜は微笑み、任せたよと告げる。
一応、監視の意味でのモニタリングはしていると言われ、自然に彼等の視線がケイへと向けられる。彼女のERP能力の一つである透視能力を使えば、遠くからでも監視が出来ると判っている彼等は、少し脱力した。
「亜木夜の脅しなんかは無視しちゃて、ちゃんと任務を熟せばいいのよ。
貴方達なら大丈夫。任務を無事に終えて、ここに帰って来るって信じてるわ♪」
大先輩から、さり気にプレッシャーを掛けられた気がした彼等は、掛けられた言葉を表面上の意味で取って良いのか、迷った結果、二人共素直に頷いてしまっていた。
そんな彼等をサポーターの面子は、今いる本拠地から温かく(?)送り出した。
二人は、メモリーカードにあった指示通りの場所…マンリ・ナーサーの空港に到着した。宇宙空港と地上空港が同居しているここで、今回護送する犯人の引き渡しが行われる。
一応彼等は、一般の何でも屋を装い、連邦警察から依頼を受けるというシステムに表向きなっている。故に特別任務課では制服と言うものは存在せず、代わりに任務遂行中の証であるブローチを左側に付けている。
特別任務課のメンバーである事を示すそれは、個人認識チップを内蔵されている代物で、偽造が不可能となっている。
無論、相手のメンバーの中に、そのチップを読み取る役目の者がさり気無く混ざっている。大抵場合は上役…課長クラスの者が、その役目を請け負っている。
一般のメンバーには、彼等の課・特別任務課の事を知られていない。
連邦警察内でも、課長以上の上役からでしか明かされていないからだ。何故ならば特別任務課は、唯一の本部しか持たないという特殊な物である為だった。
星間連邦の中でも、その存在と所在地は最高の極秘事項であり、一般に知られる事は全く無い。故にこの課のメンバー達は、一般人の助力と言う形を取り、警察官として表立つ事は無い。
今回の彼等の任務も一般の腕の立つ何でも屋と言う役で、交通課のα部門の警察官達と会う事になる。
「君達が、今回の護送を請け負う何でも屋かね?」
メンバーの中で一番年上だと思われる緑の髪の男性に声を掛けられ、そうですと二人は素直に答える。
「私達が、今回の仕事を担当させて頂きます。
で、その問題の当人達は、どの船に捕獲されていますか?」
丁寧に言葉を綴るケインの質問へ頷きが返り、その宇宙船へと案内される。一般的なシンプルなそれの前に案内された彼等へ、この宇宙船のマスターキーである識別カードを渡される。
「これで宇宙船が動く。後は、君達次第だ。」
簡素に告げられた言葉に二人は頷き、渡されたキーを持って宇宙船へと乗り込む。その姿をネビゲイターズ・メンバーは心配そうに見送るが、上役の者だけが安心した様に呟く。
「まあ、歳は若いだろうが、荇さんの御指名なら、何も心配はいらないだろう。」
あの亜木夜に対して絶対の信頼を寄せている様な呟きは、二人のイリュージョンズ・メンバー達には届かなかった。