線香花火
夏が来るたびに騒がしい夜が続く。子ども達の喧騒が暗闇で明るく萌えては儚く消える。夏の風物詩である花火を家族団らんで楽しんでいるのだろう。
花火の火薬がこと切れると子どもは寂しそうに「花火おわったー」と叫ぶ。買った花火を使い切った子どもたちは各々の家へ帰っていき、後には少し煙臭い夜の静けさが周囲を包み込んでいく。
頃合いを見て私は外へ出た。
私は夏に祖父母の家に帰省することを習慣にしている。そして、古めかしい祖父母の家の縁側。縁側に面する庭には自然と雨水が溜まるため池があり、そこに灯篭の明かりがゆらりと光っている。
プラスチックの音をガサゴソとすれば私の手元に線香花火が持たされた。ど派手な手持ち花火や置いて煌めきを映す噴射花火とは全く違う静かで儚い花火。
大人になってからこの線香花火をすることが特別なことに感じる。
さぁ、今年も火をともしていこう……。
一本目の小さな炎が揺らめき、僅かにはじけ始める。
私が子どもだった頃。やんちゃな私に付き添って笑いあった子がいた。実家からその子との家の距離は遠くなく、遊びに誘ったり、勉強をいっしょにしたりと幼馴染のような関係。線香花火を勝負のタネにして盛り上がったりもしていた。
「どっちが長くもつか勝負しよう!」「負けないぞ!」「あっ!」「僕のかち~」
瞼の裏に今でもあの時の思い出が鮮明に映し出され私は少し微笑んだ。
二本目。少し風に揺られて弾けた火花が暗闇に溶ける。
互いに成長してきた私たちは中学生になると、少し会話が減る。
「高校、どこ行くの?」
「……まだ決めてない」
「そっか」
三本目。少し火薬の量が足りないのか、炎が少し頼りなさげですぐにでも消えそうだ……。
高校生になると、進路が違ってくる。それでも、線香花火を夏の夜に密かに行うことは止めていなかった。
「来年は、ここにいないかも」
その子は突然言った。私は
「そっか」
としか返せなく、その年を最後に、私たちは会わなくなった。
三本目は勢いを無くし、次の四本目に火を着ける。
立て続けに線香花火をともしてはすぐに消していた。でも、この四本目だけは静かに見守った。
パチパチと音を鳴らし、水たまりに線香花火がゆらりと写されている。
ポトッ--。
縁側の灯りに照らされて、水たまりに落ちた火の玉が小さく弾けた。
ゆらりゆらりと波紋が広がり、やがて消えていく波をしばらく見ていた。
「今年の夏は、ちゃんと見れたな」
線香花火の煙が懐かしく感じさせた。




