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35.届いた想い



 ――四時間目の体育の授業中。

 僕のクラスは、男女それぞれ別のコートに分かれて、バレーボールの練習試合をしていた。

 ボールが響く音に加えて、それぞれの声援が体育館内を賑やかせている。

 

 順番が来て、僕がサーブの番に。

 部活とは違い、みんなの目線が僕の手元へ。

 指先が僅かに震えたけど、いつも通り、息を吸い込み、ボールを頭上に投げ、狙いを定め、スパイクを打ち込んだ。

 ボールが相手コートへ落下すると、体育館は静まり返り、拍手が湧き起こる。

 この充実感が、僕の胸を熱くさせた。

 

 選手交代になり、ステージ前に置いていたタオルを取りに行く。

 女子二人組が、僕の前へやって来た。


「高槻くんって、バレー部なの?」

「すっごい上手だったよ!」


 僕は褒め言葉に照れ臭くなって、頭をかいた。

 仲間からの褒め言葉とは、また違うから。

 

「ありがとう。部活を始めて二週間くらいだから、まだまだだけどね」


 笑顔で答えていると、後ろから賢ちゃんが肩を組んできた。


「こいつさ、飲み込みが早いんだよな〜。センスあるかも」

「賢ちゃん、大げさだって。みんなが丁寧に教えてくれるおかげだよ」


 初日はボールすら触れなかった。

 でも、練習を重ねてきたおかげで、いまはみんなから喜んでもらえるほど成長している。

  

「高槻くん、バシッってレシーブ決めた時は、最高にかっこよかったよ!」


 女子たちがきゃあきゃあ騒いでると、賢ちゃんは目を輝かせた。

 周りを見渡し、その足でコート中央に向かっていく。

  

「よかったら、みんなバレー部に入ってー!! 部員大募集中! 男子も女子も大歓迎!」


 手を叩きながら、ここぞとばかりに大きな声で宣伝をする。

 体育教師がそれに気づき、眉山を尖らせながら賢ちゃんの元へ。


「足利ぁ〜!! 授業中に部活の宣伝するんじゃない。授業が終わってからやりなさい」

「はぁ〜い」


 賢ちゃんはふてくされながら返事をすると、体育館はドッと笑いに包まれた。

 一緒に笑っていると、視界の端から誰かがこっちに走ってくる。

 「青空くん!」とかけてきた声は、僕の前で止まった――柳井くんだ。


「さっきのスパイク、マジで最高だったよ! 相手の選手もビビってたし」

「そうかな……。ありがとう」


 僕は自然と頬が緩んだ。


「俺さ、授業でしかバレーをやったことないんだけど、一度バレー部の練習を見に行ってもいい?」


 驚いた目で柳井くんを見ると、一重の瞳の奥は薄い光が帯びている。

 

「えっ! 来てくれるの?」

「運動系って興味がなかったんだけど、青空くんのすごいスパイクを見たら、興味が湧いたよ」


 チラシの手応えは薄かったけれど、柳井くんの言葉に、努力が報われた気がした。


「ありがとう。もしよければ、午後の練習見に来ない?」


 期待を込めた瞳を向けると、柳井くんは目をぱっと輝かせた。

  

「えっ! いいの?」

「うん! 体操着を持ってきてくれれば、練習も参加できるからね」


 ほっとしていると、賢ちゃんが「柳井、待ってたよ〜」と言い、彼の肩を組んで、バレー部勧誘の話をしながら離れていった。


 その背中を見て、今日までの努力が実を結んだことを知り、ほっと一息ついた。

 視界の隅から、美心がボールを持ったまま、こっちへやって来た。

 僕は穏やかな目を向ける。

 

「良かったね。部員が増えそうで」

「まさか、授業中にバレーに興味を持ってもらえるなんて思わなかったよ」

「たしかに! でも青空くん、さっきは本当にかっこよかった。スパイクを決めた時は、特にね」


 美心は照れくさそうに口を結んだ。

 僕は思わず笑みがこぼれる。


「青空くんの頑張りが、みんなに届いたね」

「だと、いいな。美心も気にかけてくれてありがとう」

「そっ、そんな……。私なんて、なにもできてないし」


 美心は頬を赤くし、目線を落とした。

 そんなところが、僕の胸の奥を刺激してくる。

 やっぱり、恋……なのかな。

 

「美心が、『頑張ってね!』って言ってくれたでしょ。それだけで充分力になったよ」

 

 コート内から「青空ー!」と手招きで呼ばれた。

 目を向けると、みんながコート内でスタンバイしている。

 

 「いま行くー」と答え、彼女の頭をポンポンと叩き、彼女の笑顔を胸に刻んだまま、コートへ向かった。

 手のひらに残る温もりは、このまま記憶に押し込める――それが、正解だから。

 振り向きざまに彼女へニコリと微笑み、拳に力を込め、コートに飛び込んだ。



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