8話
各チームは闘技場の端々に広がっていった。
「まあ、チームってのは多くても少なくてだめだからな。三人ぐらいが臨機応変に対応できて丁度いいんだ」
「魔術が使えないあんたに言われても説得力がないのよ」
エレナがあきれた顔をしていた。
「ところで、サクラちゃんは何の魔術が使えるの」
「私はまだ風属性の魔術しか詠唱できません」
一種類しか使えないのは厳しいな。せめて全属性の魔術が扱えるくらいでないと戦場では役に立てない。むしろ仲間の足を引っ張ってしまう危険性すらある。
「それは困ったな。一種類しか使えないと属性の相性が悪い相手と戦った場合に無抵抗にやられてしまうぞ。少なくとも三種類は使えるようになって欲しいな」
「ご、ごめんなさい」
「なんであんたにそんなこと言われなきゃならないのよ。私だって、まだ水と風しか扱えないんだから気にすることないわよ」
エレナの言葉を聞いてサクラが目を大きく見開いて驚いていた。
「すごいですね。この年で二種類も魔術を使えるなんて、滅多にいませんよ。才能あるんですね」
「そんなことないわよ。まだまだ未熟者よ」
エレナが口元のニヤけを手で隠しながら呟いた。
「エレナってすごかったんだな?」
「なんで疑問形なのよ。まあ、二種類使える人なんてそうそう居ないみたいだかね」
「へーすごいじゃん」
「なんか気持ちが籠ってない気がするんだけど」
「気のせいだ。はやく三種類目を使えるようになるといいな」
「ありがとう。というより、あんたは早く魔術が使えるようになりなさいよ」
「はいはい、精進しますよ」
カレルは投げやりに答えた。
「ところでエレナさんはどの程度の階級まで魔術を扱えるのですか」
「そうね。私が使える魔術の中で一番ランクが高いのはB級かしら」
サクラが目を見開いて驚く。
「エレナさんって本当にすごいんですね。高位の魔術も扱えるなんて」
「そうでもないって。一回、詠唱するだけで疲れちゃうから実戦向きじゃないのよ」
B級程度の魔術を一回しか使えないのか。カレルは小さく溜息をついた。
なんだろうか。魔術学園ってこんな程度のレベルだったのか。最高峰の学園だと聞いていたから少し期待していたのに残念だ。まあ、入学したばかりだから、まだレベルが低いのかもしれないな。
「サクラと俺が前衛をして後衛でエレナが魔術の詠唱に専念する」
「えっと、カレルさんは前衛で大丈夫でしょうか」
「ん、何か問題あったか」
「魔術が使えないあんたが前衛にいたら格好の的になるでしょ」
「ああ、そういうことか。魔術に当たらなければいいだけの話だろ早さには自信があるから大丈夫だ。」
「どこからその自信が出てくるのかしら」
エレナが呆れた顔でつぶやく。
「もし、危なくなったら私の方に来てください。頑張って守りますから」
サクラが小声で呟いた。
「ありがとな。俺もなんかあったらサクラを守ってやるよ」
サクラの頭を撫でた。
「あ、ありがとうございます」
サクラが俯きながら消え入るような声で呟いた。
休憩を挟んで、午後になるとどのチームと戦うかが示された試合表が配られた。
「なにかと縁があるな」
「なんで対戦相手がフェルミなのよ」
エレナが嫌そうな顔でつぶやく。
「か、勝てるでしょうか?」
「どうだろうな。さすがに3対5は厳しいと思うけどな」
「ウソでしょ。ちょっと対戦用紙みせて」
エレナが目を見開いて紙を見た。
「なによ、これ。勝てる訳ないじゃない」
俺としては負けても良いんだけどな。さっさと試合を終わらせてゆっくりしたい。
「実質的に2体5だもんな。ここは棄権した方がいいんじゃないか」
「出来るもんならしてるわよ」
「が、がんばりましょう」
「それじゃ試合をはじめるぞ。さっきも言った通り、リーダーが身に着けている腕輪が壊れたら試合終了だからな」
ゴードンから配られた腕輪をすべてのクラスメイトが身に着けていた。その中でチームリーダーは色の違う腕輪を身に着けている。仲間が受けたダメージを腕輪が肩代わりして一定ゲージたまるとリーダーの腕輪が感知して壊れる仕組みになっている。今回はエレナがリーダーの腕輪を身に着けていた。
「あんまり足を引っ張らないでよね」
「サクラがいるから大丈夫だって」
「せ、精一杯がんばります」
サクラが不安げにつぶやいた。
「俺がサポートしてやるから気兼ねなく戦え」
「あんたはサポートされる側でしょうが。こんなんで本当に大丈夫かしら」
試合は可もなく不可もなく淡々と進行していた。しばらくしてカレル達の順番がやってきた。
「お、ようやく出番が来たか」
「試合放棄して、いますぐにでも逃げ出したいわ」
エレナは溜息をついて肩を落とした。
フェルミ達は既にアリーナの上で戦闘準備をしていた。カレル達の姿を一瞥すると馬鹿にするような視線を向けた。
「実戦なんて初めてだからケガをさせてしまうかもしれないね」
フェルミが不敵な笑みを浮かべる。
「どうせ腕輪があるんだからケガなんてしないっての」
「そうかい、精々僕を楽しませてくれるまで逃げ回ってくれよ」
周りの取り巻き達が薄ら笑いを浮かべている。
「……嫌な感じね」
エレナが不機嫌な声で小さく呟いた。