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31.花火色の友情



 ――放課後。私と佐知は肩を並べて、学校の校門を出た。

 真っ青な空が、やけに眩しい。


 佐知との五年間の隙間を埋めるには、まだ時間がかかるかもしれない。

 それでも私は、佐知の隣で、前を向いて歩いている。


「高槻くんって優しいよね。美心が高槻くんを特別に思う理由がわかった」


 佐知は、穏やかに目を細めた。

 なんだか照れくさい。自分のことでもないのにね。

 

「えへへ。青空くんって、クッションみたいに柔らかく受け止めてくれる存在かもしれない」


 青空くんのことを考えるだけで、不思議と安心感が広がっていく。

 

「自分の弱さから逃げないようにって気づかせてくれたのは、高槻くんだけ。解決策だけを考えていた自分が、恥ずかしくなっちゃう」

「そうだね。青空くんがいなかったら、私も話を聞けなかったから」 


 彼の言葉が思い浮かばなかったら、きっと佐知のことを責め続けていただろう。

 

「……いいな。あたしも高槻くんと友達になりたい」


 佐知は軽くまぶたを伏せたまま呟いた。

 この声には、まっすぐな想いが滲んでいる。

 

「青空くんと出会うまで、異性の友達なんてありえないって思っていた」


 振り返れば、彼はいつも傍にいてくれた。


「でも、気づいたら、仲良くなってた。不思議だよね」


 私がどんなに反発しても、青空くんは笑顔で優しく包み込んでくれる。


 自分を理解してくれる、特別な存在。

 青空くんのことを思い返してフフフと笑っていると、佐知は腕で小突いてきた。

 

「美心ってさ、実は高槻くんのことが好きなんじゃない?」


 ニヤリとした目を向けられると、私はビクンと体が揺れた。

  

「そ、そんなんじゃない! ぜ、全然っ! ただの友達」


 好きだなんて……、意識したことないし。

 

「ほんとに? さっき、あたしと高槻くんの関係を勘違いした時、悲しそうにしてなかったっけ?」

「ま、まさか! 私たち、そういう雰囲気じゃないし」


 否定はした。

 けれど、理科室で二人が話をしていた時は、景色が霞んで、心が遠く置き去りにされてしまったかのように胸が締めつけられた。

 二人に恋愛感情があると思い込んでいたせいかもしれない。

 でも、ふとした瞬間に、青空くんの言葉が浮かび上がることがある。


「恋ってさ、気づかないうちに始まってるものだよ。ひょっとしたら、美心はもうすでに……」

「もぉ! やめてよぉ。勝手に推測しないで!」

「あははは……、あ! これ見て」


 佐知の視線が、道端の掲示板に吸い寄せられて、足を止めた。

 私は「なに?」と言って、同じ方向を見つめる。

 掲示板には、一枚の大きなポスターが貼られていた。


「花火……大会?」


 目でなぞって、声に出した。

 

「もうこんな時期か。今年も3000発が打ち上がるんだぁ。あ、花火大会明後日じゃない?」

「今週末だったんだね」

「ねぇ! 今年は四人でこの花火大会に行ってみようよ」


 佐知は私の腕を引いて、声を弾ませた。

 

「えっ、四人? 私と佐知と……他の二人は?」


 きょとんと首を傾げた。

 軽く思い返しても、私たちの接点がある人は見つからない。


「高槻くんと足利くんは、どう? 盛り上がりそうじゃない?」

「でも、佐知って、青空くんたちとあんまり話したことないんじゃない?」


 佐知は普段、女子五人の仲良しグループで行動している。

 なのに、さっき仲直りしたばかりの私と、あまり関わりのない青空くんたちを誘おうとしているから。


「もしかして、あたしが高槻くんを好きになっちゃいそうで怖い?」


 佐知は不敵な笑みを向けた。

 私の気持ちを試しているかのように。


「そんなの、私には関係ないし!」

「はぁ〜ん……。ムキになっちゃって。もしかして、正解?」

「違うってば! 本当に!」


 顔を真っ赤にしながら否定した。

 佐知はそれを見て、「あっはっは」と声を出して笑う。


「冗談だよ! ……でも、花火大会は年に一度だから、これを機にお二人と仲良く出来ればいいな」

「そうだね。賛成」


 私も、佐知が青空くんたちと仲良くなってくれることを願ってる。

 青空くんたちは、私にとって大事な存在だから。

 

「せっかくだし、浴衣でも見に行かない?」

「まだ青空くんたちに話してないのに、気が早くない?」


 と言いつつ、頭の中で花火大会を考えていた。

 友達との思い出が重なっていく度に、古い殻を脱ぎ捨ててよかったと思っている。

 これも、全部青空くんのおかげ――。

 

「誰も買うなんて言ってないよ。見に行くだけだからぁ〜」

「もぉ〜。それが急なんだってば」

「行こ行こ〜! 高槻くんに、美心の可愛い浴衣姿見せてあげないとねぇ」

「ホントに、そんなんじゃないって!」


 すっかり花火大会に行く気になっている佐知は、私の手首を掴んで駅の方へと向かった。

 少しずつ、心の距離を縮めていくかのように……。


 ――夜。

 自宅で浮かれた気分のまま、チェストの上にある写真立てに飾られている、クゥちゃんの前に立った。

 

「クゥちゃん、あのね。ケンカしていた友達と仲直りできたよ。最初から私が話を素直に聞いていたら、こんなに仲が拗れなかったのにね」


 素直に話を聞くって、想像以上に難しい。

 感情に負けて、耳を閉ざしてしまうから。


 思いどおりにいかなくて、傷ついたり、落ち込んだり。

 弱気になることがあるけれど、それでも立ち上がる力はあった。

 自分でも驚くくらい。

 

「私ね、いま幸せだよ」


 青空くんのおかげで聞く耳を持つことができたし、佐知と仲直りできた。

 

「……だからクゥちゃん。私、少しずつ前を向いてるから、早く戻ってきてね」


 きっと私、前よりもっと優しくなれたと思う。

 もう一度、会えたらいいな――。



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