49.静寂のあとに
――夜二十一時過ぎ。
間接照明の影が、私の暗い心を静かに浮かび上がらせている。
静寂に包まれた部屋に、深いため息が一つ零れ、心の中が渦を巻いた。
青空くんが、私に気がないことを知ってから、心に鉛が乗ったような気分になった。
私はベッドに置いてあるスマホを取って、佐知に電話をかける。
「佐知……。ごめん。いま電話、いい?」
『大丈夫だよ。なにかあった?』
暗い声だったせいか、佐知の心配そうな声がスピーカーから届く。
「青空くん、私のこと、怒ってないかなぁ」
彼のことを考えていたら、自然と声が震えて、息が乱れた。
今日も丸一日、彼のことばかり考えている。
『どうして?』
「俵さんとの会話を聞いて、勝手に怒って、酷い態度を取っちゃったし」
映画のチケットを渡せば、「一緒に行こう」って快く言ってくれるような気がしていた。
でも、それは自分の思い上がり。
私のことを何とも思ってないなんて、聞きたくなかった。
一瞬だけでも期待していた分だけ、虚しくなるばかり。
『そんなことないよ。美心がいなくなってから、青空くん動揺してたし。きっと、俵さんに本音を隠したかったんじゃない?』
佐知はなだめようとしてくれているけど、あの時のことを思い出すだけで、胸がきゅっと締めつけられた。
「わからない。……でもね、間接的に聞かされて、余計にショックだった」
窓の外から聞こえてきたクラクションが、暗い気持ちをより追い込んでくる。
「思い上がってたのかもしれない。青空くんは、いつも優しかったから」
あの優しさが当たり前だと思っていた。
だから、きっと甘えてたんだと思う。
『美心は青空くんのこと、本気で好きなんだね』
その言葉を聞いた瞬間、目をハッと見開いた。
想像以上に胸に響いている。
「最初はなんでつきまとうのか疑問だった。でも、気づいたら、好きになっていた……」
一番近くで笑顔を見たいし、そのあたたかい手に触れたい。
私だけを見ていてほしかった。
『じゃあ、もう少し頑張ってみようか』
胸がドキッとした。
ここ数日、諦めかかっていたせいかもしれない。
『この言葉、実は青空くんがあたしに言ってくれたの。美心とケンカしていた時にね』
「青空くんが、そんなことを……」
安心する部屋の香りに包まれ、ため息とともに少し心が軽くなった。
『逃げちゃダメ。熱意を伝え続ければ、きっと届く。……あたしみたいにね。青空くんは美心に笑顔になって欲しいんだから』
ベッドから立ち上がり、チェストの上にあるクゥちゃん写真立ての前に立った。
優しい瞳が、頑張れと言っているかのように、私を見つめている。
その瞬間、青空くんの笑顔がふっと浮かんだ。
いつしか忘れていた。
私が笑顔になることを、彼が一番に願っていた。
なのにここ数日間、笑っていない。
きっと、青空くんはこんな私を望んでいない。
なのに、私は嫌な態度を取ってしまった。
早く謝らなくちゃ……。
明日、必ず笑顔で向き合う。
絶対に仲直りしなくちゃ。
電話を切ると、部屋は再び静寂に包まれた。
間接照明の柔らかな光が、涙で曇った心をそっと照らしている。




