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59.受け継ぐ想い



 ――翌日。

 私は進路希望の用紙を書き直して、再提出した。 

 担任は「遅いぞ」と言いながらも、にこやかに受け取ってくれる。

 あの頃、なんとなくぼんやり描いていた夢が、いまは鮮明に。


 そして、もう一つ。

 いまの自分に、やるべきことができた。

 

 職員室を出て、体育館に向かう。

 室内に漂う汗の香り、部員たちの熱気が、私の背中を押してくれるように思えた。


 賢ちゃんが倉庫からボールカゴを持って出てきた。

 私は息を呑み、彼の元へ駆け寄る。


「あれ? 今日はなにしに来たの?」


 賢ちゃんは少し驚いたように首を傾げた。

  

「あっ、あのね。バレー部の件で、大事な話があるんだけど」

「うん、なに?」


 手に汗を握りながら、うんと頷き、口を開いた。

  

「私、男子バレー部のマネージャーになりたいの!」


 爽やかな風が、開いている扉から差し込んだ。

 青空くんに言った時は、勢いだった。

 でも、いまは違う。

 ちゃんと自分の意思で決めて、やって来た。


「女バレ選手じゃなくて、男バレのマネージャーに?」


 賢ちゃんは、ボールカゴに両手をもたらせながら、目線を上げる。

 一度断られたから、少し弱気に。

 でも、やりたいのは選手じゃない。

 

「一度、青空くんに断られちゃったけど、いまは違う理由でやりたくなったの」

「ふぅん、どんな理由?」


 私は進路希望用紙に書いた夢を思い返す。


「青空くんみたいに人の縁を結んでいきたいから、私はこの部で、自分の力で、縁を結び続けたい」


 朝の個人練習から、部員募集のチラシ配り。

 青空くんの努力を見てきたからこそ、私も同じように支えになりたい。

 ……それが、いまの夢。


「ダメって言ったら、どうする?」

「えっ」

「部員は増えたから、チラシ配りもする必要もない。増えた人数で、そこそこ回していけるようになったんだよね」


 賢ちゃんは鋭い瞳で聞いてきた。

 私は、胸がドキッとして、俯く。


「……ダメ、でも……やりたい。……絶対に」


 拳を握りしめて、ゆっくりと賢ちゃんを見つめた。

 すると、賢ちゃんは砕けたように笑い、ボールカゴから一つボールを手に取る。

 

「ははっ、嘘だよ。お前たちって、ほんとに以心伝心だな」

「えっ……? な、なにそれ?」


 私はキョトンとしたまま、瞬きをした。


「実はさ、あいつから、美心がマネージャーをやりたいって言ってきたら、快く受け止めてほしいって頼まれたんだよね」


 ボールが飛んできたので、両手で受け取った。

 少しざらつく感触が、胸にじんわり沁みる。

 

「青空くんが、そんなことを……」


 先日断られた時との温度差に、喉がじわじわと熱くなる。

 

「あいつ、マネージャーを断ったことを後悔してた。始めるきっかけなんてなんでもいい。大事なのは、続けていくことだってね」


 あの時の勢い任せの宣言も、青空くんはちゃんと考えていてくれたんだね。

 

「そう、だったんだ……」

 

 チームの為に頑張りたい。青空くんの意志を受け継いでいきたい。

 やっぱり、青空くんは私よりも一歩先を進んでいるのかな。


「あいつからのメッセージを大事にしたくて黙ってた。歓迎するよ。男子バレー部へ、ようこそ」


 賢ちゃんの微笑みに、鼻の奥が熱くなった。

 握りしめているボールは、青空くんの想いそのもの。

 声は聞こえないけれど、このボールがすべてを伝えてくれる。

 

 ――次は、私の番だ。


 賑やかなかけ声と、弾むボールの音をバックに、決意を胸に刻んだ。

  

 賢ちゃんは、私を部長のところへ連れて行ってくれた。

 私は、用意してきた入部届を手渡す。 

 部員から拍手を受け、頬がほんのり温かくなる。

 

 これからは、自分の足で少しずつ青空くんに近づいていく。

 もう、心配なんてかけない。

 青空くんの穏やかな笑顔を思い浮かべながら、前を向いていこう。

 会えるかどうかわからないけど、もしまた青空くんに会えたら、お互い笑っていられるように――。


 


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