一ヵ所に一つの後悔を
気が付くと僕の通っていた学校にいた。
ここは玄関だ。
そうだ、こんな感じだったな。
僕は上へ『上がる』。
この廊下も懐かしい。
僕はゆっくり『移動』して、廊下を動き回った。
ここの掲示板はここが壊れてるんだよな。
この窓は固くて開けるのが大変だったな。
廊下を堪能した後は教室に『入る』。
あの窓からはグラウンドが一望出来るんだ。
席替えでは後ろ端を取り合ったっけ。
みんな元気にしてるのかな。
僕は今度はゆっくり上へ『上がる』。
屋上に出た。
ここでは友達と弁当を食べたんだ。
景色もよくて風も気持ちよかったな。
そうだ、裏の桜もきれい・・・。
桜?
なんだろう?何かがひっかかる。
「よう。思い残すことはないか?」
突然声が聞こえた。
振り向くとそこには一人の男がいた。
「ん?やり残したことがあるみたいだな。」
男は僕の顔を見て頷いた。
「いけよ。後悔なんてするんじゃないぞ。
そんでもっかい戻ってこい。」
僕は男に感謝の意を表して『飛び出した』。
学校裏の桜に一直線に向かう。
様々な記憶がよみがえる。
そうだあの娘と会ったのは廊下だった。
落とし物を拾って声をかけたんだ。
玄関では毎日のように会って世間話をした。
僕が冗談を言うと彼女は楽しそうに笑ったよな。
クラスの席替えは窓側の後ろから二番目を死守したっけ。
僕が手を振ると彼女は必ず手を降り返してくれた。
彼女に関する記憶が、まるで走馬灯のように思い描かれる。
桜の下には彼女が立っていた。
「遅いよ。」
ごめん、と僕は謝った。
それからいつかのように世間話に興じた。
「それで、」
「何か言いたいことがあるんでしょ?」
彼女はそう切り出した。
僕は頷いて少し深呼吸をした。
僕は君が好きだ。ずっとずっと好きだった。
「ありがとう。私も君のことが好きだったよ。」
彼女は笑い、薄く涙を流した。
彼女が消えた後、僕は泣いた。
「もう、やり残したことはないか。」
男は優しく話し掛けてきた。
僕は頷いた。もう一度男に感謝の意を伝えた。
「気にするな。それも俺の仕事の内だ。」
「お前はもう一人で『還れる』な?」
僕は頷いた。
「もう『還って』ゆっくり休め。疲れただろう。」
ありがと、さよなら。
「ありがとうか。んなこと言われる筋合いは無いってのに・・・。」
男の呟きが『誰もいない』校舎に静かに響いて霧散した。
『僕』がどんな存在なのかを考えてもう一度読み直すことを提案します
そこに新発見があるかも(笑)