57.また会えると信じて
――青空くんがいなくなった翌日から、気づけば毎日、足が神社に向いていた。
この場所は、青空くんの想いが残っている気がする。
今日も、賽銭箱の前で手を合わせた。
ジリジリと焼き付く陽射しが、少しむず痒い。
虫の音を裂くように、カラスが一声鳴いた。
そんな中、目を閉じていると、隣に足音が止まった。
ふと横を見ると、そこには佐知が。
私と同じように手を合わせている。
「佐知……。どうしてここへ」
「昨日カフェを断ったのは、こういうことだったの?」
素直にこくんと頷く。
佐知は両手を下ろし、顔を上げた。
「美心の願いと言ったら、一つでしょ。どうして言ってくれなかったの?」
「……心配しちゃうかな、と思って」
これ以上、青空くんのことで心配はかけさせたくなかった。
すると、佐知は真剣な目で問いかける。
「どうして心配かけちゃダメなの?」
思わず言葉に詰まった。
佐知はそれを見て、小さくため息をつき、話を続けた。
「困った時に相談するのが、友達なんじゃない?」
その瞳は、過去の私に訴えているかのよう。
逃げた結果、すれ違いを生み出してしまったから。
佐知は私の手をすくいあげる。
その手は温かく、心臓の奥まで、見えないベールで包み込む。
「微力かもしれないけど、力になりたい。あたしも青空くんにもう一度会いたいんだよ」
佐知は、青空くんを見つめるように拝殿に目を向けた。
あの時、青空くんがこの関係を繋ぎ直してくれなかったら、この時間は存在しない。
「ありがとう……」
私の声は震えた。
唇を噛んでも、我慢していた涙が滲んでしまう。
「もしかしたら、戻ってくるのは難しいかもしれないけど、また会えたら、みんなでバカ騒ぎしたいね」
佐知はにっこり微笑んだ。
私は、ウンウンと首を縦に振る。
「美心の誕生日サボってなにしてたの? って問い詰めないと! おかげで、美心が人違いで恥ずかしい思いをしちゃったじゃないの」
「もう! それは早く忘れてよ〜」
クスクスと笑っていると、佐知もつられるようにふっと笑った。
「でもさ、仲直りの仲介役を買って出たり、廃部寸前のバレー部を救ったり。青空くんは、この一ヶ月間で、どれだけの縁を結んできたんだろうね」
青空くんの周りには、いつもたくさんの笑顔が並んでいた。
教室だけじゃなく、部活にいる時もそう。
『今日も頑張ろう!』って声を張り上げていたお陰か、いつしか頼られる存在に――。
「きっとまた会えるよ。だから、神様にお願いしてこ」
「うん。ありがとう」
青空くんが、この世界に残してくれたもの。
そのすべてが、私にとってかけがえのない宝物になっていた。
でも、胸の奥には小さな冷たい影が残っていた。
部屋の中のクゥちゃんは、間接照明を浴び、ただ黙って私を見つめている。
開かない口が、何かを伝えたいのに伝えられない、そんな切なさを抱えているようだった。
私はただ、しきりに声をかけ、ふんわりとした感触をこの手で抱きしめるしかない。
果たしてこの想いが、青空くんに届いているのだろうか……。
――翌日。
賢ちゃんも神社に来てくれた。
佐知が声をかけてくれたら、『どうしてもっと早く言ってくれなかったんだ』って、怒ってたみたい。
額をつたう汗が、日差しを浴びてきらめいた。
一つ深まった夏の香りに、私たちはそれぞれの想いを乗せて、手を合わせる。
「神様! どうか、また青空に会わせて下さい。お願いします!」
賢ちゃんの声が一際大きかったから、私と佐知は思わずプッとふきだした。
――次の日。
今度は部活仲間が。
その翌日には、クラスメイトが続々と集まった。
神社は、たくさんの笑顔で満たされていく。
賢ちゃんがみんなに声をかけてくれたらしく、そこから広まっていった。
そこで改めて思い知らされた。
青空くんが結んできた、縁の深さを。
私たちの気持ち、神様に届いてるかな。
もし、届いてるとしたら、青空くんにも一緒に届けてくれないかな。
……あの日のように、なに食わぬ顔で、また私の前に現れてほしい。
空を見上げたら、二羽のツバメが通り過ぎていった。
私の想いを、空に向かって乗せていくかのように。




