はじめ
恋をしたい幽霊と彼氏に愛されたい彼女の話です。
『私、彼に殺されるの、こんなに嬉しい事はないわ。』
愛が故に君は消える。
昨日、僕は死んだ。
昨日、須藤 秀哉は死んだ。
あまりにあっけなくて未練がたらたらで、なんと地縛霊のようなものになってしまった。
動けないし、物もつかめない。
お腹は空かないし、眠たくもならない。
ただ、暇だけが僕を苦しめる。
「ひっ!」
初めて女の人と目が合った。
数秒見つめ合う。
「もしかして、僕見えてる?」
「ゆ、幽霊…幽霊!!!?!?」
逃げ出そうとする彼女をとめようとする。
動かない足が動いた。
「お願いだから待って!!」
肩をつかもうとした手はするり抜け地面へとダイブした。
「痛くない…」
死んだ事を実感した。
涙がでそうだ。
「あの…」
さっきの女の人が顔を覗き込んできた。
「うぉあっ!」
「大丈夫?」
「は、はい…!」
もしかしたらこの子は霊感が強いとかそうゆうのなのだろうか。
「ここで話してたら変な目でみられるし、私の家においでよ!」
まさか幽霊になってから初めて女の人の部屋に入るなんて…
どこの高校かも知らないセーラー服の彼女に僕はついていくことになった。
「私、びっくりしちゃった!まさか本当に幽霊なんてものがいるなんて!!!」
女の人は明るめの声で話す。
霊感があるわけではないのかな?
置かれたお茶をなんとかつかもうとする。
無理だ。
「それも私の分よ!」
ムカつく。
「これも彼のおかげなのかな〜…なんて!」
浮かれたような表情をする。
なんだ、リア充か。
「あの、俺多分何か未練があって幽霊になってるんだと思うんです…」
「そっかあ…でも、私にはどうする事もできないなあ。」
お茶を飲み干し、俺の目の前に置かれたお茶を手にとる。
「そうですよね…知らない人、いや、幽霊なんて気持ち悪いし…」
「そうゆう訳じゃないのよ?」
彼女はニッコリと微笑んだ。
訳がわからないよ?
「だって私、もうすぐあなたの仲間入りするから!」
満面の笑み。
「…は?」
「私、大好きな彼に殺されるの、これ以上嬉しい事はないわ!」
まさに惚気話を言う様に語る彼女。
ああ、僕は見つかるべき人を間違えてしまったかもしれない。
家は寝泊まりしていいと言ってくれた。
それだけでも十分ありがたい事だ。
未練って一体なんなんだろう。
思い当たるふしがない。
考えられるとしたら…
「淡い恋をしたかった…。」
このまま彼女と恋に落ちる…?
……彼氏に殺される事を喜ぶ女と?
「とてもじゃないけど無理かな…。」
そんな事考えて、数日がたった。
「…長い。」
もう、三ヶ月くらい過ごした気分だ。
学校は無ければ部活もない。
ましてや物にも触れない。
夜は暗くて何も見えないし昼になってもご飯を食べる事はない。
このまま、ずっと?
「ただいまー…あ、シュウヤくんただいま!」
真昼が微笑んでくれる。
真昼だけが、僕を見てくれた。
そんな真昼は、数日前より傷が増えた。
会った時はわからなかったが、腕をまくった時にタバコの後や切り傷が見えた。
それは日に日に増え、今では腕をまくらなくても見える場所にまである。
きっと、彼氏のせいだ。
真昼は優しい。
なんで、暴力をふる彼氏を好むのかわからない。
「真昼、その傷。」
ビクッとしてこっちを見る。
ばれた、の顔だ。
「手当しなきゃね。」
僕には何もできない。
二人の仲を知らないからやめなよとも言えないし、手当をする事だってできない。
僕は、無力だ。
傷に消毒液をかけながら彼女はつぶやいた。
「私、これでいいのかな。」
心が痛む。
口出しをしてはいけないような気がして。
「傷が痛いの。でも彼は、傷がつくたびに綺麗になったねって、可愛いって、大好きって言ってくれるの。でも、私死ぬの。」
ポロポロと言葉が口からでる。
多分、これまでずっとためていたことだ。
「彼、言ったの。殺した後も大切にするって、愛してあげるって。でも死んでるの……死んじゃうの、私は何もわからないじゃない…」
「死体はいつか、腐ってしまうじゃない。」
全部言い尽くした彼女はうずくまって声をあげて泣き出した。
僕は何もできない。
見ている事しかできない。
なんて声をかければ良いのか、わからない。
「ねえ、シュウヤくん。」
「…何?」
「私、愛がわからなくなっちゃったよ……。」
瞳から雨が降って、太陽のような笑顔は消えていた。