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51.守りたい人



 ――翌日。青い空に浮かんでいる太陽が、僕の心をより輝かせている。

 美心との約束の一時間前。

 人の流れに乗り、街の騒音に包まれていた。


「美心の誕生日プレゼント、なににしようかなぁ」


 目先に雑貨店があったので、店内へ。

 中央の陳列棚に見えたのは、ネックレスコーナー。

 服の中から取り出したネックレスを、じっと見つめる。


「似たようなネックレスにしようかな。女の子だからハート形がいいよね」


 この鈴に似たようなものはない。

 神社近くの雑貨屋で売ってた気がするから、行ってみようかな。

 頭の中は、美心が喜ぶ顔を想像している。


 約束場所に近い、雑貨屋に到着。

 個性的な鈴がぎっしり並んでいる。


「お兄ちゃん、鈴を探してるの?」


 ひげが生えたいかつい中年男性が、僕の前に立つ。

 

「ハート型の赤い鈴を探していて」

「あるよ。うちは同じ模様が一つもないから、よく見てから決めるといい」


 僕は大量の鈴の中から、ハート型の赤い鈴を拾い上げて、レジへ向かった。

 腕時計を見ると、約束の時間まであと十分。 

 少し早いかな、と思いながら店外へ。

 


 信号の前で足を止めた。

 向こう側に美心の姿が見える。

 彼女も今日の映画を楽しみにしてくれていると思ったら、胸が弾んだ。

 

 彼女も僕に気づき、手を振りながら渡ってくる。

 信号は青の点滅。

 だが次の瞬間、向こう側からやってきたトラックが、美心すぐ隣へ。


 「美心!!」


 僕は悲鳴混じりの声で叫んだ。心臓がドクンと響く。じわりと汗が滲む。

 彼女は気づく様子もなく、こっちへ向かってくる。

 僕は走った。トラックの手前で彼女の体を押し、歩道側へ。

 次の瞬間、目の前が真っ白に――。

 急ブレーキの音ともに、僕の体が車体へぶつかった。


 ドンッッ……!


 僕の体は、地面に叩きつけられ、転がる。

 人間になってから、初めての強い衝撃。

 思わず息が止まる。


 辺りは騒然としていた。

 鼓動が頭に響き、生ぬるい風が、撫でるように体を痛めつけている。

 クラクションや、叫び声。

 次々と耳に入ってくるように。

  

「う、そ…………」


 彼女のかすれた声が届く。

 僕へ駆け寄ってくると、太陽の日差しを遮りながら、ゆっくりと顔を覗かせた。


「青空くん……。私の声、聞こえる」


 タイヤの焦げる香りが漂ってくる中、僕はお腹から声を振り絞った。

 

「うぅっ……うん、聞こえるよ……。美心は、大丈夫だった? ケガ、してない……?」


 見る限り平気そう。

 ほっとして、目を細めた。

 車の扉が開く音が、耳に届く。

 

「わ、私は……大丈夫……。そ、それより、いいい……いま、救急車……呼んでくる」


 彼女の顔は真っ青だ。 

 動揺しているせいか、全身が震えていて、顔色が悪い。

 手を握ってあげたかったけど……いまはできそうにない。

 

 トラックの男性運転手が駆け寄ってきた。

 彼女は「はっ、早く救急車を!」と、涙ながらに訴えている。


 男性は電話をかけ、彼女は揺れたままの手で、僕の手を両手で握りしめた。

 冷たく震えている手。

 瞳は、涙で埋め尽くされていた。

 もう二度と、泣かせないと思っていたのに。

 

 僕は呼吸が乱れ、目が霞んでいく。


「美心が、無事で……よか……った」


 呟き終えると同時に、意識が朦朧とし始めた。

 震えていた指先は、地面に落ちる。

 

「青空くんっ! いやぁぁああ!!」


 彼女の声が、騒然としている現場に響き渡った。


 でも、僕はホッとしていた。

 美心の体が無事だったから。


 残念だけど、映画の約束、守れそうにない。

 目一杯おしゃれしてくれたのにね。


「お願い……。誰か、青空くんを助けて……」

 

 美心の温もりだけがかすかに残っていた。

 指先に残る感触を、忘れたくない……。

  

 

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