27.心のブーメラン
――昼休み。
教室は笑い声に包まれていた。
時おり、食べ物の香りが入り混じっている。
青空くんは、ついさっき告白されたばかりなのに、私の正面で何事もなかったようにおにぎりを頬張っていた。
教室内に半田さんの姿はない。
「青空くん。恋愛に興味がないって、どういうこと?」
気づいた時には、頭の中でこだましていたことが口から溢れていた。
盗み聞きをしていたなんて、思われたくないのに。
サーっと血の気が引いていくのがわかる。
青空くんはペットボトルを外すと、盛大にゴホゴホとむせた。
「何の話? 青空が、誰にそれを言ったの?」
賢ちゃんは興味津々な目を、青空くんに向ける。
相手がクラスメイトということもあって、控えめな声で二人に顔を近づけた。
「青空くん、さっきクラスメイトに告られてたでしょ。私、見ちゃったんだ」
「マジ?! 誰に告られたの?」
賢ちゃんは目を輝かせながら、青空くんの肩をポンと叩いた。
青空くんは頬杖をつき、頬を赤く染めたまま唇を尖らせる。
「しっ! 賢ちゃん、もっと小さい声で!」
私は口元に人差し指を当てた。
「わりぃ。つい……」
賢ちゃんは前かがみになってコソコソ喋っていると、青空くんはため息をついた。
「そのまんま。恋愛する気はゼロ。他に優先したいことがあるから」
青空くんは、目線をペットボトルを見つめながら、そっと蓋を閉じた。
やっぱり、部活や勉強が忙しいだけだと思っていたけど、女子の視線に気づいていないのかな。
「他に優先したいこと……? なに、それ」
賢ちゃんはきょとんとして、首を傾けた。
「美心に友達と笑顔を増やしてあげたいなって。美心ってさ、笑ってる顔の方が似合うからさ」
青空くんはペットボトルを片手で支えたまま、にかっと笑う。
「えっ、私っ?!」
心臓が跳ねた。
頭の中で問いが渦を巻き、答えは見つからない。
なんとなくそうかな、と思った時はあったけど、勘違いしたくないから否定してきた。
冷静に考えると、”友達として”なのか、”恋愛として”なのか、心の中で線が絡まったまま解けない。
思わず目線が転がった。
賢ちゃんは顔を傾け、青空くんの肩に手を置いた。
「おいおい、今のって美心への公開告白じゃねぇの?」
賢ちゃんの目があまりにも真剣だったせいか、青空くんはぷっとふきだした。
「別に告ってないよ? 友達ならさ、いつも笑っていてほしいと思うんだ。普通じゃない?」
さらりとした答えに、私の妄想が煙のように消えた。
一瞬高鳴った心臓が、勘違いに気づいたように安定する。
同時に、教室内の笑い声が耳に飛び込んできた。
深い溜息をつき、再びお弁当を箸で突っついた。
「そうだけどさ、恋愛より先じゃないだろ」
「優先順位はトップだよ。……時間は、限られているし」
青空くんは震えた声で言った後、ハッと目を見開き、目線が流れた。
まるで秘密を漏らしたような様子。
時間は限られてる? それ、どういう意味だろう。
そういえば、青空くんは家族のことや、どこに住んでるかとか。
どこから引っ越してきたのかは一度も言ってない。
「時間は限られてる……。どういうこと?」
私は聞いた。
教室のざわめきが聞こえなくなるほど、その意味を考える。
「ご、ごめん。ただのひとりごと……」
青空くんは苦笑いをしながら、震えている手でもう一つのおにぎりを掴んだ。
私は時間のことを考えながら、彼の手元を見つめていた。
「言えよ〜。俺たち、親友だろ」
「ほ、本当に何もないってばぁ!」
結局、最後までその意味を教えてもらえなかった。
そのひとことが、青空くんの重大な秘密に繋がっているなんて、夢にも思わなかった。




