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彼等が到着したのは、最悪の場面だった。
今正に犯人の手で、保護対象である女性が殺されようとしている所だったのだ。彼女の首に犯人の手が掛かり、締められようとしていた…が、二人の突然の出現により、それが緩んだらしい。
その隙にキッドがESPを使い、犯人を女性から離し、壁へと投げ飛ばす。
ケインはというと、女性に近付き、彼女を護る為にその周りにバリアを張る。
二人の連携の様子に飛ばされた犯人は舌打ちするが、反撃の機会を窺っていたらしく、その眼は彼等から外れなかった。
犯人の動きを見ていたキッドは、ケインから犯人の気を逸らす様に提案を受ける。その為彼は、念動力で犯人の近くにあった瓦礫を動かし、犯人の隙を作る。
キッドによって作られた隙に、ケインが犯人を捕らえる為の道具である、【コズミック・ボール】と呼ばれる物を投げ付ける。その小さな機械から薄い水色の透明な膜が出現し、円形になった膜が犯人を捕らえる。
ライナ・ヴァージニアを無事に保護し、序でに犯人をも逮捕する事が出来た彼等は、安堵の溜息を吐く。無事に任務を終えた事で、お互いを見合わせ、微笑みあう彼等の前で、意外な事が起こる。
保護した筈の女性が彼等の横を過ぎ、事もあろうか、犯人を開放するのだ。
余りにも予想外の出来事に驚いて、唖然としている二人の耳に、聞き覚えのある声が聞こえる。
「行動力と思考力共に80点、推察力とESP使用のタイミングは…おまけで85点。二人の連帯力は…満点ね。」
聞こえる採点に二人は唖然としていたが、彼等の様子を微笑みながら見つめるライナの姿が、一瞬にして変わった。
薄い緑の髪が見事な金髪に、厳しかった青い瞳は優しい光を宿す紫の瞳に…ケイ・フロレイトの姿へと変化したのだ。
ライナ・ヴァージニアとケイ・フロレイトは、同一人物だったのだ。
これを二人が知った瞬間、犯人も微笑みながら二人に近付き、彼等の首根っこへ親しげに己の腕を絡める。
「良くやったな、新米!!」
犯人からの嬉しそうな声ともう一つ、ケイの声も重なる。
「そうね、模擬実践としては良くやった方ね。
…最高のペア・メンバーが育ちそうね♪」
嬉しそうに告げる彼女の声を皮切りに、辺りに沢山の人々が集まる。あれよあれよと集まった者達に、驚きっぱなしのケインとキッドに、周りに人々からの声が掛かる。
「「「ようこそ、星間連邦警察の特別任務課へ!!」」」
この言葉に二人は、この任務が架空の物だと言う事を悟った。自分達の卒業試験とは別の、この任務の意味が判らない彼等は、不思議そうな顔をした。
すると、未だ彼等を確保している犯人役の男性から、声が掛かる。
この事件は、全てでっち上げた物だと言う事と、これからメンバーになる人間の仕事を熟すレベルや性格、欠点、どの仕事が適性化を調べる物だと言う。
「新人を試す最終試験か、適性検査って言えば判り易いか。」
説明の後に付け加えられた言葉に、二人は納得して頷く。
しかし…この後に続いた、ケイの補足に脱力した。
「後ね、新人の歓迎の意味もあるのよ♪」
ウィンクをしながら告げられたそれに、周りの者達も一斉に頷き、ケイを中心に彼等を囲む。その様子を確認した彼女は、二人に向かってこう言った。
「では、改めて言うわね。
卒業、おめでとう、そして…ようこそ、我等が特別任務課・イリュージョンへ!」
これを皮切りに何処から出たっと突っ込みたくなる量の料理と飲み物が、テーブルごと出現する。
しかも、廃墟ビルだった辺りが、普通の宴会場へと早変わりしていたのだ。
この変化に二人は、ここにいるメンバー全員の保有しているESP能力で、全てが創られていた事を知った。
場所と建物等の幻影は勿論、それに触れられると感じられる様に感覚の操作、宇宙船の発着陸まで全てが作られた物だったのだ。
序でに言えば、今出現したテーブル等も、彼等のテレポート能力の応用編だった。周りに2・30人はいると思えるメンバー達の一人から、二人は話し掛けられる。
「驚いただろう?
