第5章 少しだけ
指示は、前よりもさらに簡単だった。
「指定の場所で、荷物を受け取ってください」
「中身は確認しないでください」
「そのまま、次の指定先に置いて帰ってもらえれば大丈夫です」
時間は短い。
移動距離も、そんなにない。
前回と比べると、やることは増えている。
でも、説明は少ない。
不思議と、不安は大きくならなかった。
理由は分かっている。
もう一度やる前提で読んでしまっている自分がいた。
断る文面を考えなかったわけじゃない。
ただ、それを送った後のことを想像すると、面倒だった。
名前も、学生証も渡している。
今さら「やっぱり無理です」と言うのは、
何かを疑われる気がした。
荷物は、コインロッカーの中にあった。
番号と暗証番号が送られてきて、
言われた通りに開ける。
中には、小さな紙袋が一つ。
軽い。
拍子抜けするほど、軽かった。
それをリュックに入れた瞬間、
一瞬だけ、ニュースの記事が頭をよぎった。
不審物。
第三者。
調査中。
でも、すぐに消えた。
重ねる理由がなかった。
状況も違うし、場所も違う。
それに、
自分は中身を知らない。
知らないなら、関係ない。
そう考えるのは、自然なことだと思った。
指定された場所は、住宅街の中だった。
人通りは少ない。
置き場所は、敷地の端にある物置の前。
具体的すぎる指示に、逆に安心した。
言われた通り、紙袋を置く。
それだけだ。
インターホンも鳴らさない。
誰とも会わない。
写真を撮って送信すると、すぐに返信が来た。
「確認しました」
「ありがとうございます」
前回と同じ言葉。
違うのは、
自分の中の感覚だった。
終わったはずなのに、
その場を離れても、足が少し重い。
帰り道、何度も後ろを振り返った。
誰もいない。
電車に乗って、ようやく落ち着いた。
口座への振り込みは、当日中だった。
金額は、前より少しだけ多い。
ほんの少し。
その「少し」が、妙に現実的だった。
一線を越えた、というほどじゃない。
でも、前と同じでもない。
グレーの中で、
自分から一歩、踏み込んだ感覚。
夜、ニュースアプリを開いた。
あの記事の続報は、なかった。
それを見て、安心してしまった自分に気づく。
何も起きていない。
少なくとも、今は。
スマホを伏せて、天井を見る。
頭の中で、
「もしも」という言葉が浮かびかけて、すぐに消えた。
考えなくても、
明日は来る。
そうやって、
考えないことが、だんだん上手くなっていった。
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