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39.光差す体育館



 ――放課後。

 床を擦る靴音が入り交じる、汗のにおいと外気の熱が渦巻いている体育館。

 僕は入部したての柳井くんと、トス&スパイクの練習をしていた。


 カゴの中のボールが空になり、散らばったボールを拾い集めに行く。

 そこで、前方扉のところにいる男子生徒と目があった。

 僕は拾ったボールを脇に抱えたまま、彼のそばへ。

 

「もしかして、見学希望者ですか? 良かったら中へどうぞ」


 たずねると、彼は少し遠慮がちに館内へ。


「チラシを見て来たんです。ちょっとバレー部が気になって」


 僕は心臓が跳ねた。

 

「えっ! ありがとう!」


 あのチラシに、人を呼び込める力があったなんて。

 床に捨てられて、気持ちが踏みにじられたこともあったけど、読んでくれる人もいたんだ。

  

「でも、僕はバレーボール未経験者だし、入部してもみんなのレベルについていけるかが心配で……」


 少し不安げな表情の彼を見て、初めてここへ来た時のことを思い出す。

 でもその時は、先輩や賢ちゃんが背中を押してくれた。

 だから、次は僕の番だ――。

 

「大丈夫! 僕も初心者です。ちなみに何年生ですか?」

「いっ、一年の本多です」

「本多くん、よかったら、ステージの近くで見ててね。いま僕が部長に声かけてくるから」


 部長にひと声かけに行くと、部長は本多くんの方へ駆け寄って行き、バレー部の説明を始めた。

 それは、つい先日の僕を見ているかのよう。

 練習中の賢ちゃんは手を止めて、僕の方へ駆け寄ってくる。


「もしかして、あいつ見学者?」


 賢ちゃんは、見学者と部長の方を見つめた。

 

「うん、チラシを見て来てくれたんだって」

「マジかぁ〜! やったな。チラシ効果抜群じゃん!」


 満面の笑みでハイタッチを求めてきたので、僕は頬を緩ませて、パチンと手を合わせた。

 ……でも僕は、まだ満足していない。

 

「賢ちゃん。市の大会にエントリーするには、八人くらい必要なんだよね」

「そ。あともう一人入ってくれればなぁ〜」


 賢ちゃんは、僕が試合に参加すると思っている。

 最低でもあと二人部員を集めなければならないということを、まだ知らない。

 人数が集まらなければ、こんなに沢山練習しても、全部無意味に。


「僕、昼休みもチラシ配りをしてみようかな」


 少し焦っていた。

 思いの外、人数が集まらないから。

 現段階で、大会のエントリーが間に合うかどうかわからないし。

 

「はぁ?! お前の休み時間が減るぞ?」


 賢ちゃんは心配そうに見つめてきた。

 僕は唇をぎゅっと噛み締め、首を振る。

 

「心配してくれてありがと。でもさ、購買近くで配ったら、チャンスが増えるんじゃない?」


 最近思っていた。

 人が密集しているところで配れば、少しは受け取ってもらえるんじゃないかと。

 

「でもさ、おまえ一人で背負う問題じゃないだろ」

「大丈夫。僕はこうやって練習風景を覗きに来てくれる人がいるだけで嬉しいし」


 見学に来てくれた本多くんを見つめ、ふっとため息をもらした。


 きっと、僕はみんなにお別れが言えない。

 それどころか、突然姿を消すだろう。

 もしそうなった時、残された部員は大きな課題が待っている。


「おまえってさ、本当にいい奴だよな。……マジで頭が上がんねぇよ」

「大げさだって。仲間が増えたら、もっとチームが強くなれるかもしれないでしょ?」


 バレー部に入部してから、たくさんの経験を積んできた。

 技術はもちろん、団結力や、思いやり。それに、仲間を信じる力。

 それが僕にとって、最高に輝かしい瞬間でもある。

 

「だな。じゃあ、俺も手伝うよ」


 賢ちゃんは、僕の肩にポンと手を乗せた。

 

「賢ちゃん……」

「あったりめぇだろ! お前の親友だから、さ」


 そのひとことひとことが、僕の気持ちを揺るがせていく。

 人間の優しさが、こんなにも幸せを運んでくるなんて――。

 

「高槻、さっきの子、教室まで体操着を取りに行ったよ。ちょっと練習していくって」


 部長は嬉しそうな顔で、僕たちの方へ駆け寄ってきた。

 扉の方を見ると、先ほどの生徒が館外へ出ていく姿が見える。

 

「本当ですか?!」

「青空、やったなぁ! チラシ配った甲斐があったぜ」


 賢ちゃんが僕の両肩を掴んだまま喜んでいると、部長は僕と賢ちゃんの肩に手を添えた。

 

「高槻、賢。いつもチラシ配りをありがとう」

「いえ、そんな……」

「立派な後輩がいてくれるから、僕は引退まで頑張れるよ。あとは、任せたからな」


 先輩は、僕たちの肩をポンポンと叩くと、軽く走りながら、コートの中に戻っていった。


「よっしゃ、気合入れていくぞ〜!」


 部長は声を張り上げ、気合を入れ直すかのように手を叩いて、みんなを見渡す。

 

 活気ある声が溢れている、コート内。

 シューズが擦れる音、ボールが叩きつけられる音、みんなのかけ声。 

 それが一つ一つ増えていくのを、この胸で感じていた。

 窓から差し込む光が、みんなの笑顔をよりいっそう輝かせている。


 ボールが叩きつけられ、床に弾む。

 レシーブが決まると、頭上でハイタッチし、キラキラした笑顔が舞っていた。


「本多くん。飛んできたボールを取るときは、肘を伸ばして、前腕を揃えて」

「こうですか?」

「もっとまっすぐ」


 見学の本多くんは、さっそく堤先輩に隣でアンダーレシーブを教わっている。

 それを見て、ふっと笑みが溢れた。

  

 ――僕も試合に出たい。

 でもあと少しで、体が動かなくなる。

 感情は残っているのに、見ることも、みんなで一緒に動くことさえ――。

 その分、心の中で応援し続けたい。


 多くの声援に囲まれ、一人一人が活躍し、お互いの実力を認め合う。

 目の前にあるのは、ボールが四方八方に転がっていくコート。

 体育館の隅に残されたボールは、みんなの活気を浴びていた。

 


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