第3章 条件変更
メッセージが来たのは、二回目の仕事の話をしていたときだった。
「次回もお願いできそうでしょうか」
一回だけのつもりだった。
そう言えば断れるはずだった。
でも、画面を見つめたまま、すぐには返事をしなかった。
理由は単純だった。
条件が、少しだけ変わっていた。
前回よりも説明が減っていた。
具体的だった部分が、曖昧になっている。
「前回とほぼ同じ内容です」
そう書かれていたけれど、**“ほぼ”**がどこを指すのかはわからない。
時間も、場所も、まだ決まっていない。
決まり次第連絡する、とだけある。
不安にならないような書き方だった。
慣れてきた相手に送る文章、という感じがした。
「詳細を教えてもらえますか」
そう返すと、少し間が空いた。
既読はつかない。
前回はすぐだったのに。
その間、何をしていたかというと、
特に意味もなく、ニュースを眺めていた。
朝、大学へ向かう準備をしながら、スマホでニュースを流し見していた。
地方の小さな記事だった。
見出しは短く、感情的な言葉も使われていない。
「不審物を介した事件について、警察は関連を調査中」
場所は、知らない駅名だった。
写真もない。
被害者の名前も出ていない。
記事を最後まで読んでも、何が起きたのかははっきりしなかった。
ただ、「第三者が関与した可能性」という一文だけが残った。
それだけだ。
スクロールして、次のニュースを見る。
天気。
芸能人の結婚。
値上げの話。
さっきの記事のことは、すぐに頭から消えた。
関係ない。
そう思う理由は、いくつもあった。
スマホを閉じて、講義に向かう。
ニュースの記事のことは、もう考えていなかった。
理由ははっきりしている。
結びつける必要がなかった。
駅も違う。
状況もわからない。
そもそも、自分は何もしていない。
落とし物を拾っただけだ。
誰かに渡したわけでもない。
そう考えることで、違和感は自然に薄れた。
午後になって、返信が来た。
「詳細は当日お伝えします」
「問題があれば、いつでも辞退可能です」
辞退可能。
その言葉を見て、少し安心した。
選択権は、まだ自分にある。
そう思えた。
それ以上、深く考えなかった。
考えないことに、もう慣れ始めていた。
スマホをポケットに入れて、歩き出す。
この時点では、
まだ何も起きていない。
少なくとも、そういうことにしておくことができた。
ありがとうございました。
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