此処のメンバーになる者はみんな、同じ様な事をやられているんだよ。」
「まあ、一種の儀式みたいなもんさ。それに…新人の本当の実力が判らないけりゃあ、どんな仕事を熟せるか、判らないしな。」
犯人役の乱入の説明に、成程と二人は思った。危険と背中合わせのこの仕事では、彼等の言い分は最もだった。
それに更なる説明が加わる。
「そうよ、私達の仕事は、早期解決できなければいけない物だから、学校を卒業しただけの無能では、使い物にならないのよ。」
この課一の実力を持つケイの、辛辣なそれに反論する者はいない。
新人である二人でさえ、理解している事だから。
常に危険と隣り合わせの任務…いや、死と隣り合わせの任務を請け負う、この課故の、常識。
これを念頭に入れ、最良の結果のみを出すのが彼等、特別任務課のメンバー達なのだ。今回の任務(?)でその一員として認められたと言う事は、次回からの任務は本当の実戦となる。
その事を踏まえて、二人は周りにいる先輩たちを見る。
今は笑顔の彼等も、任務となればその笑みは消え、真剣な顔へとなる。
これまで無事に任務をやり遂げてきた彼等に、今日までの模擬任務は、ちょっとした娯楽だとも言える様だ。
犯人の心理は勿論、事件の種類をも、実際に起こりうる想定で作り上げていると周りから教えられる。
彼等の実経験から作られたとも言える、最終試験に二人は見事合格したのだ。
ほっとしている二人に、大先輩からの声が掛かる。
「キッド、ケイン、貴方達には暫くの間、アシストとして先輩が付く事になるわ。
多分私か、亜木夜がなると思うけど…頑張ってね♪」
意外な言葉に驚くが、キッドの保護者で教育係だと思っていた人物が実は、自分達の先輩だとは初耳だったのだ。
優しそうな面影に、この課を熟すという実力が重ならないが、目の前の女性が嘘を吐く必要もない。真実だと思うが、意外過ぎて黙っていると…周りが笑い出す。
メンバーが養い親になる事は、珍しくないと教えられると、キッドは不思議そうな顔をして、ケインは納得した顔となる。
ケインの前の保護者の事を思い出せば、出張と言う名の不在が多かった気がする。この事をキッドに告げるケインだったが、キッドの保護者は…何時も傍にいたのだ。
納得出来ないキッドに、ケイの声が掛かる。
「今、亜木夜はね、デスクワークを主にしているの。
だ・か・ら・キッド達の一番身近にいる事が多かったのよ。」
特別任務課と言えど、実際に任務にあたる者と、それに伴う書類を作成&提出を担う者がいると言う事に二人は驚く。
だが、そんな人物がいないと、仕事は成り立たないと判り、それに就いている保護者の事を思うと…納得出来た。
何時も微笑を絶やさない、優しい保護者…間違った事をすれば、叱られるが…微笑のままの説教では、尚更怖かった事を二人は覚えている。
「そっか…亜木夜は、裏方で頑張っているんだ…。」
キッドの呟きに、何故か周りの者達は苦笑するが、そうよと言うケイの返事に、注目していた二人は気付かなかった。
無事に仮想事件を解決して、帰って来た二人を保護者である亜木夜が出迎える。
彼等の傍にケイも一緒だったが、二人が一人前になる為のサポート役に、異例ながらケイと亜木夜の二人が就く事になった。
サポートと言っても、極簡単な助言をする事が主だが、最悪の事態には、その役の者が彼等の任務を引き継ぐ事となる。
そして…彼等は心の中で、もう一つの事をも誓う。
『実力も、経験も、先輩達にはまだ敵わないけど、いつか必ず、貴方々に追いつき、追い越して見せます。
レディ・ケイ…オレ達は貴女のように、腕利きのメンバーに必ずなって見せます。』
彼等の想いを察したのか、二人のサポーターは更に、微笑みを深くしていた。
こうして、キッドとケインの二人は、警察学校を卒業後、無事に連邦警察・ウィングの特別任務課・イリュージョンのメンバーとして、受け入れられた。
これから彼等は、他の課の手に負えない、幾多の事件を闇で解決する事となるが…それはまた、別の話。
二人の若者の活躍は、これからで始まるのである。
この話で第一話・Lady kayは終わります。次回からは第二話となり、題名が変わりますよ~。