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7話

闘技場の真ん中には模擬試合を行うためのアリーナがあり、その周囲は魔術防壁で囲まれていた。模擬試合でこぼれた魔術が観客席に届かないための対策なのうだろう。アリーナは質素な作りになっており、真っ平らな平面しかなく相手の魔術から逃れる場所がどこにもなかった。真正面から正々堂々戦うことを想定して作られていた。実戦ではそんな場面などほとんどないというのに。


「なにボーっとしてるの。はやく行くわよ」


エレナに急かされてクラスメイトが集まっているところまで向かう。

筋肉モリモリの教師が闘技場の使い方についてレクチャーしているのが見えた。まるで魔術とは一切関係なさそうな教師だな。彼の姿を見てエレナの足が急に止まった。


「まさか、あの人が担当なの!?」

「知り合いか?」

「なんで知らないのよ。めちゃくちゃ厳しいことで有名なグラム先生じゃない。なんでこういう日に限って遅刻しちゃうのかしら」

「ばれないようにこっそりいくか」

「そんなの無理に決まってるでしょ」


そうは言いつつも、カレルの後ろに隠れてこそこそと行動しようとしてきた。


「おい、言葉と行動が一致してないぞ」

「うるさいわね。バレないに越したことはないでしょう」


カレル達は物陰に隠れながら次第にクラスメイトの集団に近づいて行った。しかし、当然うまくいくわけはなく肉達磨グラムの強烈な視線に睨みつけられる。


「初っ端から遅刻だなんて、随分と余裕があるじゃないか」

遅刻してきたカレル達を見つけて筋肉達磨のグラムが眉間に皺を寄せていた。


「申し訳ありません」


エレナが顔を赤く染めてうつむいた。カレルもそれに合わせて頭を下げる。


「すいません。二人で学園長の手伝いをしていたので遅れてしまいました」


エレナが驚いた眼差しでカレルの方を向いた。


「ふむ。だったら仕方ないな」


あとでリリーに口裏を合わせてもらえば大丈夫だろう。エレナがほっとした表情で胸をなでおろしていた。これでひとつ貸しが出来たな。


「それでは、さっさとチームを作りたまえ」

「個人で戦うんじゃないんですか?」

「チームを組んで戦うことで、個々の能力、チームプレイを見て、的確な状況判断が行えるかを評価を行う」

「もしかして俺も参加しなければならないんですか」

「当たり前だろう」

「まだ魔術が使えないから戦いに参加できないんですけど」

「これがあるから大丈夫だ」


そういってカレルの方に向かって腕輪を放り投げてきた。


「なんですか、この腕輪」

「魔術防壁の腕輪だ。相手の魔術を防いで身を守ってくれる。だから魔術が使えない奴でも大丈夫だ」


有無を言わせない圧力でカレルを睨みつける。いや、そういう問題ではないと思うんだが。動く的になれとでも言うのか。色々と反論したいことはあったが、これ以上抵抗したら余計にめんどくさいことになりそうだ。


その様子を眺めていたエレナがくすくすと笑っていた。


「ご愁傷様ね」

「せっかく助けてやったのに、感謝の言葉もないのか」

「あの状況でよく嘘をつく度胸があるわね。バレたら懲戒ものよ」

「大丈夫だって。なんかあったら口裏を合わせてくれるだろ」

「よくもまあ、そんな自信があるわね」

「それより早くパーティを組んだ方が良いぞ」

「ん、どういうことよ」

「周りを見てみろ」


エレナはきょろきょろと辺りを見回す。その様子をみて真っ青な顔になっていく。辺りを見回すと、大体の人は既にチームを組み終わっていた。


「寝坊した罰だな」

「なによそれ。誰か余っている人いないのかしら」

「俺と組むしかなさそうだな」

「それじゃ、私一人が戦うだけじゃないの」

「囮ぐらいにはなってやるよ」


二人で口論していると、一人の少女が近寄ってきた。


「あの……私でよければチームを組んでくれませんか」


背が小さくておどおどしている少女が透き通った声で話しかけてきた。長い前髪が邪魔をして顔が見れない。


「ぜひ、お願いします」


エレナが速攻で返事をした。


「薄情な奴だな。俺じゃ満足できないってのか」

「あんたなんか、居てもいなくても大差ないんだから」


その様子を見て、少女が申し訳なさそうに体を縮こませた。


「すいません、やっぱりお邪魔でしたでしょうか」

「そんなことはないわよ。もしコイツが邪魔だったらチームから追い出してもいいんだから」

「え、いえそんなことはないです。人数は多い方がいいでしょうし」

「エレナと違ってやさしいな」

「私だってあなたをチームに入れてる時点で十分やさしいわよ」

「そういえば、名前はなんていうんだ」

「サクラと申します」

「サクラか。珍しい名前だな。もしかして極東の国からやってきたのか」

「よくご存じですね。ここから随分と東に言ったところにあるらしいんです。私はまだ言ったことがないんですけどね」

「戦争が始まってから渡航が出来なくなったからな。そのうち、故郷に帰れるといいな」

「ありがとうございます」


サクラの前髪の隙間から零れる瞳にとても引き込まれそうになった。


「なに呆けているのよ」


エレナが声をかけてきた。


「ああ、綺麗な瞳だなと思って。やっぱり前髪あげた方がいいんじゃないか」


カレルがサクラの前髪を手で持ち上げる。綺麗な瞳が露わになった。


「ほら、こっちの方がかわいいじゃん」

「あまり、顔を見られるのは、その、恥ずかしくて」

「勿体ないな。俺は前髪をあげた方が好きだけど」

「あんたの好みなんてどうだっていいのよ」


そんな他愛無いことを話していると制限時間が来てしまったようだ。グラムが手を叩いてみんなの注目をひいた。


「そろそろチームが組み終わったようだな。それじゃ、午前中は各チームで練習して、午後から模擬試合をはじめる」


結局、この三人で模擬試合をすることになるようだ。もう少しチームの人数を増やしたかったが、遅刻してきたから仕方ないか。とりあえずチーム戦についてレクチャーしないといけないな。カレルは「めんどくせえな」とぼやきながらも楽しそうに口元をニヤつかせていた。模擬試合といえど、久々にパーティを組むことが嬉しかったのだ。

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